16th International Symposium on
Plasma Chemistry (ISPC-16)


標記会議が2003年6月23日から27日までシチリア島のタオルミナで開催されました。なお学会誌Vol.79-08月号に本報告が掲載されています。次回 は2005年8月に開催される予定です。



[注意] 会誌掲載用には 下記より 写真2および写真3のみ使用の予定です.


東京工業大学 原子炉工学研究所 渡辺隆行

 ISPC-16は本年6月23日-27日にシチリア島のタオルミナで開催された。タオルミナはシチリア島の東岸に位置し,イオニア海に望む標高250mの丘の上にある。タオルミナは,映画「グランブルー」の舞台になったことでも有名である。

 タオルミナで有名なものは,シチリア島で2番目に大きいギリシャ劇場(写真1,1番目はシラクサのギリシャ劇場)である。これは紀元前3世紀に建造されたものだが,今見ることができるのは2世紀のものである。会議の2日目には,出席者がここを訪れ,全員で記念撮影をした。なんといってもギリシャ劇場からの眺めは最高であった。舞台に向かって左にイオニア海,正面にエトナ山,右にカステルモーラを見渡すことができる。ここでは誰でも写真を上手に撮ることができる場所である。


写真1:ギリシャ劇場


 ISPCの前には,恒例であるSummer Schoolが6月18−19日の3日間に開催された。Summer Schoolは低圧プラズマと大気圧プラズマの2つのコースに分かれ,世界の著名な講師によって講演が行われる。特に大気圧プラズマの講師は,Fauchais教授(フランス,Limoges大学), Heberlein教授(アメリカ合衆国,Minnesota大学), Boulos教授 (カナダ,Sherbrooke大学)などといった非常に贅沢な講師陣であった。しかし参加者がかなり少なかったことが残念である。

 会議の前日にはこれも恒例のWelcome Partyが開催された。このWelcome Partyに出席し,久しぶりの友人に会うと,2年に1回開催されるISPCに出席していることを実感できる。今回の会議場はタオルミナの会議センター(写真2)で開催されたが,タオルミナの街そのものが,古代ギリシャ,ローマ,アラブ,ノルマンなどの様々な時代につくられた建造物からなる街である。よって,街には大きな建造物を建てる場所もなく,今回の会場は,今までにISPCが開催された場所としては格別に狭かった。この狭い会議場の屋上に参加者のほとんどが集まるので,Welcome Partyは相当に混雑していた。


写真2:今回の会議場(タオルミナの会議センター)


 会議の1日目は,まず組織委員長のd’Agostino教授(イタリア,バリ大学,写真3)とInternational Plasma Chemistry Society委員長のGirshick教授(アメリカ合衆国,ミネソタ大学)による開会の挨拶から始まった。今回の会議では,今年の1月に亡くなられた作田教授(金沢大学,IPCS委員)のご冥福を全員でお祈りした。合掌。なお,IUPAC(純粋・応用化学国際連合)のプラズマ化学サブコミッティとしてInternational Plasma Chemistry Society(略称はIPCSであり,会議の略称のISPCと混同しやすい)が活動しており,ISPCの会議中に委員の選挙を行うことになっている。


写真3:開会の挨拶 組織委員長d’Agostino教授


 開会式に続いて,基調講演として,葛谷教授(岐阜薬科大学,写真4)による”Recent Advances on Plasma Techniques for Bio-Medical and Drug-Engineering”の講演があった。このあと,3つの発表会場に分かれて,それぞれのオーラルセッションが行われた。


写真4:葛谷教授の基調講演


 ISPCは2年に1回開催され,この分野では世界で最大であり,重要な会議である。特に今回の参加登録者数は810名と,従来を凌ぐ大きな会議になった。発表総件数は801件で,その内訳は5件の基調講演,15件の招待講演,特別講演20件,一般の口頭発表116件,ポスター発表645件であった。発表会場が3つだけであったので,従来の会議と比べると,ポスター発表の研究が非常に多い。日本からは96件(うち基調講演1件,招待講演3件,特別講演3件,一般の口頭発表16件,ポスター発表73件)の発表があった。

 発表セッションは13の一般セッションと3つの特別セッションが行われた。一般セッションは20分の発表時間であったが,特別セッションは発表時間が30分に設定され,発表者も主催者側から指名されることになっていて,招待講演とほぼ同様な形式であった。

 タオルミナはとにかく世界的な保養地として有名なので,たくさんの世界中からの観光客が押し寄せることになる。商店街であるウンベルト大通りは非常に混雑する。しかしここはシエスタのある町なので,午後には店はほとんど閉まってしまい,夕方の4時ごろまでは町はとても静かになる。会議のスケジュールは,最初のオーラルセッションは9時から午後1時まで,そのあと昼休みで,午後のセッションは3時30分からポスター発表が始まり,そのあと5時15分から8時ごろまで2回目のオーラルセッションが行われた。通常の国際会議と比べると昼休みが長いので,ゆっくりとピザやスパゲッティ(タオルミナの海の幸スパゲッティは有名)を楽しむことができた。ウンベルト通りの中間にはPiazza IX Aprile(4月9日広場,写真5)は展望台になっており,この広場の一角のカフェで海を眺める気分は爽快だった。特に夜は多くの人が集まるので,ここでゆっくりとビールを飲んでいると,会議の参加者にたくさん会うことができる。昼間の会議では会えなかった人を探すには,このカフェで待つのが一番であった。


写真5:ウンベルト通りのPiazza IX Aprile


 一般セッションでは,「プラズマ−表面の相互作用」(発表は37件,日本からの発表は3件),「プラズマ診断」(発表は86件,日本からの発表は6件),「プラズマ化学のモデリング」(発表は71件,日本からの発表は3件),「大気圧非平衡プラズマプロセス」(発表は31件,日本からの発表は4件),「プラズマ発生源」(発表は58件,日本からの発表は11件),「マイクロエレクトロニクスのためのプラズマプロセス」(発表は52件,日本からの発表は10件),「半導体におけるPECVD」(発表は14件,日本からの発表は3件),「プラズマ蒸着による無機材料の合成」(発表は57件,日本からの発表は7件),「高分子材料のプラズマ蒸着および改質」(発表は78件,日本からの発表は4件),「クラスター,粒子,粉体」(発表は44件,日本からの発表は7件),「プラズマ化学合成」(発表は40件,日本からの発表は8件),「プラズマ溶射および熱プラズマ材料プロセシング」(発表は67件,日本からの発表は9件),「プラズマ/放射のハイブリッドプロセス」(発表は9件,日本からの発表は3件)が行われた。セッションごとの発表件数には大きな差があり,また,日本からの発表件数の割合もセッションによって大きく異なり,日本の研究動向と世界の研究動向には違いがあることがわかる。プラズマプロセスの幅広い分野がカバーされているのは,毎回のこの会議の特徴であり,参加者の専門分野も,化学,物理,電気,機械,金属などに広い分野にまたがっている。ただし最近は関連する国際会議も多くなっていることから,半導体や集積回路関連の発表は次第に減少している。低圧プラズマと熱プラズマのように異なるプラズマに関する研究が同じ会議で発表されることが大きな特徴であるが,付け加えるならば,プラズマの物理過程,計測やモデリングなどの基礎的な研究から,材料合成や廃棄物処理などの産業応用に近い分野までの研究が同じ会議で発表されることも特徴である。

 今回の会議ではわが国の企業からの発表が少なかったことが残念なことであった。一方,外国の企業からは,特に大気圧非平衡プラズマに関する興味ある発表(ドイツ,Iplas,およびアイルランド,イギリス,Dow Corning)があった。会議への参加者が多いことは結構なことであるが,企業からの発表や参加が少なかったことは今後の会議運営の課題かもしれない。

 筆者の専門である熱プラズマの発表に関しての私見を述べさせていただく。溶射は熱プラズマのなかでも重要な研究テーマであるが,溶射に関連する発表は,従来からこの会議では少ない。一方,熱プラズマの数値解析に関する研究発表は,この会議では活発である。熱プラズマの数値解析では,3次元モデリングへの発展,化学反応を取り入れたモデリング,乱流モデルの開発,プラズマ中の微粒子生成過程のモデリング等が重要な課題であるが,今回も高周波熱プラズマの3次元の数値解析の発表がColombo教授(イタリア,バリ大学)の招待講演をはじめとして,興味ある発表があった。

 会議でのセッションテーマが広がっていると,参加者の共通の話題が少なくなり,会議の活況を保つことが難しくなる。しかし,今回は特別セッションとして3つのテーマが設定された。従来のセッションでは分類が難しく,さらに活発に研究が行われている分野に関して,特別セッションが設定された。特別セッションは,「プラズマプロセスの生医学への応用」(発表は39件,日本からの発表は1件),「プラズマによる廃棄物処理」(発表は40件,日本からの発表は5件),「大気圧プラズマプロセス」(発表は66件,日本からの発表は11件)であった。特に「大気圧プラズマプロセス」のセッションでは,わが国でも研究が盛んに行われている大気圧非平衡プラズマに関する発表が多く,かなり注目されたセッションであった。熱プラズマの研究者としても,また低圧プラズマの研究者としても,この大気圧非平衡プラズマは魅力的である。今までは低圧プラズマと熱プラズマのセッションは関連がほとんどなかったが,大気圧非平衡プラズマというキーワードは,このISPC全体をまとめる重要な柱となった。

 熱プラズマは,その高温という特性のみが産業的に使われていただけであった。しかし最近の環境問題に対する関心の高さから,熱プラズマを用いた新しい廃棄物処理プロセスが開発されている。熱プラズマの今後の発展は,この廃棄物処理でいかに熱プラズマの優位性が生かされるかによると思われる。よって今回の会議の特別セッションで「プラズマによる廃棄物処理」が開催されたことは重要である。

 会議の3日目にはエトナ山へのエクスカージョンがあった。エトナ山は溶岩流の多い成層火山であり,ヨーロッパ最大の活火山である。2002年秋にも噴火があり,タオルミナにも灰が降ったとのことである。今も煙を噴いており,エトナ山が今回の会議のシンボルになっていた。

 会議の4日目の夜はBanquet(写真6)が開催された。会議センターがある街の中心部から坂を下ったところにあるVilla Diororo Hotelの屋上がBanquetの会場であった。このBanquetのときに,IPCS委員の選挙の結果が発表された。今回は橘教授(京大)と岡崎教授(東工大)がわが国からIPCS委員として選出された。特に橘教授が委員長に選出されたことは特筆すべきことである。また,前回のIPSC-15はフランスのオルレアン(2001年7月),前々回のISPC-14はチェコのプラハ(1999年8月)と,このところヨーロッパでの開催が続いたが,次回のISPC-17はカナダのトロントでProf. Mostaghimiを組織委員長として,2005年8月上旬に開催される予定であることもBanquetにて報告された。

 前回までは会議のプロシーディングは7分冊の本として配布されたが,ようやく今回からCD-ROMでの会議録となった。会議後に重いプロシーディングを持ち帰る苦痛からは開放されたが,今回のCD-ROMをパソコンで起動することができず(これは私だけでなく,かなりの参加者も同じ),非常に困った。会議終了後に,ISPC-16のホームページにようやくその対策方法が掲載された。なお会議のプログラム等はhttp://www.ispc16.org/から見ることができる。


写真6:Banquet(Villa Diororo Hotelの屋上)

 


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最終更新日:2003.7.22
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