未来の女性研究者らへのメッセージ(1)
笹尾真実子(現・同志社大学嘱託、東北大学名誉教授)

 女性は男性に比べると概して長生きである。2019年発表された日本人の平均寿命は女性が87.32歳、男性が81.25歳で、6年の差がある。以前、東北大学男女共同参画シンポジウムで講演いただいた長谷川真理子さん(現・総合研究大学院大学長)は、その講演の中で「出産・子育ての終わった哺乳類のメスがこれほど長生きする例はない、人類のおばあさんたちが孫や仲間の育児の担い手になってきた」ということを話されていた。そのゆえに、生活の知恵や文化の継承に大きな役割をはたしてきたのかもとの議論もあったと記憶している。

 子育ても終了し、東北大学も退職して9年が経ったが、いまだに上記の意味でのおばあさん役を楽しんでいる。核融合研究は実に広範な分野のイノベーションを必要としている。そのひとつとして、セシウム(Cs)を使わない負イオン源開発がある *1,*2。4年ほど前から、東京工業大学の細野秀雄先生が開発したC12A7*3の導電性セラミックに注目し、様々な実験を同志社大学や世界中の若者たちと続けている。写真は、Aix Marseille大学(エクス=マルセイユ大学、フランス)のCartry教授のプラズマ実験室で、実験に参加した若手・大学院生との一枚である。全員フランス以外の出身者である。実際、プラズマ中のその表面で相当量の負イオンが観測されたり、C12A7をプラズマ電極に用いた小型イオン源から負イオンが引き出されたりしている。多少なりとも彼らの研究や論文作成に寄与でき、同時に彼らが私のおばあさんライフを支えてくれている。

 核融合研究は広範な分野の研究の集大成であると同時に長い時間を必要とする。人生は長い。子育ての期間はその中の一部である。その期間を夫婦や家族、地域社会が支え合う考え方が名実ともに定着してこそ、息の長い研究ができるのではないだろうか? [2020年7月]


写真(加筆)左端にいるのが笹尾真実子先生

<補足>
*1:セシウムを使用すると電流密度の高い負イオン源の運転が可能だが、セシウムは定期的な補充の必要があり、また長期的には加速系の劣化を招く可能性があるとの点からセシウムフリーの負イオン源開発が行われている。
*2:負イオン源はすでに実用化されているものとしては中型・大型加速器がある。将来的には核融合研究の他、ロケットエンジンへの応用、半導体産業への応用等がある。
*3: C12A7とは酸化カルシウム・酸化アルミニウム化合物の名称。例えば、下記のホームページに詳細の記載がある。 http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/research_highlights/no_40