これまでに,プラズマ物理と炉工学の両面から核融合研究が精力的に進められ,サイト依存部分を除く実験炉ITERの設計が終了した。実験炉の建設開始は間近にせまり,核融合研究における炉工学・炉システムの占める役割はさらに高まっている。トリチウムに関しては,処理・回収技術に係わる実験炉での研究開発課題の策定と,大量トリチウムを使用する実験炉の運転に則した安全性及び社会的受容性の確保のために,これまでの研究成果の整理と研究開発課題の重要性が高まっている。
実験炉でのトリチウムに関する研究開発課題は,発電実証炉を見通したものでなければならず,物理,化学,工学,生物多方面にその課題は未だ存在するが,今後さらなる研究開発が必要な項目として,ブランケットにおけるトリチウム挙動をまず挙げることができる。実験炉では,テストブランケットモジュールによる増殖・回収実験が計画されており,そのモジュール製作に向けた活動が各国で本格化してきている。トリチウムの観点からブランケットをみた場合,増殖材でのトリチウム生成及び放出挙動を元に,スイープガス及び添加ガスの必要の有無,その種類・流量を検討し,回収系の研究開発へ繋げていかなければならず,研究課題を今明確化することが不可欠である。またブランケット冷却材は,実験炉以降では高温・大流量になることは必然であり,冷却材へのトリチウム透過機構の解明,透過防止機構の確立等の問題は,核融合炉実用化に向けた実験炉での重要実験項目である。実験炉の実際の運転に則したトリチウム安全性の課題としては,ソースタームの確定(真空容器内のトリチウムの量・化学種)とその計量管理及び閉じ込め技術を確立し,それにより作業従事者被曝ばく,や放射性廃棄物の低減を図らなければならない。実験炉の設計・安全性確認作業の中で,異常時のトリチウムの確実な回収,平常時の放出量低減について検討がなされてきたが,被曝評価上は自然放射線と比較して十分な値でも,実験炉周辺環境のトリチウムレベルの有意な上昇も予想され,環境・生物学的なトリチウムに関する説明とその研究の進展は,社会的受容性の確保から重要である。
核融合炉のトリチウム技術については,日本の各大学及び研究所における幅広い学問分野を背景とした基礎研究及びシステム開発が続けられており,トリチウム取扱い実績も合わせて積み重ねられてきている。より魅力的な核融合炉の実用化向けては,さらに上記のような課題は多く残されているものの,これまでの着実な進展も見逃すことはできない。しかしながら,日本における他分野の研究者あるいは社会からは,トリチウムの理
工学の現状がよく理解されておらず,技術は全く確立されていない,あるいは逆に,
核融合炉の設計・許認可に係わるデータは十分蓄積されたとの双方の認識が見受けられる。トリチウム技術に関わる研究者が,今現在どこまでトリチウム挙動が解明され,ゴールはどこにあるかを明らかにすることが重要であり,これまでの研究成果を調査・整理して課題を抽出することの意義は大きい。
以上により,下記項目に関する課題を明らかにし,データベースを構築することを目的とし,研究調査委員会を設置する。トリチウム安全性に関しては,その対照は幅広い分野にまたがるが,本研究調査委員会2年間においては,計量管理に力点をおく。
1)
ブランケットにおけるトリチウムの放出・回収技術
・増殖材におけるトリチウム放出機構及び速度論
・冷却系・回収系・計量管理からなるシステム構築に向けた検討(スイープガスの有無,ガス種・流量,冷却系への透過及びその防止機構,回収システム開発)
2)
実験炉の大量トリチウムによる運転に係わる安全性向上技術
・特にソースタームの確定とその計量管理技術