VIII.核融合プラズマシミュレーションの進展 
座長:岡本正雄(核融合研)

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プラズマの挙動は非常に複雑であることから、プラズマ・核融合分野では早くからシミュレーション研究が盛んに行われてきた。多くのシミュレーション研究者の努力とスーパーコンピュータの飛躍的発展により、シミュレーション研究は、いまや実験・理論に並ぶ第3の学問手法となりつつある。特に、非平衡・非線形・開放系の特性が顕著に発現する核融合プラズマにおいて、その複雑性ダイナミクスの解明に向けてのシミュレーション研究はますます重要かつ先導的な役割を果たすことが期待されている。シンポジウムでは、核融合プラズマのシミュレーションに関する最先端の研究から以下の5件を選んで成果を報告して頂き、現状把握と今後の方向性を探ることを目的とした。

三浦英昭氏(核融合研):3次元圧縮性Full MHD シミュレーション
LHD中の3次元圧縮性MHD方程式の直接数値計算についての発表が行われた。研究の背景、シミュレーションコードの概要を紹介した上で、圧力駆動型不安定性の成長と飽和など、最近の数値計算結果が示された。不安定性の成長によってマッシュルーム構造が形成されること、運動エネルギーに対する速度のトロイダル成分の寄与がポロイダル成分の寄与より大きくなり得る事を示した上で、圧縮性やトロイダル流がプラズマの安定性・非線形発展に与える影響の考察が行われた。
質疑応答:発表ではプラズマがディスラプティブな挙動を示す場合と、非ディスラプティブな挙動を示す場合の2つのシミュレーション結果が示された。この2つを分ける物理的な条件を問う質問があった。発表者の答えは、詳細はまだ未解明であると断った上で、初期摂動、特にその中に含まれる圧縮性の影響が大きい可能性があるというものであった。

 

古川勝(東大新領域):2流体プラズマにおける構造形成のシミュレーションホールMHDシミュレーションを行い、(1)流れのあるプラズマの自己組織化・緩和について、ホール項が作る小さな渦が散逸され速やかに緩和状態へ至ること、また大きなスケールの構造は1流体MHDモデルと同様であること、(2)磁気再結合について、磁場ヌル点近傍でのイオン軌道カオスによる局在した無衝突抵抗が、ホール項が作る多数の磁場ヌル点との相互作用でX型の散逸領域を作り、速い磁気再結合が起こることを示した。 
質疑応答
(石井さん:原研)緩和のシミュレーションで、途中に運動エネルギーが増えたりしているのは、プラズモイドの放出が起こっているのか?
(古川)Intermittentな現象は起きている。
(石田先生:新潟大)イオンスキン長程度の細かいスケールを捉えられる位のメッシュを切っているか?
(古川)例えば緩和シミュレーションではイオンスキン長を0.1としたのに対し、x方向に2の幅を128メッシュ切っており、十分と考えている。
(石田先生:新潟大)緩和シミュレーションで、ヘリシティ等は保存しているか?
(古川)エネルギーやヘリシティ等の時間発展の図を示し、緩和状態では保存量が時間的にほとんど変化しないことを示した。
(渡辺智彦さん:NIFS)定常リコネクションでは電場が一様になるはずであるが、示された図では一様になっていないのではないか?
(林先生:NIFS)完全に定常になってないということでしょう。
他にも長い質問有り。

井戸村泰宏(原研那珂):ジャイロ運動論的シミュレーション
本講演では、まず、ジャイロ運動論的シミュレーションの現状をレビューし、特に局所フラックスチューブモデルとグローバルモデル、粒子コードとVlasovコードの違いに焦点を当てて、その長所、短所の比較から今後のコード開発の方向性を議論した。次に、最近の研究から電子温度勾配駆動(ETG)乱流のシミュレーションを紹介した。質疑応答では、このシミュレーションで用いた中空トーラス配位の境界条件が議論になった。

福山淳(京大工):磁場閉じ込めプラズマ統合コード
高い自律性をもつ核燃焼プラズマの振る舞いを予測し,その制御手法を開発するために,炉心・周辺・ダイバータを含むプラズマ全体を,全放電時間にわたって記述できる統合コードの重要性が認識され,研究が進展しつつある。コード間の連係を実現する枠組みと必要な物理現象の解明を目的とした「核燃焼プラズマ統合コード構想」の活動と,その中核コードの一つである TASK の概要が紹介されるとともに,欧米での活動と比較してその特徴が示された。解析モジュールの標準化に関して質問があり,TASK コードを用いて具体的な作業が進行中であることが述べられた。

長友英夫(阪大レーザー研):レーザープラズマ統合コード
レーザー核融合の高速点火方式の計算機シミュレーションを行う場合,非球対称爆縮,超高強度レーザーによる相対論レーザープラズマ相互作用,高速電子輸送などの時間,空間スケールが大きく異なる物理が重要になるため,各パラメータ領域における最適なコードを用いる必要があるため,輻射流体,PIC,FPコードの異なる3つのコードが異なる計算機で動くように結合させたFI3コードの開発を進めてきたことが報告された。このコード概要と解析結果の一例が紹介された。

この発表に関し,コード間のデータ交換の頻度,データフローに関する質問があった。これに対し,現在は輻射流体計算の結果が,PIC, FPコードの初期値になり,PICの結果がFPの境界条件になる。すなわち,一方通行のデータフローで,計算の初期のデータ交換だけしか考慮されていないが,近いうちに相互にデータをフィードバックさせる旨の回答があった。

 トーラス配位をそっくり取り入れ全MHD方程式を解き、また、第1原理に極めて近い運動論的方程式も微視的不安定性に対して解かれている。これらはいずれも大規模シミュレーションであるが大きな成功を収めている。今後は、ミクロからマクロまでの現象を含むプラズマをどのようにシミュレートするかが大きな問題となる。緩和現象を研究した2流体シミュレーションは、この様な観点からも考えることができる新しい方向といえるであろう。磁場閉じ込め・レーザープラズマの統合コードは、核融合プラズマの全体像を見ようと試みるもので、核融合研究に於いて重要なものである。大きく異なる時間・空間スケールを持つ様々な現象をどのように結合させるか、そのモデル構築が正否を決めるであろう。

今後は、より複雑な核融合プラズマをそっくりそのまま再現できるシミュレーションへと発展していくと思われる。その結果、「シミュレーション科学」という新しい科学分野を形成していくことが期待される。