ITPA (国際トカマク物理活動)会合報告

学会誌Vol.79-6月号に本報告のダイジェスト版が掲載されています。


最終更新日:2003.11.5

  • 分  野:「閉じ込めデータベースとモデリング」1,「輸送及び内部障壁の物理」2,「周辺及びペデスタルの物理」3
  • 開 催 日:2003年4月8〜11日1,4月8〜12日2,4月14〜17日3
  • 場  所:ヨッフェ研究所(ロシア,サンクトペテルブルグ)1,2,原研那珂研究所(日本,那珂)3
  • 担当委員:滝塚知典 (原研)1,小川雄一 (東大)1,三浦幸俊 (原研)1,矢木雅敏 (九大)1藤田隆明 (原研)2,東井和夫 (核融合研)2,福田武司 (阪大)2,福山 淳 (京大)2居田克巳 (核融合研) 3,谷津 潔 (筑波大)3,鎌田 裕 (原研)3,波多江仰紀 (原研)3

    (下線は会合出席者を,1から3の上付き数字はグループとの対応を示す)



 上記の3つのITPAトピカル物理グループ第4回会合が,2003年4月にサンクトペテルブルグと那珂で開催された.残りの4つのトピカル物理グループは7月の第30回EPS会議後にサンクトペテルブルグにおいて会合を開催した.サンクトペテルブルグでの2会合には日本からITER 国際チームの嶋田道也を含め3名のみの参加(年度始めという日程上の問題と出張予算削減のため)に対しEU,米,ロシアからは多数の参加者があった.一方那珂の会合には国外からの参加は5名に留まった.

 サンクトペテルブルグには初春とは言え雪が多く残っており,皆は真冬の装束で身を固めての参加であった(写真1).一方那珂は春爛漫で,参加者は昼休みに那珂研に咲き誇る桜を楽しむことができた(写真2).

 1と2のグループの合同セッションにおいては,ITER物理R&D専門家グループ以来の議長として活躍してこられた故若谷教授への追悼の辞と黙祷が捧げられた.

 この合同セッション及びグループ3の会合において,ITER国際チーム物理リーダーの嶋田が,ITERの高性能運転領域(Q〜10の準定常運転, 核融合出力〜0.7GW)の検討結果と,ITER建設協議の現状について報告した.また,ITPA共通課題として,ITER等の燃焼プラズマに関連するトカマクの物理の最近の研究開発成果を(1999年発表の"ITER Physics Basis"に引き続き)Nuclear Fusion誌に発表するため,各グループ会合においてそれぞれ目次・内容と著者等について議論し決定した.

 次回会合は,3つのグループ共に,今年2003年9月末の「Hモード物理と輸送障壁に関する第9回IAEA Technical Meeting」後にサンデイエゴのGeneral Atomicsにおいて開催の予定である.

 以下に各グループでのそれぞれのトピックに関する議論の概要を示す.速報は,「内外情報,ITPA(国際トカマク物理活動)会合報告(7)」,プラズマ・核融合学会誌Vol.79, No.6, 628 (2003) に掲載されている.

(author's e-mail: takizukt@fusion.naka.jaeri.go.jp)


写真1


写真2



1.「閉じ込めデータベースとモデリング」


 本グループは全体会議及び分科会において,主に (a) Hモード閉じ込め,(b) Hモード遷移パワー閾値,(c) 輸送モデルについて発表 (約30件)・議論・検討を行った.

 特に取り上げられたトピックは粒子ピンチと運動量発生機構で,その解明が燃焼プラズマの性能予測に不可欠であり今後の重要課題とされた.2つの興味深い報告を紹介する.Tore Supra のLHW完全非誘導電流駆動プラズマにおいて,中心粒子補給及びWareピンチが全くないにもかかわらず密度分布は急峻になっており,異常粒子ピンチの存在が明確に示された.Alcator C-ModのOhmicとICRF加熱プラズマのどちらにおいても運動量入射がないにもかかわらず,プラズマ電流で規格化した蓄積エネルギーにほぼ比例したトロイダル回転が生じている.回転方向は電流の向きで逆転する.

 プラズマ温度分布のstiffness は輸送モデル構築・検証にも絡み已然主要トピックの一つであるが,stiffnessについて見直したほうが良いという報告もあった.Tore Supra 実験の過渡応答特性まで含む電子温度分布は臨界温度勾配モデルでなく,圧力勾配に依存する非線形熱拡散モデルで説明できている.

 「Hモード物理と輸送障壁に関する第9回 IAEA TM」(2003年9月24-26日,サンデイエゴ)において,このグループから発表する2つの論文について討議した.ひとつは「Hモード遷移パワー閾値に対するるアスペクト比及び実効荷電数の効果」についてTakizuka(JAERI)が発表し,もうひとつは「Hモード閉じ込めのベータ値依存性」についてKardaun(IPP Garching)が発表することになった.

 データベース(DB)の管理体制について報告と議論があった.LモードDB(カダラッシュに移行),HモードDB(ガルヒングで管理),閾値パワーDB(ローザンヌに移行),分布DB(カラムで管理)は管理体制の変更も行いながら,さらに充実されつつある.また新たにペレットデータベース(オークリッジで管理)が立ち上がった.今年2月,ガルヒングのデータサーバがハッカーにより壊された.幸いHモードDBは無事だったが,現在securityを上げてサーバを復活している.


2.「輸送と内部障壁の物理」


 分科会において,(1)データベースの運営,(2)国際共同実験の現状と予定,(3)最近の研究結果,(4)今後の学会発表の内容についての報告・議論を行った(全体会議については上記参照).

(1)これまで原研那珂研にて管理していた内部輸送障壁(ITB)データベースは,分布データベースをカラム研究所へ,スカラーデータベースをカダラッシュ研究所へ移管し,いずれも「閉じ込めデータベースとモデリング」トピカル物理グループのデータベースと形式を統一し利便性を高めることとした.カダラッシュ研究所のImbreaux氏を同作業の担当者かつ新しい管理者とすることを決定した.また,今後優先的に収集すべきデータの種類を決定した。

(2)共同実験についてはJETおよびDIII-Dから実施予定時期が報告された.JT-60Uは実験開始まで期間があるため共同実験の実施予定時期は未定であったが,外部からの実験参加のため日程を早く決定し通知することが要請された.

(3)最近の実験成果として,JETからはイオン温度勾配やq分布の実時間制御,ITBプラズマへのペレット入射による高密度化(ne-bar/nGW〜0.85)等が報告された.ASDEXとのHybrid scenarioに関する比較実験では,ASDEXと同程度の規格化ラーモア半径(ρ*)ではほぼASDEXの結果を再現したが,高電流高磁場の低ρ*領域では加熱パワーの不足のためベータ値,閉じ込め性能とも低い値に留まった.また,球状トーラス(NSTX, MAST)におけるITBの形成が報告された.今後のITBデータベースへの貢献が期待される.

(4)ITBデータベースの成果として第30回EPS会議および第9回「Hモード物理と輸送障壁に関するIAEA技術会合」にて発表予定の内容についての議論を行った.EPS会議においては,藤田(原研)が"Key Quantities for ITB formation and sustainment"という題で,温度分布を用いたITBの有無,強弱の定量的な判定条件について発表することとなっている.JETでは,温度の特性長を音速のイオンのラーモア半径で規格化した値が0.014以上となる領域にITBが存在するという条件が様々なプラズマに対して有効であると報告している.このパラメータを各装置について調べた結果,多くの場合にJETと同様の値となった一方でJT-60の高安全係数プラズマの場合に有意に小さい値(半分以下)が得られた。今後より多くの装置のデータを収集して調べることとなった.第9回「Hモード物理と輸送障壁に関するIAEA技術会合」ではX. Litaudon (JET)が"Status of and prospects for Advanced Tokamak regimes from multi-machine comparison"と題して各装置の先進トカマク運転でこれまでに得られている領域を示すこととなった.特に着目すべきパラメータとして,ベータ値と閉じ込め性能の指標(H89βN)/q952, ブートストラップ電流割合の指標bp,規格化衝突度ν*,規格化ラーモア半径ρ*,中心でのマッハ数vtor/cs,イオン温度と電子温度の比Ti(0)/Te(0),規格化密度ne(0)/nGW(または<ne>/nGW)等が提案され,これらのデータを各装置から収集することとなった。


3.「周辺及びペデスタルの物理」


 ITPA会合としては初めてテレビ会議システムを併用し,来日できない参加者がテレビ会議で議論に参加できるようにしたこの会合では,テレビ会議による参加者を含め53名(内訳は日:36,欧:9,米:5,露:3.ITER国際チームを含む.)が参加した.テレビ会議では那珂研を中心に米国MIT(那珂/AM フ Boston/PM),英国EFDA JET & UKAEA,ドイツIPP(那珂/PM フCulhum,Garching/PM)を結んだ最大3地点間での同時中継を行い,時差を感じさせない活発な討議が行われた.最新の研究結果として,当グループの緊急課題となっているモデリングによるペデスタル特性の予測,ELMの物理,装置間比較実験についての成果が報告された.JT-60U, JET, DIII-D, Alcator C-Mod, ASDEX Upgrade, JFT-2Mの標準トカマクにおけるペデスタルとELM特性の実験結果に加え,低アスペクト比トカマクMASTの実験結果,さらにヘリカル系のLHDにおける周辺MHD特性に関する実験結果も報告された.特に,主要装置では装置間比較実験(JT-60UフJET,JETフDIII-DフC-Mod)が開始され,装置間でペデスタル位置での無次元パラメタ(ν*,ρ*,β,q)を同じにしたペデスタル構造の比較に関する初期結果が報告された.また,ITER燃焼プラズマ制御に関連して,周辺ペデスタルの実時間制御とそれに必要な測定とアクチエータについての議論を行った.



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