第21回年会報告

Update 2005.1.11

総 括

第21回年会現地実行委員会委員長代行 奥野 健二

 標記年会が2004年11月23日〜26日,静岡市の静岡県コンベンションアーツセンター「グランシップ」において開催された。期間中は秋晴れに恵まれ,特に初日,2日目ぐらいまでは,10階ロビーから雪を冠した富士山を堪能していただけたものと思う。静岡に来ていただいて富士山を御覧いただけなかったら,静岡に来ていただいた価値が半減するところであった。これも,ひとえに参加者および関係者の日頃の行いの賜物(?)ではないかと信じている。

 期間中の参加者は,586名という,最近では昨年水戸で開催された第20回年会に次いでの参加者数を得たことはうれしい誤算であった。当初,出席者が少なく,予算的にも厳しい状況になるのではないかと危惧していた現地実行委員会一同安堵の胸をなでおろした。

 会場は「グランシップ」館内に,A会場(中ホール,ただし25日は交流ホール),B会場,C会場(展示ギャラリー),受付,会議室,休憩・インターネット室,および事務局室から構成した。「グランシップ」は東静岡駅からすぐ近くに位置し,探す苦労はほとんどなかったと思われたが,館内が大き過ぎ,また会場が1,6および10階と分散していた,かつ3日目にA会場が交流ホールに移動したため,参加者にご迷惑をお掛けした。これは今回の反省点でもあったが,総じてスムーズに年会運営ができたものと思っている。

 今年会の講演数は,特別講演1件,レビュー講演1件,オーバービュー講演2件,国内招待講演19件,APS招待講演1件,EPS招待講演2件,学会賞受賞記念講演2件,一般講演399件(ポストデッドライン論文1件を含む)であり,他にシンポジウム9件,学会関連報告会,インフォーマルミーティング3件が行われた。国内招待講演および一般講演を合わせて418件は過去最多記録となり,関係者および事務局の弛まない広報活動のお陰だと感謝する次第である。

 今回静岡大学において比較的研究者数の多いプラズマ応用分野で静岡地区の特別企画として,「プラズマ応用における最近の進展」が開催された。本企画については,9件のシンポジウムとともに別途報告されている。

 学会賞受賞式,特別講演,特別企画はA会場で,シンポジウム,口頭発表,プレポスターなどはAおよびB会場に別れて行った。両会場とも多数の参加者があったが,A会場については収容人数が600人の会場であったために,閑散とした印象があり講演者のヤル気への悪影響を懸念した。ポスター発表はC会場(展示ホール)で行った。多数の発表および参加者があったにもかかわらず,広い会場でゆったりと活発な討論が行われた。今回はポスター会場では施設利用の制約,経済性を考慮し,学会所有のポスターボードを使用せずに,備え付けの大型ボードを使用したために若干戸惑いを感じられた発表者もおられたかもしれない。この点関しては色々ご意見があったものと思っている。関連講演が別会場で重ならないようプログラム作成時にプログラム委員会のご協力をいただいて十分配慮したつもりであるが,不本意なセッションでの発表を余儀なくされた発表者にはお詫び申し上げる。

 懇親会は静岡駅前の「ブケ東海」で開催した。参加者は最終的には133名と大変盛況であったが,当日の昼頃までは現地委員会としては赤字を覚悟したが,例年どおり駆け込みの申し込みが多く,最終的には懇親会場が満員に近い参加者数に達した。現地実行委員長,学会長の挨拶の後,プリンストンプラズマ研究所の岡林典男氏の音頭で乾杯を行った。食事とお酒を楽しみながら,歓談に花が咲き,和やかに会が進んだ。最後に次回年会の現地実行委員会より挨拶があり,盛況の内に懇親会は終了した。食べ物が少なかったとのご叱責をいただいたが,概ね満足していただけたのではないかと思っている。

 本年会では,水戸年会に引き続きインターネット環境の整備,パソコンによる映像投影の支援に努めた。今回は書画カメラの使用は行わなかったが,今後検討していく必要があるものと思われる。

 この年会の成功は,学会役員,事務局,プログラム委員会の皆様のご協力,さらに実務の労を惜しまず協力していただいた実行委員の力がなければあり得なかったもので,各位に心からお礼申し上げる。

 来年度の第22回年会は,東京大学が現地実行委員会を担当し,2005年11月に東京で開催される予定である。

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 特別講演では,「光技術の可能性」と題して,浜松ホトニクスの晝馬輝夫社長にご講演いただいた。同氏は昭和22年3月に静岡大学工学部の前身である浜松工業専門学校機械科を卒業された後,浜松テレビの創設に参画された。昭和53年10月には社長に就任され,以後25年余にわたって浜松ホトニクスの発展に尽力されている。開口一番の「聴衆が少ないな」で始まったご講演では,高柳健次郎先生から引き継いだ未知未踏技術を追求する精神の重要性について触れられた後,癌や痴呆診断で絶大な威力を発揮しているPET(陽電子放射トモグラフィ)の最近の実用例を中心に,核融合発電への期待,レーザー光による植物工場での実績,さらには,光技術を核とする新産業創成の重要性,暗黙知と形式知等広範な話題について,エピソードを交えて講演された。研究者・技術者が常に心に留めておかなければならない珠玉な言葉が随所に散りばめられ,印象に残る特別講演であった。[報告:座長 神藤正士]

 レビュー講演では田島俊樹氏 (日本原子力研究所関西研究所所長)が「レーザーと加速器:極限原子力技術」を報告した。最近の超短パルスレーザー生成技術の著しい進展により非常に強いレーザー光が出現し,柔らかい場として扱われたレーザー光から硬い場として扱うレーザーとプラズマとの相互作用の学問的な発展から始まり,「相対論工学」と呼ぶ新しい極限科学の展開,特に,レーザー光とレーザー光,あるいはレーザー光と加速器ビームとの相互作用による科学のフロンティアについて講演され,聴衆に深い感銘を与えた。[報告:座長 西原功修] 

 オーバービュー講演として,山田弘司氏(核融合研)が「無電流ヘリカルプラズマの高β領域の探求について」を報告した。ヘリカル系プラズマの磁場構造を系統的に概観した後,これまで各国の装置で得られた結果を踏まえつつ,最近のLHDでの成果を論じた。主要な結論は,ベータ値が4%を越える実験の進展がなされたこと,そして,3次元理論モデルの進展によって,実験結果と3次元の圧力駆動型不安定性やヘリカル系に特徴的な磁気面の破壊や回復について,高度なレベルで比較検討なされるに至ったことである。また,電流駆動項(+圧力駆動項)が支配的であるトカマクとの対比によって,電磁流体力学的不安定性の包括的な理解を促した。高ベータ化に焦点を絞り,その観点から他の要素を有機的に説明した明快で優れた講演であった。[報告:座長 鎌田 裕]

 また,竹永秀信氏(原研)によって「JT-60U高性能プラズマにおける定常化研究の新展開」と題したオーバービュー講演が行われた。高性能プラズマを長時間維持するために重要となる(1)電流拡散時間,(2)壁飽和時間,(3)ダイバータ板損耗時間の3つの時間スケールに着目した研究成果について報告がなされた。JT-60Uでは,これらの時間スケールでの課題克服のため,NB加熱時間を従来の10秒(30 MW)から30秒(14 MW)へ伸長し,新領域への研究の拡大を図った。これらの時間スケールに関して,(1)電流分布が定常に達するまでの長い時間にわたって,ITERの定常運転領域に相当する高ベータ状態が維持できたこと,(2)長時間放電を繰り返すことで壁飽和現象が観測されたこと,(3)外側ダイバータは損耗領域,内側ダイバータは再堆積領域であること等の報告がなされた。[報告:松岡啓介]

学会関連報告会

常務理事;岡村昇一

 今年の学会関連報告会では,5件の報告があった.当学会の活動状況については高村会長から報告があり,今年から文部科学大臣賞,東レ科学技術賞の候補の推薦を依頼されたこと,また国際的な学会活動としてこれまでのEPS,APSとの関わりに加えて,アジア圏でのプラズマ・核融合コミュニティの活動として,APFAとの連携を強めて行く方針が示された.さらに学会として新しい研究領域の推進を意図した専門委員会活動にも力を入れつつあるとの説明があった.核融合科学研究所(以下,核融合研)関係については本島所長より報告があり,核融合研が自然科学研究機構の一員として法人としての新たな一歩を踏み出したこと,またそれに伴って共同研究の機能強化や連携研究体制の確立などを進めていることについて説明があった.また双方向共同研究,日米共同プロジェクトの新しい方向性の検討状況についても報告があった.日本原子力研究所(以下,原研)関係については二宮炉心プラズマ研究部長より報告があり,JT-60実験の成果やITERに向けての工学R&Dの進展についての説明があり,また原研と核燃料サイクル開発機構との,二法人統合に向けての検討状況についても紹介された.ITERのサイト決定に関わる交渉経過については,原研本部ITER業務推進室の奥村室長より報告があった.現在が最後の詰めの段階であり,日本とEUとの両者を平等に立てる案作りがキーとなるとの説明があった.日本学術会議・核科学研連・核融合専門委員会については京都大学の香山先生より報告があり,今期(19期)の活動方針に加えて,核融合ブランケット研究を検討する小委員会を立ち上げたことについての説明があった.以上の発表に用いられた資料は,学会のWebページに掲載されていますので,詳細についてはそちらを御参照ください.          

APS/EPS招待講演

プログラム委員会 永見正幸&田中和夫

 当学会ではAPS,EPSとの連携を進めている。APS招待講演では,磁場核融合からDr.M.Okabayashi氏(GeneralAtmoic社,米)による1件の講演が行われた。また,昨年から始まったEPS招待講演では,磁場核融合からDr.BLloyd氏(EURATOM/UKAEAFusionAssocition,英)および,慣性核融合およびその応用からDr.P.Norreys氏(ラザフォード研究所,英)から2件の講演があった。3件の非常に興味深い講演に,ほぼ満員の会場において活発な質疑が行われた。

1.Resistive Wall Mode Control of High Beta Plasmas in the DIII-D Device” by M. Okabayashi (GA, PPPL)

高ベータプラズマの閉じ込め磁場の変形が成長し有限抵抗の金属壁へ浸み込む時,壁の安定化(変形抑制)効果の低下により抵抗性壁モード(RWM)を生じる。DIII-Dではトロイダルモード数=1の揺動磁場を検出し,真空容器の内側に設置した12個のループコイルのフィードバック制御による実効的な理想壁効果により変形の成長を抑制した。その結果,理想壁ベータ限界の90%に達する高ベータプラズマ(規格化ベータ値〜4)を安定に維持した。

2.MAST and the Role of Spherical Tokamaks in Advancing Tokamak Physics ” by B. Lloyd (UKAEA) :

MAST装置の紹介の後,閉じ込め,MHD安定性に関する最近の成果を報告した。閉じ込め時間は新しい低アスペクト比領域を含め,概ねIPB89y2則に従うが,無次元衝突パラメータの小さな領域で改善される。また,MASTの磁場配位の特徴を生かし,理想磁気流体安定性理論に一致するフィラメントを含むELMの3次元挙動を明らかにした。

3.PW laser interaction physics”, by Peter A Norreys, Central Laser Facility, Rutherford Appleton Laboratory:

ラザフォード研究所のPW(=1015W)レーザーを使った実験が紹介された。高速点火のための高速電子エネルギー輸送では,10ピコ秒のパルスを使った場合,MHD不安定性の兆候はなかった。また,20%程度のレーザー光から高速電子への変換効率が確認された。応用として,400次までの高調波の観測や,700 Mガウスの磁場測定が示された。また,粒子加速として初めて単色の70 MeVの電子バンチ観測結果が示された。

シンポジウム

I.高速点火方式によるレーザー核融合炉開発の展望 

座長:苫米地 顕(元電中研顧問)

1) 高速点火レーザー核融合炉開発のロ−ドマップ(神前康次,阪大)では,高速点火方式により,中心点火方式より約1桁小さいレーザー装置で点火燃焼を実証し,さらに小型の実験炉により炉技術の確立と発電実証を行える可能性が示された(中心点火方式の米国NIFの2MJ級レーザーに対し,高速点火では100kJ レーザーのFIREX計画で点火燃焼し,200kJ 級繰り返しレーザーで実験炉が可能になる).高速点火レーザー核融合の発電プラント概念として,1 MJ,16 Hzのレーザーにより,200 MJの核融合パルス出力を4 Hzで繰り返す炉(送電端出力300 MWe)を4基駆動し,総出力1200 MWeのモジュラ−プラントとする設計を、現在進めていることが報告された.

2) 要素技術の展望
2-1炉心プラズマの展望(児玉了祐,阪大)
ペタワット超高強度レーザーの実現とコ−ンタ−ゲットにより,高速点火炉心プラズマの研究は急進展し,点火燃焼に近い状態のプラズマを研究する段階になったこと,また比較的小さな装置でこのような研究が可能なことが示された.また高エネルギー密度状態のプラズマの研究は,様々な応用物理・工学応用の可能性があること,さらに米国等ではディフェンスの予算で研究が進められてきた経緯などから,エネルギー開発だけでなく,多様な応用分野,核兵器基礎物理との関連等を含めて,レーザー核融合研究を学会の専門委員会で,幅広く評価してはどうかという提案がされた.

2−2冷却レーザーシステムの可能性(植田憲一,電通大)
セラミックスレーザーの最近の技術革新は目覚ましく,ガラスと結晶の利点を活かせる可能性,さらにYb-YAGレーザー材料を低温動作で用いることにより,大口径,大出力の核融合用レーザーとしての設計を最適化できる可能性が示された.またLDの長寿命化,低コスト化のためにも,低温動作のLD励起固体レーザーの可能性は大きい.このような技術のブレ−クスル−を図る開発は,将来LDの最大のマ−ケットとなる可能性がある核融合分野が率先して進めるべきとの見解が示された.

2−3パルス負荷に対応するチェンバ−技術の可能性(相良明男,核融合研)
慣性核融合炉では,炉壁へのパルス負荷の幅は1マイクロ秒の領域であり,同じ熱出力でも磁場核融合炉と,チェンバ−壁での現象は全く様相が異なる.チェンバ−の設計,パルス負荷条件は,パルス負荷と物質との相互作用で決ること,高いパルス線量での損傷や非線形効果の評価等の重要課題の研究,またこのような相互作用を積極的に制御するようなチェンバ−技術が期待されることが示された.

2−4コ−ンタ−ゲット量産の可能性(乗松孝好,阪大)
コ−ンタ−ゲットの構造と製造方法について,低密度固体燃料層,および中密度の断熱フォ−ム層からなる燃料容器,およびコ−ンとの取付方法等の工夫、具体的設計が示され,高速点火用タ−ゲットの量産技術の可能性が議論された.コ−ンの内面は,放物面鏡でビ−ムの収束を考える等,コ−ンタ−ゲットは工学的にいくつかの機能を合わせ持つ.また従来の高圧で燃料を充填する技術に対し,液中加熱法が提案され,大幅なトリチウム装荷量の低減等、量産技術に適していることが示された.

2−5磁場核融合技術開発との共通性と相違点(小川雄一,東大)
磁場核融合と慣性核融合では,今迄の議論ではプラズマ物理等での共通性は低いと見なされてきたが,炉工学技術,開発シナリオなどの点では共通点が多く、今後出来るだけ共通性を見だす努力が必要である.高熱負荷技術では,磁場核融合でのELMやディスラプション時のダイバ−タ熱負荷等と共通する点が多く,また液体ブランケット技術、材料技術等の炉工学技術については、慣性と磁場核融合の両者をにらんだ開発プログラムの構築が重要である.

 以上のような講演をもとに,高速点火方式により,本当に小型の装置でレーザー核融合エネルギーの開発が進められるのか,またそのため何が問題か等について議論された.残念ながら時間の制約から,パネル討論の時間は十分でなく,次回以降のシンポジウムでは,パネラ−は講演を行うというよりも2〜3分の問題提起を行い,パネル討論を中心とするようなシンポジウムを企画することも一案として提案される.

II.ITERのプラズマ対向材料選択への戦略 

座長:大野哲靖(名大)

 本シンポジウムは,国際熱核融合実験炉(ITER)における現在のプラズマ対向材料選択の考え方を理解し,それを基礎にITERへの貢献をめざした日本におけるPWI研究のあり方(戦略)を議論するために企画された.

 最初に,ITER設計でのプラズマ対向材料選択について,嶋田道也氏(ITER国際チーム)によるレビューが行われた.冒頭に,ITERは長パルスDT燃焼を行う最初の装置であり,未曾有のプラズマ領域にあることが述べられた.ITERの実験前半(10年間)の運転にはflexibility(性能予測の不確定性,広いパラメータ領域,多様なプラズマ現象,新しい物理の展開,新しい運転領域)が重要であり,プラズマ対向材料はこの点を考慮して選定されており,少なくとも初期の運転期間においては広い放電領域を確保するため,熱負荷の厳しいダイバータ・ターゲット部にはCFC,荷電交換中性粒子束の大きいバッフル板およびドームにはタングステン(W),第一壁およびリミタにはベリリウム(Be)が採用されたことが説明された。また,実験後半(10年)では炉工学試験に重点を置き必要に応じて材料選択が行われるが,Wの大幅導入には,ELM/Disrution回避法および不純物制御法を確立することが不可欠であることが指摘された.

 次に,材料研究者の立場からプラズマ対向材料の特徴に関する詳細なレビューが上田良夫氏(阪大院工)により行われた.その中でプラズマ対向材料選択の基準が,核燃焼プラズマとの共存性,機器としての健全性・安全性の観点から論じられた.さらにITERダイバータにおける材料選択についてその基礎となっているデータに関する説明ならびに発電炉に比して第一壁温度が低いことに起因するITER第一壁特有の問題点についての指摘があった.

 「全面炭素壁はあり得ないのか」という講演が,田辺哲朗氏(名大工)よりなされた.この中では,もし炭素材の損耗/再堆積が少なく,トリチウムの蓄積が少なかったら,炭素材は炉でも使えるのではないでしょうか?という問題提起を発端に,PWIから見たITERにおける研究の進め方や今後の日本におけるPWI研究の課題と戦略に対する示唆深い提言がなされた.特に,ITERに使用する材料選択のみならずその建設,そしてITERの実験で主導権をとるための全日本的な戦略策定の重要性が指摘された.

 最後に,「タングステン壁の可能性と課題」というタイトルで,ITERにおいてWを使用する場合の諸課題について,吉田直亮氏(九大応力研)から解説があった.Wは大きな可能性を持った材料であるが,使用条件によっては極めて脆い材料であり中性子やプラズマ粒子による苛酷な照射環境下で十分な機能を果たすかは今後十分な検討が必要であることが指摘された.損耗に関しては,最近の研究成果であるHやHe照射によるプリスターやホールの形成に伴う表面損傷が紹介された.さらに,プラズマとの両立性に関するデータは不足しており,今後大型装置を用いた検証が必要不可欠であると述べられた.

 時間の制約のためシンポジウムでは十分な総合討論の時間をとることはできなかったが,その夜開催されたインフォーマルミーティングにおいて,活発な討論をおこなうことができた.

III.ヘリカル系プラズマ閉じ込め研究の核融合研究に果たす役割

座長 図子秀樹

 本シンポジウムは松岡理事からの「これからのヘリカル系研究の進むべき方向について」とのご提案に従って5名の講演者にkeyとなる事項について話題を提供いただいた。伊藤氏(核融合研)は核融合炉の社会的受容性,核燃焼の実現,物理の体系化への寄与の3つの課題に対して,燃焼核融合プラズマの性能に関わる重要作業仮説の完全な検証を行うことの重要性とより深い物理的理解への取り組みへの発展の道筋を主張された。小森氏(核融合研)は豊富なLHDの実験結果を引用しながら輸送とMHD安定性の両立が実験上のどのような工夫で実施され,その結果を理論的描像と定量的に比較し,LHDで見いだされた新しい研究課題を紹介した。水内氏(京大)は多様なヘリカル装置から生み出されている輸送研究の特徴を紹介し,多様性を生かした研究をさらに進めるためにも研究・実験体制の変革が重要であると指摘した。岡村氏(核融合研)はヘリカル系の最適化研究の哲学について歴史的な経緯も含めて紹介し,現在稼働中の実験装置に比べて一桁以上低い新古典輸送をもつ配位の実現性を示した。菊池氏(原研)は核融合炉の成立性の観点から長期戦略としてヘリカル系が克服すべき課題や伸ばすべき利点・長所を鮮明にし,それらの克服と達成の道筋を明らかにすることの重要性を指摘した。十分な議論の時間がなかったが以下のような意見がだされた。

1)ヘリカル系の新古典輸送軽減の最適化の設計活動を実験的に支持する実験事実の積み重ねの重要性,

2)COEに関する最近のヘリカル炉設計の成果がトカマク型と匹敵しており,長期にわたるエネルギー開発に対してヘリカル炉の参入条件を見直すことが可能である,

3)エネルギー開発が長期にわたって戦略的に行われることを踏まえて,より一層学術研究として核融合科学を豊かにすることの重要性と経済性に関する多様な因子や動向を考えていくことの必要性。

IV:ITERテストブランケットモジュールの検討

座長 田中 知

  商用炉では発電・増殖・遮蔽の機能を有する発電ブランケットが必要である。その研究開発は炉工学研究開発の中で最も重要なものである。ITERテストブランケット計画は,原型炉用発電ブランケットのテストモジュール(TBM)をITERに装荷し試験しようとするものである。これについてITER/TBWG(ブランケット工学試験ワーキンググループ)での活動状況や,我が国における研究の状況が説明され議論が行われた。(1)秋葉氏(原研)によるITERテストブランケットモジュールの概要では,核融合ブランケット研究開発の進め方とTBWG活動状況が説明された。現在5つのブランケット方式について,サブグループを組織して活動が行われている。TBMの絞込みの質問に対して,国内では文部科学省内に設置される委員会で,国際的にはITERの中で決定されることが答えられた。(2)榎枝氏(原研)による,固体増殖,水冷却ブランケットの検討においては原研で検討されている本概念の研究開発状況が示された。本概念は他に比して研究開発が進んでおり,ITER運転開始当初から開始する計画であることが示されるとともに,詳細な試験計画も示された。(3)長谷川氏(東北大)による固体増殖,He冷却ブランケットの検討では,低放射化フェライト鋼を構造材料とした概念と主に大学で検討されているSiC/SiC複合材料を用いた高温ブランケットについての状況が示された。後者については最近の研究の進展が大きいことが強調された。増殖材料の高温での挙動が今後の重要課題である。(4)小西氏(京大)によるLiPb増殖ブランケットの検討では,我が国として参加の意味と,SiCインサートを用いることによる魅力の向上が強調された。SiCとLiPbとの両立性についての質問があり,流動下については今後の課題である由。(5)室賀氏(核融合研)による液体リチウムブランケットの検討では,我が国における,バナジウム合金,絶縁性コーティング材研究,液体リチウム中不純物制御の研究進展が大きいことが示された。ロシアでの提案に協力する形が考えられるが,Be中性子増倍材を不要とするのが日本の提案である。(6)相良氏(核融合研)による溶融塩ブランケットの設計では,米国と協力して行われている研究開発の現状や国内研究ネットワークが説明された。溶融塩消滅炉との関係について質問があった。

 TBMは炉工学の重要課題でもあり,ブランケット以外の多くの研究者の参加もあって活発な議論が行われた。説明された5つの概念についての研究のレベルはそれぞれ異なるが,今後競争しつつも研究が進展し,我が国としてすばらしい概念を近く提案できるものと思う。会場からの指摘もあったが,研究をいかに組織だって進めていくかも重要であり,今後関連学会,ネットワーク等をとおして検討していきたい。

V.種々のプラズマ中における渦運動の展開 

座長:津島 晴(横浜国大)

 渦運動は,エネルギーの流れのある開放系で定常的な状態を維持している基本的な運動の一つであり大気循環などの気象現象をはじめ興味ある自然現象が多く存在するが,プラズマにおいても種々の渦が観測されている。そこで,代表的なプラズマの渦について比較してみようとのシンポジウムの趣旨が佐伯紘一氏(静岡大)によって説明された後,4つの講演が続いた。以下,順にその概略を書きとめる。

 最初の講演は田中雅慶氏(核融合研)による「プラズマホール形成の物理」で,ヘリウムを作動ガスとする電子サイクロトロン共鳴プラズマが定常的な渦運動をしている様子を視覚的に捉え,また2次元断面の流速分布を測定した結果が紹介された。また,観測された渦は流体力学で出現するバーガース渦の性質をもつことから,プラズマの粘性が異常に大きくなっているのではないかとの問題が提起された。続いて「非中性プラズマ中渦のダイナミックス」という題で際本泰士氏(京都大)が,渦度が集中している場合には2次元の完全流体のよいモデルである電子プラズマによる渦糸が,渦度が空間に分布することによって渦の相互作用が変化し複雑な形状を示すことを紹介した。強磁場の装置の整備が終わり,さらに精度を向上した実験が可能になったので,統計物理など他分野と接点をもつ課題にも取り組むとのことであった。3番目の講演は佐伯氏の「渦回転によるトーラスプラズマの閉じ込め」で,単純トーラス中の静電的なプラズマの実験と単純トーラスの静電的な平衡解の議論が紹介され,平衡解から得られる密度限界などの予想と実験結果の比較が行われた。質疑では,静電的閉じ込めと磁気閉じ込めの比較の観点からのコメントも寄せられた。最後の講演は飯塚 哲氏(東北大)による「ダストプラズマ中の渦運動とその制御」で,中性気体のドラグ力を駆動に使う新しいダストの駆動方法が紹介された。この方法によって,プラズマシースに閉じ込められたダストをこれまでになく非常に回転速度の速いダストの渦を形成でき,いくつかの渦の実例も示された。そこで,ダストは結合定数によって液体と固体の境界領域を含む幅広い状態の渦の実験の可能性も示唆された。一方,ダストは中性流体との相互作用が大きく,観測している現象がダスト固有の運動か中性流体の運動の反映であるかの問題が残されているとの指摘があった。

 以上,講演数は4つのみであったが,プラズマの渦運動はプラズマ固有または固有に近い問題と他の分野にも共通する問題を含んでいて,これからさらに重要な課題になるような印象を与えて終了した。

VI.超並列計算機によるプラズマ計算機シミュレーション 

座長:犬塚 博(静岡大)

1)趣旨説明(犬塚 博氏,静岡大):プラズマの現象を模擬するシミュレーション計算を実行するには莫大な計算量が必要であるが,現在はその計算には主としてベクトル型のスーパーコンピュータが用いられている。それに対し,半導体性能の限界からくる演算性能の飽和を打ち破るものとして,演算部分の並列化が検討されてきた。プラズマの分野においても,近年,大きな並列度を持たせた(超)並列計算機を用いてシミュレーションを行う試みがいくつかなされるようになってきており,本シンポジウムではそれらを様々な角度から紹介する趣旨である。

2)CIP法とパソコンによるスーパーコンピューティング(尾形陽一氏,東工大):演算の高速化は単にハードウェアの問題ではなく,そのソフトウエアも重要である。その様なソフトウェアによる高速化手法の一例として,CIP(Cubic-InterpolatedPseudoparticle/Propagation)法によるシミュレーション手法とその応用例が紹介された。一例として,水切り現象のシミュレーションにおいては,石や水面・水しぶきの動き等がパソコンレベルの計算機で短時間で計算できることが紹介された。

 

3)PCクラスタの構築とプラズマシミュレーション(内藤裕志氏,山口大):複数のパソコンから構成されるPCクラスタによるプラズマの粒子シミュレーションの手法が紹介された。パソコン台数を変化させた場合の演算性能の比例則からのずれについても調べられており,CPUがZeonの場合は飽和傾向が現れたが,Opteronの場合はスケーリングの劣化はほとんど見られなかったことが紹介された。

4)原研Origin3800システムにおける大規模プラズマシミュレーション(井戸村泰宏氏,原研):原研那珂研究所では大規模シミュレーションによる核融合プラズマの物理機構解明をめざし数値トカマク(NEXT)研究が進められている。その研究に必要な様々な数値モデルに柔軟に対応可能なスーパーコンピュータとしてスカラー型超並列計算機Origin3800が導入された。Originシステムに向けたコード開発・性能評価等が紹介された。

5)専用計算機による大規模シミュレーション−GRAPEを例として−(牧野淳一郎氏,東大):GRAPEプロジェクトは,重力多体問題のシミュレーションを専用計算機によって加速することを目的で開発された。GRAPEは多数の粒子間の相互作用を計算する多数本のパイプラインを一つのLSIに集積することで高速な演算性能を実現する。GRAPEは既に天体物理分野で惑星の形成過程の解明等多くの分野で成果を上げている。さらに,次世代GRAPEとして,より汎用性を増したGRAPE-DRの研究開発も進めている。

6)重力専用計算機GRAPE-6を用いたプラズマの粒子シミュレーション(犬塚 博氏,静岡大):GRAPE-6は本来は重力専用計算機であるが,一部の計算を外部のホストコンピュータに担わせることでプラズマのシミュレーションにも適用可能であることが示された。プラズマの不安定性やダストプラズマのクーロン結晶化・微小重力環境下での構造形成のシミュレーションにも応用され,演算速度もGRAPE-6の本来の性能よりもさほど落ちないことが紹介された。

7)分子動力学専用計算機MDGRAPE-2を用いたプラズマ渦のシミュレーション(八柳祐一氏,京大):円筒境界内に閉じこめられた等しい強さの正負の点渦群が共存する系で観測される負温度状態についての研究が紹介された。この計算の高速化の為に分子動力学専用計算機MDGRAPE-2が用いられている。その結果明らかになった点渦群の時間的発展やエネルギーの変化等が示された。

 本シンポジウムを企画した際,過去にあまり類似のものがない企画であったので,参加者の数をご心配いただいたが,他のシンポジウムと比しても決して少なくない参加者が集まったと同時に,熱心で具体的な質疑討論が続き,この分野に対する関心の高さが示された。本シンポジウムを通じて,スーパーコンピュータのいわゆるオルタナティブとしての並列型の計算機によるプラズマシミュレーションの現状と課題が明確になったのではないかと思っている。

 

VII.核融合炉環境におけるトリチウム挙動とリサイクル技術

座長 宇田達彦

 座長から趣旨説明がなされたのち,トリチウム挙動に関する研究の現状と課題について4件の報告がなされた。

 本シンポジウムの趣旨は,核融合実験炉に向けて,安全性と社会的受容性を確保する上でトリチウム技術の確立が重要であり,炉システム環境におけるトリチウムの挙動を把握し,安全かつ高い効率での閉じ込め・回収・再利用を可能とする基盤技術ならびに核融合施設から外部へ放出されたトリチウムの環境挙動と生体挙動とを含む総合的な研究領域について現状と課題についてまとめ,今後の方向性を示すことにある。なお,大学や研究機関のトリチウム研究者が参加し,平成14年6月から2年間実施した同題目の研究調査委員会の成果報告も兼ねている。

 この研究調査では,炉システム環境におけるトリチウムの挙動評価に関する研究およびトリチウム安全評価技術のデータベース整備拡充について,プラズマ⇔材料⇔燃料循環系⇔環境⇔生体と言った相互の関係を体系的に扱い,システム高度化に関わる学術研究をめざしている。今回はこのうち,炉内挙動,炉構造物内挙動,燃料循環系内挙動,プラント施設内挙動の研究領域について報告があった。発表題目および報告の要点は以下に示すとおりである。

 炉内トリチウムの挙動研究の現状「炉内黒鉛材料への蓄積挙動」(広畑優子氏,北大)では,JT-60U,JETにおける測定結果をもとにプラズマ対向壁,特にダイバータータイル表面への蓄積分布特性を明らかにし,トリチウムの蓄積量の低減方法にも言及した。次に,炉構造物内トリチウムの挙動研究の現状については2件報告された。「固体ブランケットにおけるトリチウム移行挙動」(金城智弘氏,九大)では,LiSi,LiTi,LiZrLiAlの各酸化物について,その結晶グレイン中トリチウムの生成,拡散,移動,放出などの特性を実験的に調べ,解析評価された。これらの結果に基づきシミュレーション評価を進めることなどが述べられた。続いて,「液体ブランケットにおけるトリチウム移行挙動」(深田 智氏,九大)では,Li,LiPb,Flibeについて,拡散係数,溶解度,透過,回収特性などについて化学的なデータを基に述べた。最後に,施設内トリチウム挙動研究の現状「核融合炉トリチウムプラントにおけるトリチウムの挙動に関する研究」(河村繕範氏,原研)では,燃料循環システム,透過漏洩したトリチウムの回収と排水の同位体濃縮技術について報告され,トリチウムの施設内における計量が問題として残されていることが述べられた。    

 これらの研究成果は将来の実験炉の安全性や信頼性評価などへ活用が可能であり,この分野の研究がますます進展することが望まれる。

VIII.核融合プラズマシミュレーションの進展 

座長:岡本正雄(核融合研)
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 シンポジウムでは,核融合プラズマのシミュレーションに関する最先端の研究から以下の5件を選んで成果を報告して頂き,現状把握と今後の方向性を探ることを目的とした。

(1)3次元圧縮性Full MHD シミュレーション,三浦英昭氏(核融合研):LHD中の3次元圧縮性MHD方程式の直接数値計算についての発表が行われた。研究の背景,シミュレーションコードの概要を紹介した上で,圧力駆動型不安定性の成長と飽和など,最近の数値計算結果が示された。不安定性の成長によってマッシュルーム構造が形成されること,運動エネルギーに対する速度のトロイダル成分の寄与がポロイダル成分の寄与より大きくなり得る事を示した上で,圧縮性やトロイダル流がプラズマの安定性・非線形発展に与える影響の考察が行われた。

(2)2流体プラズマにおける構造形成のシミュレーション,古川 勝(東大新領域):ホールMHDシミュレーションを行い,(i)流れのあるプラズマの自己組織化・緩和について,ホール項が作る小さな渦が散逸され速やかに緩和状態へ至ること,また大きなスケールの構造は1流体MHDモデルと同様であること,(ii)磁気再結合について,磁場ヌル点近傍でのイオン軌道カオスによる局在した無衝突抵抗が,ホール項が作る多数の磁場ヌル点との相互作用でX型の散逸領域を作り,速い磁気再結合が起こることを示した。 

(3)ジャイロ運動論的シミュレーション,井戸村泰宏(原研那珂):本講演では,まず,ジャイロ運動論的シミュレーションの現状をレビューし,特に局所フラックスチューブモデルとグローバルモデル,粒子コードとVlasovコードの違いに焦点を当てて,その長所,短所の比較から今後のコード開発の方向性を議論した。次に,最近の研究から電子温度勾配駆動(ETG)乱流のシミュレーションを紹介した。

(4)磁場閉じ込めプラズマ統合コード,福山 淳(京大工):高い自律性をもつ核燃焼プラズマの振る舞いを予測し,その制御手法を開発するために,炉心・周辺・ダイバータを含むプラズマ全体を,全放電時間にわたって記述できる統合コードの重要性が認識され,研究が進展しつつある。コード間の連係を実現する枠組みと必要な物理現象の解明を目的とした「核燃焼プラズマ統合コード構想」の活動と,その中核コードの一つである TASK の概要が紹介されるとともに,欧米での活動と比較してその特徴が示された。

(5)レーザープラズマ統合コード,長友英夫(阪大レーザー研):レーザー核融合の高速点火方式の計算機シミュレーションを行う場合,非球対称爆縮,超高強度レーザーによる相対論レーザープラズマ相互作用,高速電子輸送などの時間,空間スケールが大きく異なる物理が重要になるため,各パラメータ領域における最適なコードを用いる必要があるため,輻射流体,PIC,FPコードの異なる3つのコードが異なる計算機で動くように結合させたFI3コードの開発を進めてきたことが報告された。このコード概要と解析結果の一例が紹介された。

 トーラス配位をそっくり取り入れ全MHD方程式を解き,また,第1原理に極めて近い運動論的方程式も微視的不安定性に対して解かれている。これらはいずれも大規模シミュレーションであるが大きな成功を収めている。今後は,ミクロからマクロまでの現象を含むプラズマをどのようにシミュレートするかが大きな問題となる。緩和現象を研究した2流体シミュレーションは,この様な観点からも考えることができる新しい方向といえるであろう。磁場閉じ込め・レーザープラズマの統合コードは,核融合プラズマの全体像を見ようと試みるもので,核融合研究に於いて重要なものである。大きく異なる時間・空間スケールを持つ様々な現象をどのように結合させるか,そのモデル構築が正否を決めるであろう。今後は,より複雑な核融合プラズマをそっくりそのまま再現できるシミュレーションへと発展していくと思われる。その結果,「シミュレーション科学」という新しい科学分野を形成していくことが期待される。

(質疑応答などは,学会Web を参照してください。)

IX.ITERにおける物理研究の進め方 
座長:高瀬雄一(東大)

 座長による趣旨説明の後,以下の4つの講演が行われた。

(1) 閉じ込め・輸送研究の課題と今後の展開(福山 淳氏,京大)
(2) 定常運転に関する研究の今後の展開 (花田 和明氏,九大)
(3) 運転制御と最適化に向けた取り組みについて(山田 弘司氏,核融合研)
(4) 国際的研究活動を主導するための課題(鎌田 裕,原研)

 各講演後それぞれのトピックについて議論を行ったほか,総合討論の時間を利用して,若手(大学院生)も含めた会場の参加者と活発な意見交換を行った。本シンポジウムの2つのテーマについての議論を以下に要約する。

1. ITERでは,今までのプラズマ物理研究と,どのような点で質的に異なる研究を展開すべきか
1) 核燃焼プラズマでは,アルファ粒子による加熱や圧力勾配に駆動される自発電流による閉じ込めが本質的となり,自律的な発展が支配的となる。したがって,自律系に適用可能な制御法を確立する必要がある。とくに 密度分布,回転分布,高速イオン分布,周辺プラズマ分布を介した,統合化された制御が重要である。2) 核融合プラズマは非線形性が強いため,制御の考え方を決定論から確率論へパラダイムシフトすることが必要ではないか。3) リミットサイクルを理解し,制御することにより, 自律性の高い炉心の長時間安定運転が実現可能となる。

2.日本がどのような面で主導的な役割を果たせるか,そのためにはどのような国内研究体制が必要か

1) 実験シナリオや制御系の検討に向けて,さまざまな物理現象を取り入れることのできるモデリングツールを早急に開発する必要がある。

2) パスファインダーとして,国内装置等を用いた原理実証や予備試験が不可欠である。

3) ITER のために先進的な計測を開発することも重要かつ有効である。

4) 我が国から新領域の研究を主導することが必要である。そのためには「自ら挑戦する」という意気込みが大事である。

5) 人材の育成および国内研究環境の整備は,ITER の建設期間中から実施しなければならない。

6) 我が国の,より多くの装置から「国際トカマク物理活動 (ITPA)」にデータを提供し,実績を作る必要がある。これを基盤として,多くの国内研究者が国際活動を牽引していくべきである。とくに若手を早い段階から起用することが重要である。

7) 大学研究者の参加体制,研究経費の支給,各研究機関の積極的関与,研究の評価等,適切な予算を伴った参加体制を早急に整備する必要がある。

8) 次元の違うもの(テーマ,人,実験装置,マシンタイム)を組み合わせて,いかに複層的かつ効率的な体制を作るかがキーとなる。

9) 若手や他分野の研究者を核融合の分野に惹きつける努力をもっとすべきである。これに大学の果たす役割は大きい。

特別企画 プラズマ応用における最近の進展
世話人:三重野 哲(静岡大)

静岡のプラズマ応用研究と関連して,今回,特別企画として「プラズマ応用」に関する講演の機会をいただいた。近年,大学における産学連携や地域貢献の必要性が議論されており,プラズマ分野もその貢献が求められているが,昔から製造プロセスに放電やプラズマは積極に用いられている。そして,現在の高度な材料プロセッシングにおいても,プラズマ技術が重要な役割を担っている。今回,6名の講演者に,プラズマ応用の進展の一角を紹介していただいた。i)「フラーレンファミリーの合成と応用」(三重野氏,静岡大)では,フラーレン,ナノチューブがガスアーク法で容易に合成されることが示され,この誘導体合成についても紹介された。電池電極,医療材料,光電材料,強度強化材などへの応用の可能性が示された。耐放射性が大きいこと,耐熱性や耐強度性で核融合技術や宇宙技術とリンクできる可能性が示された。ii)「ナノチューブ・ナノコイルの合成と応用」(滝川氏,豊橋技科大)では,製造コスト削減の重要性が指摘され,独自の大気圧トーチ法が披露された。そして,炭素ナノホーンの合成の成功も紹介された。一方,2種触媒含有炭素からの炭素ナノコイルの大量合成が紹介された。マイクロコイルやスプリングへの応用が期待される。iii)「ダイヤモンドCVD合成の進展」(八田氏,高知工科大)では,人口ダイヤ合成の進展の歴史が紹介され,その工業化が理解された。特異なダイヤの物性を利用し,トランジスター,電子エミッター,光学窓材などの研究が盛んであるが,成長速度やプラズマCVD法の問題点が有る。iv)「プラズマによる高分子の改質」(稲垣氏,静岡大)では,プラズマの高分子への照射における3つの変化(新しい官能基の発生,プラズマ重合膜被服,表面の除去)の重要性が指摘された。高分子膜密着の為の官能基の導入,コンタクトレンズ親水化の為のプラズマ重合,また,ポリマー表面の選択エッチングの可能性が紹介され注目された。v)「サブサーフェスとプラズマ」(藤山氏,長崎大)では,まず,「プラズマ−物質相互作用の科学」専門委員会の発足がPRされた。そして,プラズマプロセッシングにおける,プラズマ・固体境界層の重要性が指摘された。この研究の為の赤外反射分析法や半古典分子動力学計算法が紹介された。vi)「新しいプラズマ基礎技術の開発研究」(菅井氏,名大)では,21世紀COEプログラム(Plasama-Nano)の活動内容の一部が紹介された。名大のプラズマグループ,材料グループの連携が図られている。ここでは,特に,メートル級表面波プラズマの開発(液晶,太陽電池用),マグネトロンプラズマの診断(磁性薄膜用),大気圧・非平衡プラズマ源(紫外線源用)の紹介がなされた。

インフォーマルミーティング

国際トカマク物理活動(ITPA)および物理クラスターの概要と今後の課題

世話人:高村秀一(名大),二宮博正(原研那珂)

 本ミーティングは,国際トカマク物理活動(ITPA)およびその国内活動基盤である物理クラスターの活動について議論することを目的としたものである。60名を越える参加者の下,予定の2時間を超える熱心な議論が行われた。

 初めに,6月に開催された調整委員会の結果として,韓国がITPAに参加したこと,トピカル物理グループの研究分担の見直しを行い,放電制御を「定常運転グループ」に,高エネルギー粒子研究関連を「MHDグループ」に移動したこと,ITPA活動が主導している世界の10台のトカマクを用いた装置間比較実験が有効に成果を挙げ,各グループの中心的活動となっている(全7グループが行う比較実験は合計42件)こと等が報告された。また,日本がITERに関して大きく寄与できる戦略についても意見交換を行った。

 次に,核融合フォーラム物理クラスターの15年度の活動結果および16年度の活動状況が紹介された。また,国外で開催されるITPAトピカル物理グループ会合への参加旅費がある額認められたことの紹介とその利用法の議論をし,各サブグループからの提案を幹事会で調整することとなった。

 引き続き,4つのトピカル物理グループより活動状況,今後の重要課題と予定の紹介があった。「閉じ込めデータベースとモデリング」では,我が国におけるモデリング研究活動を更に活性化しITPAで主導性を発揮するための方策等について,「計測」では,7つのワーキンググループの我が国での活動等についての議論があった。「定常運転」では,ハイブリッド運転という名称の是非や本運転の閉じ込め解析の進め方について,「MHD」では,幅広い研究者が現在開発されているコード等を利用して具体的にどのような活動が可能かを12月のサブグループで議論することが紹介された。

スクレイプ・オフ層およびダイバータの物理

世話人:名大エコトピア 大野哲靖

 本インフォーマルミーティングは第4回核融合フォーラムサブクラスター(スクレイプ・オフ層およびダイバータの物理)会合として開催された.学会関連報告会終了後の開催のため参加者が少ないことが懸念されたが,40名以上の方に参加していただいた.

 最初に朝倉氏(原研)から,第5回国際トカマク物理活動ITPA(スクレイプ・オフ層およびダイバータの物理)に関する報告があった.日本側からは朝倉氏,高村氏,田辺氏,大野氏,芦川氏,またITER国際チームから嶋田氏が参加し,(1)ITERモデリングの現状(進展)と今後の開発,(2)シミュレーションコード間および実験データとの比較,ドリフト効果や揺動輸送モデルを導入,(3)プラズマ流測定(高・低磁場側,上側)とモデルとの比較,(4)13CD4入射実験の解析状況,(5)IEA/ITPA共同実験の結果と新提案,などが議論されたことが報告された(詳細はhttp://efdasql.ipp.mpg.de/divsol/ にて参照可能-ユーザーIDおよびパスワードについては日本側ITPA委員に問い合わせのこと).

 次に,ITPAへの貢献に対する日本での研究体制に関する議論を行った.芦川氏(NIFS)より,大型ヘリカル装置(LHD)からのITPAへの貢献の可能性について提言があった.特に壁コンディショニング,ダスト,Heプラズマによる壁損傷,連続ペレットやCT入射による粒子補給,壁リサイクリングなどは装置間共通の課題であり,LHDからの貢献が可能であると報告された.また上田氏(阪大)より,日本のPWI研究体制構築に関して,プラズマ研究者と材料研究者間において基礎的な知識を共有すること,並びに周辺プラズマ・壁材料研究課題を相互に分かりやすく評価し,大学を含めた各研究機関で具体的に実施可能な課題として設定する取り組みの重要性が指摘された.また,国際協力特に日米協力の推進の必要性についても指摘があった。

 討論においては,大型装置を用いたPWI実験の重要性,また国際協力を生かした研究体制強化などの意見が出された.またITPAへの大学からの貢献については,ボランタリーでの参加の難しさの指摘の一方で,参加による最新情報取得や知名度向上などの利点が挙げられた.今後,プラズマ研究者と材料研究者の相互理解のためには,いろいろな場を利用して議論をもっと活発に行うべきであるという意見が出された.また,原研やNIFSの研究者が,大学の研究に参加する共同研究の提言もなされた.

核融合若手会員によるインフォーマルミーティング

世話人:及川聡洋(原研)

 本ミーティングは,ITER誘致の議論をきっかけに若手研究者有志が始めた核融合若手メーリングリスト(http://plasma.phys.s.u-tokyo.ac.jp/~ejiri/wakate.html参照)がその企画の母体となっており,平成13年から始めて今年で第4回を迎えた。各所でITERに向けた体制作りが議論されているが,今回我々は,ITERというステップを有効に活用するためにも,核融合炉を見据えた研究開発について議論の場を設けることにした。飛田健次氏(原研)の「核融合炉設計の観点から見た炉心プラズマ・炉工学の研究開発の課題と進め方」と題した講演では,トカマク方式での発電実証プラントの検討例を基に,ITERから実証炉へ進む際のプラズマ・炉工学における課題の整理,コンパクト化への課題が示された。最後は各分野の専門家へのリクエストが提示された。プラズマ研究者に対しては「実験でも理論でも核融合炉ではこうなるというところまで考察して欲しい」という言葉に集約されるであろう。また,各開発要素の中でもブランケットが実証炉へ歩を進める上での鍵となることが強調された。講演の後は,参加者から「fast track路線で謳っている2050年の電力業界参入という開発スケジュールでは,ITERで初めて得られる知見を実証炉の設計に生かせないのではないか」との問題提起が行われた。これを受けて,「研究開発を行う立場としてステップを踏むのは当然である」,「2050年に遅れた場合,核融合の電力シェアは減るが必ずしも大きな問題とは限らず,原子力の置き換えや輸出産業としての位置付けも可能であろう」といった意見が交わされた。今後,この点についてマネージメントレベルと研究者レベルの間でより密接な議論がなされるべきであろう。さもなくば,後々の世代に"問題の先延ばし"と振り返られることにもなりかねない。

 

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最終更新日:2005.1.11