令和3年度 学会賞受賞者第38回年会クロージングにて表彰式を開催しました[2021/11/25]

第 29 回 論文賞

受賞者:小川国大(NIFS),磯部光孝(NIFS),長壁正樹(NIFS)
「Progress on Integrated Neutron Diagnostics for Deuterium Plasma Experiments and Energetic Particle Confinement Studies in the Large Helical Device During the Campaigns from FY2017 to FY2019」
* Plasma and Fusion Research Vol.16, 1102023 (2021)

【選考理由】本研究は,2017年度から2019年度にかけて設置されたLHD重水素運転のために開発された中性子診断装置に関する詳細と,得られた研究成果についてまとめたもので,包括的な中性子計測についての詳細と,レビュー論文とはいえ候補者らの独自研究が含まれており,ヘリカル系装置の高エネルギー粒子閉じ込めに関する多くの知見が記述されている.トカマク型装置では同様の研究は既に行われているが,ステラレーター/ヘリカルシステムでの当該研究は,磁場環状閉じ込め装置に共通した高エネルギー粒子の閉じ込め物理の理解に資する研究であり,特に高速アルファ粒子の閉じ込めの定量的評価は,将来の核融合装置でのα加熱の効率に関係する大きな成果である.以上の理由から,本研究は「論文賞」にふさわしい優れた成果であると判断できる.

第 26 回 技術進歩賞

受賞者:浅井朋彦(日大),髙橋 努(日大),小林大地(日大)
「磁化プラズモイドの超音速/超アルヴェン速度加速および衝突合体による FRC 生成法の確立」
* Plasma and Fusion Research Vol.16, 2402050 (2021) 他

【選考理由】
受賞者らは,FRC を生成するにあたって,2 つのプラズモイドをそれぞれ超音速に加速し,対向衝突させることにより,非常に高い温度と密度を持った FRC の生成に成功した.これまでも 2 つのプラズモイドを対向衝突させることで FRC を生成する実験研究は行われてきたが,超音速での対向衝突というアイデアを考え,実現させている.無衝突衝撃波が生成され,緩和時間よりも短い間での構造形成がどのように行われていくかという研究に繋がる成果で,プラズマ物理の新しい研究分野を調べる実験ツールを開発したことになる.また,現在進められている核融合エネルギー開発研究においても新たな炉心形成法としての可能性を示すものであり,将来の発展性も期待できることから,「技術進歩賞」に値すると判断できる.

第 20 回 産業技術賞

受賞者:伊藤大二郎(東芝エネルギーシステムズ),矢澤博之(東芝エネルギーシステムズ),小渕 隆(NIFS),三宅 均(NIFS),小川国大(NIFS),西谷健夫(名大),磯部光孝(NIFS)
「高速時間応答性を持つ核融合実験向け広領域中性子計測機器の開発」
* Plasma and Fusion Research Vol.16, 1405018 (2021) 他

【選考理由】
受賞者らは,高速レスポンスを有した中性子計測手法に関する研究において,システム設計から実験動作確認まで,様々なレベルの問題や解決手順を示しつつ,核融合用に高時間分解能化した中性子計測システムを構築した技術についてまとめている.炉心プラズマ物理研究に供するための高速時間応答システムへの対応などの独創性は評価できる.核融合出力を正確に評価する上で中性子計測は必須であり,今後,本技術は JT-60SA や ITER への適用も期待されており,炉心プラズマ物理研究を含め,核融合分野に対するインパクトは大きい.このように本技術は,今後の核融合研究へ向けた研究の発展に貢献することが期待されることから,「産業技術賞」に値すると判断できる..

第 20 回 産業技術賞

受賞者:阿部充志(日立)
「トカマク装置のポロイダル磁場制御およびヘリカル装置の磁気設計を通じて培った特異値分解法を利用した精密磁石設計・調整の実用化」
* プラズマ・核融合学会誌 Vol.95, No.4 プロジェクトレビュー(2019)他

【選考理由】
受賞者は,高精度な磁場制御を実現する技術として特異値分解法の特徴とその利点を活かした高精度な磁場設計法を開発し,核融合装置および他の高磁場利用機器におけるマグネット設計や制御手法へ発展させている.受賞対象となった論文はプロジェクトレビューであるが,本手法の利点と特徴を解説するとともに今までの成果を網羅したもので完成度も高い.本手法は核融合研究の中で20年以上前に開発された技術であるが,近年になって実用 MRIや素粒子物理分野のマグネットにも適用され論文発表されるなど,核融合技術の産業技術への貢献という観点からも価値が高い.今後のさらなる発展も期待でき,「産業技術賞」に値すると判断できる. .

第 26 回 学術奨励賞(伊藤早苗特別賞)

受賞者:岩田夏弥(阪大)
「高強度レーザーが生成する非平衡高エネルギー密度プラズマ中での粒子加速に関する理論研究」
* 第 37 回年会口頭発表 03Aa04 他

【選考理由】
受賞者は,運動論的挙動と流体力学的挙動の中間領域に位置するメゾスケールである領域として,マイクロメートルないしはそれ以上の空間スケールでのピコ秒高強度レーザープラズマの相互作用に着目し,特にその電子挙動の物理メカニズムを理論的考察および数値計算を用いて明らかにしている.レーザー照射面におけるイオンの運動効果を含めることで,レーザーのエネルギー吸収機構に対して,新たにプラズマダイナミクスの影響を解明しており,極めて独創性が高い成果である.今後の超高強度レーザー実験にも大きな方向性を示す顕著な研究成果であり,「学術奨励賞(伊藤早苗特別賞)」に値すると判断できる.