第20回 IAEA核融合エネルギー会議


竹永秀信(日本原子力研究所),岡村昇一(核融合科学研究所),
前川 孝(京都大学),永田正義(兵庫県立大学),
中島徳嘉(核融合科学研究所),乗松孝好(大阪大学),
鈴木 哲(日本原子力研究所)

 第20回IAEA核融合エネルギー会議が,2004年11月1日より11月6日まで,ポルトガルのヴィラモウラにおいて開催された.参加者は700名以上,参加国は35カ国におよぶ核融合関連の最大級の国際会議であった.以下に本会議における関連分野の状況を報告する.






1.磁場閉じ込め

(1)ITERとトカマク実験関係

 ITER関係では28件の発表が行われた.最近の物理基盤の進展をもとにした誘導運転の性能予測確度の向上,ハイブリットおよび定常運転シナリオの確立に関する報告がなされた.誘導運転に関しては,多装置からのデータベースをもとに,閉じ込め性能とHモード遷移パワーに関する検討が報告された.ELMy Hモードプラズマにおけるエネルギー閉じ込め時間の比例則に関して,加熱パワーおよび蓄積エネルギーの誤差を考慮すると,従来の比例則(IPB98(y,2))より弱いベータ依存性と強い衝突周波数依存性を示すことが報告された(JETやDIII-Dでの無次元輸送実験結果と同じ傾向).しかしながら,βN=1.8の誘導運転では,従来の比例則から導出される閉じ込め時間と同程度であり,従来の設計を支持する結果となっている.より高いベータ領域では,従来の比例則よりも高い閉じ込め性能を示す.Hモード遷移パワーの比例則に関しては,NSTXやMASTのデータも含めた新たなデータセットから,より確度の高い値として35 MWが導出された.また,実験結果との比較により有効性を確認されたコア−ペデスタル−SOL/ダイバータの統合コードによるプラズマ性能予測も行われており,誘導運転においてQ>10が達成可能なことが示された.

 ハイブリッド/定常運転に関しては,国際データベースをもとに,弱磁気シアおよび負磁気シア領域でのプラズマ性能について,G=H89βN/q952を評価指数としてデータ整理が行われた.その結果,弱磁気シア領域では,q95=4-4.5において,Q=5の定常運転に必要なG=0.3は十分達成可能であり,Q=10の誘導運転に必要なG=0.4も達成可能であることが示された(ASDEX-U,DIII-D,JT-60U,JET).負磁気シア領域では,DIII-DではG=0.3が達成されているが,JETでは低いGに留まっている.また,q95<5では定常状態(>10τE)が得られておらず,負磁気シア領域での高ベータ化,低q化は今後の課題である.ハイブリッドおよび定常運転のモデリングも進展し,電流駆動コードと輸送コードおよびMHDコードを統合したモデリングにより,放電シナリオ最適化のための性能予測が行われた.また,ジャイロ運動論的安定性の解析を行い,E×Bシアおよびシャフラノフ・シフトによる安定化が閉じ込め改善に主要な役割を果たすことが示された.放電シナリオの検討に関しては,弱磁気シアにおいて観測される改善閉じ込めモードをITERに適用すると,壁なしのβ限界以下にてQ〜20,燃焼時間1,000秒以上が期待できることが報告された.

 ハイブリット/定常運転においては不安定性の抑制が重要であり,10-30MWのECで新古典テアリングモードの安定化が可能なこと,外部コイルにて(β-βno wall)/(βideal wallno wall)=0.8まで抵抗性壁モードの安定化が可能なことが報告された.一方,ディスラプション時の真空容器内構造物の損傷,トリチウムリテンション,高速イオン励起モードに関しては,さらに予測の確度を上げる必要がある.特に,トリチウムリテンションの問題は重要であり,テストスタンドでの実験も行われている.UCSDのPICES-B装置において示されたトリチウムリテンションがベリリウム不純物の混合により減少するという結果は興味深い.

 ITPA/IEAのもとで行われている多装置間比較実験の結果に関しても,ITERの枠内で報告がなされた.今回は,JT-60UとJETにおけるペデスタル特性比較実験の結果が報告された.今後,多装置間比較実験の進展に伴い,同実験結果に関する報告数は増加することが期待される.計測装置に関しては,アルファ粒子計測や中性子計測といった燃焼計測の開発状況について報告がなされた.工学面では,コイル系,真空容器・炉内構造物,ブランケット,排気系に関する発表があり,建設に向けたより詳細な検討結果について報告がなされた.

 以上のようにITERに関する詳細検討が進展し,より確度の高い予測が可能となった.しかしながら,建設地誘致交渉の長期化による停滞感は否めず,建設地早期決定を強く望むところである.

 トカマク実験関係は,約130件の発表があり,磁場閉じ込め実験の約180件の多数を占めている.トカマク実験全般としては,装置パラメータがほぼ飽和状態にある中で,これまで得られたパラメータの長時間維持(特に電流拡散時間を超えた維持)やシミュレーション/理論モデルを駆使した物理の理解に重点が移っている印象を受けた.トカマク実験の大きな進展は高性能プラズマの長時間化であり,JT-60UではITER定常運転領域に近いβN=2.3を22.3秒間(電流拡散時間τRの13倍に相当)維持することに成功した.DIII-DではβN=2.6を9.5秒間(9.2τRに相当),JETではβN=1.66の負磁気シアプラズマを20秒間維持した.放電時間の伸長に関しては,JT-60Uで65秒放電を得たのをはじめ,Tore Supraで6分,HT-7で4分放電が得られた.長時間放電のパイオニアであるTRIAM-1Mでは,可動リミターの導入により他装置を大きく引き離す5時間16分の放電に成功している.入射エネルギーも,Tore Supraで1GJを超えたのをはじめ,JT-60U,JETのダイバータプラズマでは330-350 MJに達し,熱粒子制御研究の新たな領域が開拓された.

 ハイブリット/定常運転領域では,JT-60U,DIII-D,JETにおいて高自発電流割合で完全非誘導電流駆動状態もしくはそれに近い状態を長時間維持することに成功した.高自発電流割合プラズマとしては,JT-60Uで自発電流による電流ランプアップを示唆するデータが報告された.高密度,高放射損失領域への拡大に関しても,DIII-D,JET,JT-60Uから報告がなされた.JT-60Uの負磁気シアプラズマでは,グリーンワルド密度を超える領域で高閉じ込め性能を得ている.

 輸送特性解明の観点からは,JETとDIII-Dにおいて,無次元輸送実験からベータ依存性がIPB98(y,2)スケーリングに反して弱いことが報告された.今後,実験条件も含めてさらに検討が必要であると思われる.ITB輸送に関しては,炉条件に近い電子加熱や運動量入力がない条件下での研究に重点が移っている(FTU,TCV,JET).JETでは,運動量入力がなくE×Bシアが小さいRF加熱プラズマにおいて,イオン系のITBが観測されている.また,詳細計測によりJFT-2M,T-10,HT-7でゾーナルフローに関する研究が進展したことは,非常に興味深い.JFT-2Mにおいては,ゾーナルフローの高周波分岐成分であるGAM振動について,重イオンビームプローブ装置を用いた密度および電位揺動の空間構造や非線形結合について興味深い報告がなされている.JFT-2Mでの実験が終了したことは,誠に残念である.粒子輸送に関しては,多くの報告がなされた.ASDEX-U,JETからは,衝突周波数が小さいほど密度分布がピーキングすることが報告された.Tore SupraやFTUでは,中心粒子ソースが無い場合でも,完全非誘導電流駆動状態(Wareピンチがない状態)でピーキングした密度分布が観測され,ITERでも密度分布がピーキングする可能性を示唆している.

 ELMに関しては,小振幅化に関する報告が多くなされた.JT-60Uでは,低衝突周波数領域と整合するgrassy ELMに関する報告がなされ,ELM時のダイバータへの熱負荷をType I ELMに比べ1/10程度に低減できることが示された.DIII-Dでは外部コイルによるType I ELMの抑制,ASDEX-UではペレットによるELM制御に関する報告がなされた.また,JT-60UやASDEX-Uにおいても,DIII-D同様にQHモードが観測され,これらの比較は興味深い.さらに,JFT-2Mでは,衝突周波数が高い領域で,高リサイクリング定常Hモードが観測された.抵抗性壁モードに関しては,DIII-Dにおいて真空容器内に設置したコイルによる安定化が報告され,先進トカマク放電でβN=4を1秒以上維持することに成功した.ECによる新古典テアリングモード安定化に関しては,DIII-DとASDEX-Uにおいて2/1モード安定化が,JT-60Uにおいて早期入射による少ないパワーでの3/2モード安定化が報告された.高速イオン励起の不安定性に関しては,DIII-Dでは高速イオンの損失が,JT-60Uでは高速イオンの再分配が観測された.ディスラプションに関しては,DIII-D,Tore Supra,JT-60Uにおいて不純物ジェット・ガスパフによるディスラプション緩和について報告がなされた.

 ダイバータ研究に関しては,長時間放電を用いて壁での粒子排気特性が調べられた.JT-60Uでは,長時間放電を繰り返すことにより,15-20秒で壁での粒子吸蔵量が飽和し,実効的な壁排気が0になること(壁飽和現象)が報告された.一方,Tore SupraやTRIAM-1Mでの長時間放電では,壁飽和現象は観測されていない.ASDEX-Uでは,タングステン第一壁での運転に関する報告がなされた.ピークした密度分布の場合は,中心領域へのタングステンの蓄積が観測されるが,放射損失の絶対値自体は小さい値に留まっている.炭素の長距離輸送・堆積に関しては,13Cトレーサーが内側ダイバータへ堆積することがJET,DIII-Dで観測された.また,JT-60Uでは,外側ダイバータで損耗,内側ダイバータで堆積が観測された.JETの垂直ターゲットダイバータでは,共堆積が少ないことが報告されており,JT-60Uでの小さなD/C比とともにトリチウムリテンションにとって好ましい結果が報告された.

 以上のように,トカマクにおける実験研究は多岐にわたっており,多くの研究分野で進展が得られた.今後,装置としての研究の方向性を明確にしつつ,多岐にわたる研究を維持していくことが重要である.

(竹永)

 



(2)ヘリカル系実験

 ヘリカル実験に関する発表件数は全部で38件であり,前回の会議よりかなり増加傾向にある.オーバービュー講演にLHDとTJ-IIが取り上げられている他,口頭発表でも15件が採択されている.しかしながら,日本と並んでヘリカル実験の重要な成果を発表してきたW-7AS実験が2002年に終結されたために,ドイツからの発表件数が数件に留まっているのは少々さびしい感もある.次のステップのW-7X,NCSXの実験開始が待ち遠しい状況である.  

 それぞれの実験装置からの発表内容の要点としては,まずLHDからは体積平均ベータ値としてヘリカル実験の最高値となる4.1%の達成が報告され,MHD線形安定性計算の成長率と比較した実験結果の解釈が示された.一方イオン温度としては,アルゴンガスを用いた実験において10keVの温度を得ることができた.また最高密度についても,連続ペレット入射により2.2×1020m-3が得られている.トカマクの重要な課題であるNTMに関連した話題としては,高ベータプラズマによって磁気島が消滅することが観測された.ダイバータ実験のオプションとしてのローカル・アイランド・ダイバータ(LID)実験は,LIDの基本的な特性の確認が報告されている.スペインのTJ-II実験では,装置の特性である外部回転変換選択の自由度とオーミック電流の組み合わせにより,ECHプラズマ中の回転変換分布を制御して,内部輸送障壁の生成位置と回転変換の値および磁気島との関係を明らかにしている.またプローブ測定による乱流輸送の研究もお家芸としての特徴を発揮している.多種のヘリカル装置にまたがった国際共同研究として,ISS95スケーリング研究を引継いで新しい閉じ込めのグローバルスケーリングを纏める作業が進行中であり,その結果が報告された.今後トカマク研究者との相互の議論が期待される.米国のHSXからは,バイアス実験におけるプラズマの回転運動の時間発展の研究が報告され,新古典理論との比較が議論されている.CHS実験からは,境界部輸送障壁生成(H-mode)実験における分布測定結果とその時間発展データが報告された一方,二台のHIBPを用いて測定されたゾーナルフローの構造についての発表がなされた.後者の結果は,今回の会議で初めて行われた理論のオーバービュー講演でも取り上げられる等,ヘリカル系に限定されない広い領域の研究者から注目を浴びていた.ヘリオトロンJ実験からは,H-modeの成立条件として回転変換に対する依存性を調べた結果が報告され,有理数の近傍での特殊性がW-7ASと共通であるとの指摘があった.東北大ヘリアックで行われた電極バイアスを用いた実験では,電圧電流特性のデータからプラズマの回転に対する粘性の特性が議論され,大学での小型実験が核融合研究に貢献している良い例として評価されていた.新しいヘリカル型装置として,W-7X,NCSXの建設状況,またQPSなどを含めた関連理論計算などの報告もあった.今後のITERに関係した核融合研究の大きな流れの中で,ヘリカル系閉じ込め研究をどのように位置付けて進めるかについては,しっかりした目標設定と優れた実験計画の選定が要請されている.

(岡村)

 



(3)球状トーラス関係

 球状トカマクあるいは球状トーラス(ST),または低アスペクト比という用語をタイトルに含む発表は約30件で,そのうち約6割は米国のNSTXグループおよび英国のMASTグループからの発表であった.

 前回のリヨンでの会議と同様に,初日の午後にNSTXとMASTのオーバービューがあった.両者は磁場強度とプラズマ寸法はほぼ同一の装置であり,低アスペクト比トーラスの特長である高βプラズマの閉じ込めに関する物理の解明と技術の進展をめざしている.今回,強力なNBI加熱と運転技術の進展,および計測の充実により,L-H遷移と閉じ込め則,内部輸送障壁,ELM,高エネルギー粒子励起モードなどに関する質の高い実験データと解析が発表され,トーラスプラズマ一般にもインパクトのある内容であった.

 NSTXでは,高楕円度(κ=2.6)と三角度(δ=0.8)の放電で,NBIによりβT=40%のレコードを得た.このとき,NBIによる大きなプラズマ回転シアにより,イオンの熱輸送係数が局所的に新古典拡散係数まで下がった.閉じ込めがトロイダル磁場の増大とともに改善されることが分かり,将来の強磁場装置への展望を開いた.また,βT=20%,Ip=1 MAの0.8秒放電を達成した.このとき,非誘導駆動電流が60%を占め,長パルス化への足がかりを得た.

 MASTでは連結二重ヌルダイバータ配位が最もHモード遷移を容易にすることを示した.詳細な解析は,自発的なゾーナルフローによる有限βドリフト波乱流の抑制が遷移の要因であることを示唆した.高空間分解計測に基づいた解析によりシア流によるITG乱流の抑制と内部輸送障壁の形成が関連付けられた.また,高速高分解計測によりELMの発生消滅過程の動的な描像を得て,バルーニングモードとの関連が示された.

 以上の成果に基づいて,STによるCTF(炉構成部品試験装置)の設計例が発表された.これは,強力なNBIによりQ=1-4程度の運転をめざしたものであり,コイル導体として銅を採用する.また,低アスペクト比の特長を生かして大幅な軽量化をめざしたコンパクトな超伝導炉(VECTOR)も発表された.これらはセンターソレノイド(CS)を取り去ることにより可能になった設計であり,CSに依存しないプラズマ立ち上げが不可欠である.これに関連してCS無しの立ち上げ方法が模索されていて,同軸ヘリシティ入射法(HIT,NSTX),外部ポロイダルコイルによる方法(NSTX),プラズマ合体法(TS-3,MAST)およびECHによる方式(LATE)などの結果が発表された.以上に加え,Globus-M装置(ロシア,ICHが特徴),ETE装置(ブラジル)の発表があった.また,CDX-U装置では液体リチウムリミターにより不純物発生を劇的に下げ得ることが示された.             (前川)

 



(4)RFP,コンパクトトーラス,ミラー他

 本会議におけるこの分野の発表総数は31件であり,その内訳は,RFP:口頭発表2件でそのうち1件オーバービュー (OV)セッションでの発表およびポスター発表4件,スフェロマック:口頭発表1件およびポスター発表4件,FRC:ポスター発表6件,ミラー:口頭発表1件(4論文),Zピンチ:OVでの口頭発表1件(3論文),その他の革新的概念:ポスター発表12件,となっており,日本と米国の小型装置での貢献が目立つ分野である.RFPではOVでMSTの発表があり,標準運転モードと閉じ込め改善運転モードに大別してそれぞれのトピックスが報告された.前者ではダイナモと磁気リコネクションにおけるホール効果の役割を詳しく調べ,周辺部のm=0の共鳴面付近ではホールダイナモ電場が大きいことが示された.後者では,ポロイダル電流の誘導駆動PPCDによるダイナモ抑制によってトカマクライクな閉じ込め性能が得られており,次のステップとして種々の方法による追加熱や電流駆動を実施するとの今後の展望が示された.TPE-RXでは,2段から5段に増設したPPCDによって更なる閉じ込め改善が実現され,そのデータベースからPPCDの閉じ込め改善モードは強いピンチパラメータ依存性をもつ従来のTPE閉じ込めスケーリング則に従うことが示された.また,ある時刻から準単一ヘリシティ状態(QSH)のRFP配位に自発的に遷移することを軟X線トモグラフィ計測によって明らかにしている.また,RFX とEXTRAP-T2Rではエッジにおける乱流輸送とE×Bフローの計測結果について両装置で比較された.ローレンスリバモア国立研のSSPXでは同軸型のヘリシティ入射によるスフェロマックの生成と電流維持を行っており,磁気揺動を0.5%にまで抑制すると電子温度が最大250 eV まで上昇し,閉じ込め特性を飛躍的に改善することに成功した.また,スフェロマック型コンパクトトーラス(CT)入射実験がJFT-2MとカナダのSTOR-Mトカマク装置で行われており,CT入射によってダイバータ部での密度揺動や磁気揺動が顕著に軽減されることが初めて観測され,燃料粒子補給だけでなく閉じ込め改善の効果を示唆する結果が両装置で報告された.HIT-SIでは誘導型ヘリシティ入射によるスフェロマックの生成と維持実験に向けて準備が進められており,RFP構造をもつユニークなACヘリシティ源の特性が報告された.FRCの定常維持の方法として回転磁界(RMF)による電流駆動がFIXとTCSで行われ,それぞれ4 ms,10 msと大幅な寿命の延長がなされた.しかし,通常のFRCに比べて低い密度と温度の改善が今後の課題である.FRX-LではFRCを金属ライナー中で急速圧縮して核反応を起こす計画が報告された.TS-4では合体によるFRC生成におけるイオンの運動論的効果が調べられた.Proto-RTでは内部コイル表面の電位バイアスにより,音速フローの誘起を行い,今後,フロー速度と密度を増大させ高ベータのダブルBeltrami平衡プラズマを生成する予定である.代表的なミラー装置であるGAMMA10では径方向シア電場による乱流揺動を抑制することが報告された.

(永田)


(5)磁場閉じ込め理論

 今回のIAEAにおける磁場閉じ込め理論関連の発表の特色は,一つは,理論のオーバービューが取り入れられ,米国のDiamond博士が,現在の理論研究の最もホットな話題であるドリフト波乱流理論に関連して層流(ゾーナルフロー)の物理に関した発表を行った点であり,もう一つは,理論のサマリーでConner博士が述べたように,最近著しく発展したシミュレーションコードに基づく解析が様々な理論研究で発表の中心を占めていた点であると思われる.

前者のゾーナルフローの物理では,ドリフト波乱流の発達とゾーナルフローの生成が不可分であり(モnew paradigm of drift wave-zonal flow turbulenceモ),ドリフト波乱流の発達自身が,乱流を抑制するゾーナルフローを生み出す自己調整(self-regulation)の物理機構と,乱流とゾーナルフローの共存系における研究の現状,および,残された問題等に関して,分かりやすい説明がなされた.

 後者の理論のサマリーでは,各国で競って開発されているシミュレーション研究手法とシミュレーションコードの驚異的な発展が印象的であった.

 乱流関連では,ジャイロ運動理論,および,ジャイロ流体理論に基づくコードが,それぞれ,局所的なフラックスチューブモデルに基づく解析から,大域的なグローバル解析へと進化し,様々な乱流:ETG乱流(TH/8-1,TH/8-4,TH/8-5Ra),TEM乱流(TH/8-4),ITG乱流(TH/1-4,TH/8-2,TH/8-3Ra,TH/8-3Rb,TH/8-5Rb)に関して解析が行われ,更には,実験との直接的な比較計算もなされていた(TH/4-1).上記シミュレーション解析は,プラズマコア領域が中心であるが,プラズマ周辺領域の解析(TH/4-1)や,コア領域と周辺領域との結合(TH/7-1)も視野に入れつつ,更に,乱流のみならず新古典効果を取り入れる方向性(TH/1-4)も示されていた.各コード間のベンチマークテストも行われてはいるようであるが,定性的および定量的な違いが,ジャイロ運動理論解析とジャイロ流体理論解析の間のみならず,ジャイロ運動理論解析の間にも存在しており,それぞれのコードの特徴と計算条件を明確化しながら,統一的な見解(それぞれの違いをふまえた理解)を構築する方向に全体としての研究が進むことが望まれるのではないかと考えられる.

 MHD関連では電流駆動型不安定性に関しては,ITERの主要課題と関連して,NTM解析が,誤差磁場による種磁気島形成(TH/6-3),シャー流の効果(TH/6-1),分極電流評価(TH/6-2)等で行われ,RWMでは,フィードバック制御による安定化(TH/2-1)やニューカム方程式に基づく新しい定式化(TH/P4-46)等が発表された.ディスラプションに関連しては,シミュレーションとDIII-D実験との比較研究(TH/P2-25),ハロー電流解析等(TH/2-2)が報告されている.圧力駆動型不安定性に関しては,交換型モードの非線形解析(TH/2-3),交換型およびバルーニングモードの理想線形解析(TH/5-6),バルーニング定式化の低磁気シア領域への拡張(TH/5-5),シア流の効果(TH/5-5,TH/P1-1),非線形発展(TH/P1-5),更に,圧力駆動型不安定性に対する二流体効果の線形および非線形解析(TH/P2-30)等が報告された.

 高速粒子とMHDモードの相互作用関連では,最近の理論解析の話題(TH/5-2Ra)と共に高速粒子を非摂動論的に取り扱う魚骨振動の解析(TH/5-2Rb)や,JT60-Uの非局所EPMモードのシミュレーションと実験との比較(TH/3-1Ra),2Dおよび3D平衡におけるTAE解析(TH/P4-38)等があった.

 輸送解析では,ITERでのコア燃焼プラズマの解析をめざして様々な統合コード(integrated transport code)の開発が繰り広げられており(TH/P2-3,TH/P2-4,TH/P2-9),プラズマエッジ領域での輸送解析でも,大規模なシミュレーションコードが開発され(TH/P6-39,TH/P3-7),SOL領域では,密度blob(泡)に関連したシミュレーション解析が行われている(TH/1-5).

 トピックスとしては,新古典理論に関連しては,旧古典(paleoclassical)輸送理論(TH/1-1)(トーラス内外の結合長以上の電子温度の均一化をバルーニング空間で論じており,理論的にすっきりしない点がある)の提案や,新古典理論の基本的オーダリングが破れる場合の数値解析が,ST等の低アスペクト比装置 (TH/P2-19)や,ヘリカル系(TH/P2-18)に対して行われている.トカマクの電流ホールの解析では,二対渦形成による電流ホール形成の可能性(TH/P2-10)や,平衡および輸送を考慮した理論とJT60-U実験との比較から電流ホールプラズマの形成維持機構を自律系の振る舞いとして捉える試み (TH/1-6) があった.異常輸送に関連しては,乱流による輸送過程をフィックの法則で記述できる拡散過程として捉えるのでなく,時空間的に非局所的で非マルコフ的な確率過程として捉える考える方が,圧力駆動型の乱流シミュレーション結果を連続時間ランダムウオークモデルを用いて解析することにより提案されている(TH/1-2).

 実験解析,理論解析の進展と最近の計算機技術の発展に支えられたシミュレーションコードの著しい発展が,今まで時間空間のスケールの違い(分離)を利用して要素還元的に個別に捉えてきた様々なプラズマ物理概念の包括的(異なるスケール間の相互作用の一体的な)取り扱いを可能とし,プラズマ物理,核融合研究に新しい知見を与えてくれるのではないかという期待を感じさせる発表が数多くあったが,先を急ぐあまりに検証がおぼつかないという懸念も残る会議であった.

(中島)







2.慣性核融合関係

 慣性核融合関係の発表は全発表中28件であった.その内訳はレーザー関係が23件,イオンビーム関係が2件,Zピンチが3件である.

 初日のオーバービューの筆頭は米国ローレンスリバモア国立研究所のLindlによるNIFの現状報告からスタートした.NIFでは現在4ビームが稼働中で,基本波で21kJ,3倍高調波で11kJの出力を持つ.全パルス長20数ナノ秒のテーラードパルスを作ることに成功している.このパルスは衝撃波加熱により圧縮プラズマのアイセントロープが高くなることを防ぐことができる.シミュレーション関係ではHydro code for 3Dを用いてホーラムターゲット内でのレーザー照射位置の情報も入れた形で燃料カプセルの爆縮のシミュレーションが行われている.ターゲット開発ではホーラムターゲットの中心軸上に燃料容器を隠すように「シャインシール」を置くことにより爆縮性能が20%良くなる一方,新たな爆縮不均一性が発生することが報告された.また,従来のプラスチックに変わりBe容器をBaseline targetにすることが報告された.これはBeの方がポリイミドや通常のプラスチックより1桁近く表面や内面の凸凹に対する要求精度が緩和されるためである.内面の凸凹の情報は爆縮初期の衝撃波が壁の内部を往復する間に表面に伝えられ,流体力学的不安定性の原因になる.Beの方がその伝わり方が少ないとされている.実際の製作はプラスチックの薄いシェルを鋳型にスパッタリングでコーティングされる.Beは水素の透過率が小さいのでレーザー加工で直径10ミクロン程度の穴を開け,マイクロ中空糸で燃料が充填される.Beシェルの中にDTの固体燃料層を作る必要があるが,その検査にエックス線の反射を利用して行っている.Be,固体水素ともエックス線の吸収が少なく,S/Nを取りにくいが,エックス線の点光源でバックライトすると,内面がシリンドリカルレンズの働きをし,内面が白く輝いた線となって観測され,検査が可能となる.NIF装置は2006年度には48本に増設され,2010年からはMJ級の実験が予定されている.

 阪大レーザー研からは高速点火の原理実証実験FIREXに用いられるレーザーLFEXの建設の現状が報告された.1/4の扇型に分割された4本のビームを増幅するシステムで,ほぼスケジュール通りに進み,2004年の春には試運転が行われる.プラズマ実験では流体力学的不安定性のレーザーによる安定化係数βを,全ての物理量を実験的に計測することにより決定できたことが報告された.また,Brをドーピングしたターゲットを用いたり,2波長によるアブレーションで流体力学的不安定性を大幅に抑制できたことが報告された.シミュレーションではFI3 (Fast Ignition Integrated Interconnecting Code)でコーンを持つターゲットでの高密度圧縮の様子が再現された.

 米国ロチェスター大学からはOMEGAを用いた実験の報告があった.OMEGAレーザーは出力30kJ,3倍高調波,照射の非様性<2%のレーザーで1時間に1ショットの割合で実験に安定に利用されている.本装置の目的はLLNL研究所のNIFによる点火実験とHydro dynamically Equivalentな条件を再現し,NIFによる点火の可能性を実験的に検証することを目的としている.重水素を充填したターゲットを用い,安定にDD中性子1011の発生を観測している.爆縮過程のプラズマ物理実験ではメインパルスの前に弱いパルスを照射するピケットパルスで流体力学的不安定性を抑制することができたことが報告された.これは弱いパルスを照射し,低密度のプラズマを形成し,そこに主レーザーを照射するもので,横方向の熱伝導の効果で抑制するものと考えられる.ターゲット表面の擾乱の波長が120μm以上ではあまり効果がなかったが,30μm程度では1桁近く成長が抑えられている.これらの結果からNIFで直接照射実験を行なった場合,点火は成功し,利得40ぐらいを達成するであろうと結論している.OMEGAレーザーでは2005年にはDTを用いたクライオ実験が,2007年には高速点火の実験OMEGA EPが計画されている.

 イオンビーム核融合関係ではロシアのSharkovが米国で研究されているホーラムタイプのターゲットではなく,円筒状の鉛に固体DTをつめたターゲットの概念を示した.円筒の長さはイオンビームのストッピング長よりわずかに短い.ちょうど鉛筆を輪切りにしたような形で,芯の部分が固体DTである.100GeV, 7MJ,75nsのPtイオンビームを5GHzの早さで円筒の軸方向から燃料のわずかに外側で円を描くように走査し,シリンダー状のイオンビームを形成する.固体DTを6g/cc以上に圧縮し,100GeV, 0.4MJ, 200psのイオンビームを芯の部分に当てると,片方より燃焼が始まり,芯全体が燃え600MJの出力が得られるという物である.いわばイオンビームの高速点火版といった概念である.

 米国のKilkenyはGeneral Atomics社を中心としたターゲット量産研究の現状と将来の炉に必要な1日500,000個の燃料ターゲットを製作できるかどうか,またその製作コストを議論した.直接照射ターゲットの場合,現在の技術の延長で,廃棄物対策も含めて1個17セント程度で発電コストの5.5%程度で製作可能であるとしている.イオンビームおよびZムピンチターゲットの製作コストと対発電コスト比はそれぞれ41セントと13.6%,3ドルと13%である.また,General Atomics社において,実寸法のターゲットインジェクション装置が稼動しはじめ,現在の投入精度は炉中心で±5mm程度で,改善を要すると共に,±20μmのビーム/ターゲット位置精度の要求に対し,ビームステアリングの重要性を指摘した.

 Norimatsu他は炉用レーザーのテストモジュールHALNA-10が10Hz, 75Wの運転に成功するとともに,電気からレーザーへの変換効率7%を達成したことを報告した.これは将来のダイオード励起ガラスレーザー実現につながる道を開くものである.また,最終光学系を保護するために回転シャッターとバッファーガスを併用する方法が提案され,現在の技術の延長で設計可能であることを示した.

 個別の講演ではMurakamiが「Impact fusion」なる新しい概念を示して注目された.これは高速点火コーンガイドターゲットのコーンの部分に薄い燃料層,アブレーターからなるふたを設け,この部分を108cm/sの高速に加速し,圧縮された燃料に衝突させ,点火燃焼に至らしめるものである.この方法では短パルスによる追過熱レーザーを必要としないので,エキシマレーザーなどにも応用可能である.

(乗松)






3.核融合装置工学関係

 核融合炉工学に関わる発表は,口頭発表(rapporteured paperを含む)12件およびポスター発表約50件を数え,前回会合とほぼ同等の発表件数であった.特にITER計画に新たに参加した中国および韓国からの発表が増加しており,両国における核融合開発が活発に行われていることを示していた.

 口頭発表においては,JT-60U,LHDおよびITER等の加熱装置開発並びに次世代炉(DEMOプラント)に向けた構造材料開発に関する発表がなされると共に,材料照射装置としての球状トカマク装置開発および現在建設中のKSTAR(韓国),EAST(中国),SST-1(インド)およびW-7X(EU)等の核融合実験装置に係る機器開発に関する報告があった.特にKSTAR等の装置開発は,主として超伝導コイルについての報告であり,装置の成立の鍵を握る超伝導コイル開発に注力していることを示していた.

 ポスター発表においても口頭発表と同様に,DEMOプラント関連の機器開発および材料開発に関するものが多く,機器開発における開発ターゲットがITER以降のDEMOプラントに推移しつつあることを示す一方,2002年の前回会合以降においてITER計画の進捗が停滞した結果として,機器開発の方向がITERからDEMOプラントに向けられているとも考えられる.

核融合炉工学関連のサマリー発表は最終日の最後の口頭発表としてY. Wan氏(中国科学アカデミー)が行った.発表内容は,EAST等の装置開発を主体としてまとめられており,基礎的な炉工学技術開発についてのウエイトが若干低い印象があったものの,特にアジア諸国における核融合開発の順調な進展を端的に示すものであり,満場の拍手をもって発表を終えた.

(鈴木)


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最終更新日:2004.12.24


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