令和7年度 学会賞受賞者第42回年会にて表彰式を開催しました [2025/12/2]

第30回 技術進歩賞

受賞者:吉沼幹朗(NIFS),居田克巳(NIFS),小林達哉(NIFS)
「イオンの速度分布関数計測のための高速荷電交換分光の開発」
*PFR Vol.19 1402037 (2024)

【選考理由】
受賞者らは,分光器の改良を行うことにより,これまで困難であった高時間分解能でのイオンの速度分布計測を実現する革新的な荷電交換分光システムを開発した.時間分解能空間分解能,エネルギー分解能の全てを同時に満たすことにより,MHD揺動に対する速度分布関数のひずみを計測し,波動と粒子の相互作用を明確に示した.この計測技術を用いて無衝突プラズマの特徴である位相空間ダイナミクスを捉え,エネルギー変換過程を実証的に示したことは学術的価値が高く,今後の研究展開が期待される.以上より,本研究はプラズマ研究の新しい展開を切り開く計測技術開発と認められ,「技術進歩賞」に値すると判断できる.

第 8 回 紅芳賞(伊藤早苗特別賞

受賞者:齋藤真貴子(QST)
「Irradiation Tests of the Sleeve for the Telescopic Arm of the ITER Blanket Remote Handling System」
*PFR Vol.19,1405020 (2024)

【選考理由】
本研究は,ITERのブランケット遠隔ハンドリングシステム(BRHS)用テレスコピックアームを覆うカバー(スリーブ)の高線量γ線照射耐性評価に関して,ITER現場での応用に極めて特化したテーマであり,実務上の課題解決型研究として非常にユニークなものである.従来研究では素材単体(シート)に対して加速試験を行った例はあるが,本研究ではモックアップ形状体の照射+膨張収縮運動を含む試験を実施しており,実運用に近い状態を模擬した評価という点で高い独創性がある.将来的には,ITER運転中の実照度条件下での長期耐久試験,湿度・雰囲気制御下試験,他タイプのポリウレタンや代替材料との比較評価への展開が考えられ,材料選定および保守最適化に資する基盤研究の礎となる可能性がある.また,酸化/架橋/切断メカニズムの詳細解析や,照射条件に依存する劣化進行速度のモデル化,例えば低線量率環境で顕著な劣化を示した点などの解析は,今後の材料シミュレーション・信頼性設計に重要な知見を提供しうる.ITERにおける遠隔メンテナンス計画策定やスリーブ設計に直接反映される実用性の高い結果であり,特に「モックアップ形状と実運転状況を模した評価手法」は,今後の核融合炉部材試験の標準プロトコルになる可能性もある.以上のように,本論文はITERの運用安全性と信頼性確保における材料評価として非常に実務的かつ応用的な価値を持ち,さらにモックアップ試験を含む独創的手法により,核融合工学分野での放射線耐性材料選定や保守設計の基盤となりうる研究であり,「紅芳賞」に値すると判断できる.