平成25年度プラズマ・核融合学会賞

平成25年度学会賞選考委員会
委員長:小森彰夫(副会長) 委員:安藤 晃(東北大),草間義紀(原子力機構),白神宏之(阪大)
委嘱委員:石原 修(横国大),上田良夫(阪大),岡野邦彦(電中研),岸本泰明(京大),兒玉了祐(阪大),佐野史道(京大),間瀬 淳(九大)

第21回 論文賞


受賞者 稲垣 滋(九大),徳沢季彦(核融合研),伊藤公孝(核融合研),居田克巳(核融合研),伊藤早苗(九大),田村直樹(核融合研),榊原 悟(核融合研),糟谷直宏(九大),藤澤彰英(九大),久保 伸(核融合研),下妻 隆(核融合研),井戸 毅(核融合研),西村征也(核融合研),荒川弘之(原子力機構),小林達哉(九大),矢木雅敏(原子力機構),田中謙治(核融合研),長山好夫(核融合研),川端一男(核融合研),須藤 滋(核融合研),山田弘司(核融合研),小森彰夫(核融合研)
対象論文 Long Range Temperature Fluctuation in LHD
Plasma Fusion Research, Vol.6, 1402017 1-9 (2011)
選考理由 これまで,非局所輸送の機構の解明が大きな課題であった.本論文は,大型ヘリカル装置 LHD において,様々なプラズマ乱流の計測法と解析法を駆使して,低周波でプラズマ半径サイズの巨視的な電子温度揺動を発見し,その発生機構や熱輸送 における役割を論じたものである.著者らは,揺動間の相関解析により,その電子温度揺動は,プラズマ小半径と同程度の相関長を持ち,半径方向へ伝播することを発見するなど,低周波の電子温度揺動の時空間的な構造を初めて明らかにした.さらに,バイコヒーレンス解析により,電子温度揺動が局所的なミクロ乱流と非線形結合していることを見出した.この非線形結合から示唆されるミクロ揺動から巨視的な揺動へのエネルギーの移転による熱輸送は過渡的輸送現象において重要な役割を果たしており,巨視的揺動は,高速過渡現象の原因の一つであることを示した.以上のように,この論文は,プラズマ乱流の描像をミクロからマクロまで含むものに拡張するとともに,輸送流速のヒステリシスの発見,過渡的輸送機構の理解など,その後の研究の新展開をもたらした.これらの理由により,本論文は論文賞に相応しいと判断した.

第21回 論文賞


受賞者 高村秀一(愛工大),大野哲靖(名大),梶田 信(名大)
対象論文 Formation of Nanostructured Tungsten with Arborescent Shape due to Helium Plasma Irradiation
Plasma and Fusion Research:Rapid Communications, Vol.1, 051 (2006)
選考理由 核融合炉におけるプラズマ対向材料として,トリチウム吸蔵が少なく高い熱負荷に耐えうる高融点材料であるタングステン材の活用が検討されている.申請者らはスパッタリング閾値以下の低エネルギーヘリウムプラズマ照射によってもタングステン材料の表面構造が変化し,ヘリウムバブルホールが形成することを明らかにしている.さらに照射によって繊維状のタングステンナノ構造体の形成も確認され,この構造が熱伝導率を著しく低下させ耐熱特性が劣化することが指摘されるなど重要な知見を得ている.本論文は2006年の論文であるが,ナノ構造体の形成を初めて見いしたもので,その後の一連のタングステン材照射研究の端緒となった論文であり,近年のプラズマ対向材料研究に資するところが大きく,論文賞に値するものと認められた.

第18回 技術進歩賞


受賞者 中山和也(中部大),岡島茂樹(中部大),川端一男(核融合研),秋山毅志(核融合研),田中謙治(核融合研), 徳沢季彦(核融合研)
対象実績 高密度・大型核融合装置のための二波長同時発振型短波長遠赤外レーザーの開発とその応用
プラズマ・核融合学会誌Vol.87, No.12, 801 (2011)
選考理由 プラズマ実験装置の大型化やプラズマの高密度化により,電子密度やプラズマ電流分布を計測する干渉・偏光計の光源となる遠赤外レーザーの高度化が重要となっている.候補者のグループは,遠赤外レーザーを用いた干渉計測の重要性にいち早く着目し,レーザー自体のみならず検出器,素子,計測法などもカバーしてその技術を蓄積してきた.遠赤外領域としては比較的短波長で開発が困難とされてきた 50 μm 帯において安定な出力を実現し,特に二波長同時発振による干渉計として実用レベルに達した功績は大きい.他分野からも注目されている技術であり,次期大型装置プラズマ計測への応用など核融合分野への貢献が期待されるものであり,本学会の技術進歩賞にふさわしい成果である.

第18回 技術進歩賞


受賞者 下妻 隆(核融合研),高橋裕己(核融合研),久保 伸(核融合研),吉村泰夫(核融合研),伊神弘恵(核融合研),小林策治(核融合研),伊藤 哲(核融合研),今井 剛(筑波大)徳沢季彦(核融合研)
対象実績 ジャイロトロンの高効率化運転によるマルチメガワット ECRH システムの構築とプラズマの高電子温度化への貢献
Plasma and Fusion Research 7, 1205154 (2012)
選考理由 大型ヘリカル装置 LHD においてジャイロトロンの高出力化を進めてきたが,当初,電子ビームの空間電荷効果により,ビーム加速電圧が所定の電圧に達せず,出力が上がらなかった.本研究チームは,アノード電圧の2段階立ち上げによって出力を増大できることを見出し,さらに,それを最適化することにより,ジャイロトロンの高出力化と高効率化を達成した.第1段階においてアノード電圧を規定電圧より低い電圧まで上げ,ジャイロトロン内の残留ガスの電離で発生したイオンで電子ビームの空間電荷を部分的に中和することによって,電子ビーム加速の電圧降下を打ち消す.そして,引き続く第2段階で規定電圧まで上げることにより,電子ビームの反射が起きない,高効率で安定な運転を可能にした.その結果,窓出力として世界最大級の 2 MW を達成した.LHD の全てのジャイロトロンに2段階立ち上げ法を適用し,また,伝送系の高効率化を合わせて行い,全出力 5.2 WM,LHD への入射パワー 4.4 WM を達成した.ECRH を用いた LHD における電子加熱により,電子温度 13.5 keV の高温度プラズマの実現,内部輸送障壁の形成による閉じ込め改善およびその輸送研究の進展など,大きなインパクトがあった.ジャイロトロンの高効率運転は高性能プラズマの定常維持に不可欠な基盤技術として不可欠であり,また,プラズマの更なる高性能化や輸送の解明への発展が期待される.以上の理由により,技術進歩賞に値する 成果であると判断した.

第18回 学術奨励賞


受賞者 佐々木 真(九大)
対象実績 振動帯状流の非線形分散関係とダイナミクスに関する理論研究
*Plasma and Fusion Research 8, 1403010 (2013) 他
選考理由 測地的音響モード(GAM)については,閉じ込め物理におけるイオン質量計測やイオンの異常加熱等に関連して,きわめて重要な課題があり,その実証,解明には,理論モデルの高度化と実験との比較が欠かせない.GAM と乱流が関わる豊富な物理現象には,乱流に関する様々な非線形性が関与している.候補者は,特にレイノルズ応力がもたらす GAMの分散関係への非線形性の検討を進め,GAMの飽和レベルや周波数,位相速度や群速度の定量的な評価を図って実験との対比も行っていることは,高く評価できる.また,定義した制限のもとで非線形性を丁寧に扱って議論しており,理論の論文としての完成度はきわめて高い.これらのことから,本学会の学術奨励賞に値するものと認められた.高く評価される。以上の理由から、同氏の業績は学術奨励賞に値すると判断した。

第18回 学術奨励賞


受賞者 後藤拓也(核融合研)
対象実績 ヘリオトロン型核融合炉システムコード開発とヘリカル核融合炉システム設計
Plasma and Fusion Research 7, 2405084 (5pp) (2012) 他
選考理由 世界的に原型炉段階への開発戦略の高度化が競われる時代となってきており,その中で,システムコードは,炉設計自体のみならず,工学R&Dおよび炉心プラズマ物理の研究目標と課題の設定に合理性を与えることから,その重要性がきわめて大きくなってきている.候補者は,炉設計コードを構築するにあたって,スケーリング化が難しかった 3D ヘリカル平衡をデータベース化して取り込むとともに,複雑な形状になるコイルやダイバータの工学設計の概念も加えるなど,創意に富んだ試みを行っている.このシステムコードにより,広範な設計領域で解析が可能となり,定量性を伴った炉設計が大きく進められることから,高く評価できる.これらのことから,本学会の学術奨励賞に相応しいと認められた.