加熱・電流駆動,不安定性に関する研究 

花田和明(九州大学) 

update is 2001.1.25 9時

0.総論

 会議全体を通して受けた印象は,総合性能の改善に向けた取り組みの充実である.総合性能の改善とは高閉じ込め,高密度,低循環電力,低熱負荷プラズマの定常化を意味している.

 加熱・電流駆動に関連した高閉じ込め研究に関するトピックスについて以下に記述する.ECHを用いて積極的な電子加熱を行い,アルファ加熱による電子加熱を想定したTe〜Tiでの高性能化(JT-60U,ASDEX-U),および電子輸送障壁の形成(DIIID,FTU,ASDEX-U,TJII, CHS)の確認が行われた.また,IBWを用いてポロイダル回転シアをつくることで輸送障壁が形成されること(FTU)も報告された.高βN化に際して問題になるNTMの発生領域に関して報告があり,(JET,T-10)NTMの発生に関して現在のITERの設計が高βNまで安定な領域にあることが確かめられた(JET).ECCDによるNTMの抑制が報告され(ASDEX-U, JET, DIIID, FTU, T-10, COMPASS-D等),磁気島上の局所電流駆動が重要であることが確かめられた(ASDEX-U, DIIID).LHCDを用いて電流分布を変えることによりNTMの抑制に成功した(COMPASS-D)ことが報告された.外部コイルをフィードバック制御することによりRWMの成長を抑えることに成功した(DIIID)ことが報告された.また,高三角度化によるELMの制御(JT-60U, JET)の報告もあった.

 高密度化では密度がグリーンワルト限界に近づくにつれてペデスタル部の温度が下がり閉じ込めの劣化を招いているが,内側ペレット入射によりプラズマ中心部に燃料を補給することにより閉じ込めが劣化しない結果について多くの装置から報告された.

 加熱・電流駆動では分布制御に関する報告が多かった.ECCDでは,実測された電流分布と計算が定量的に一致することが確かめられ(DIIID),完全電流駆動の報告もあった.(ASDEX-U,TCV).また,中心電流駆動では負イオン源のNBIで1.55×1019A/m2/Wを達成した(JT-60U).NBIを用いてプラズマ回転を制御し内部輸送障壁が制御できることが報告された(JT-60U).

 定常化に向けた試みとして,NBIやICRFでの長時間放電(LHD)や長時間放電での駆動効率の改善(TRIAM-1M)等の報告があったが,ヘリカルや球状トカマクでのディスラプション(W7-AS, MAST, NSTX)も報告された.

 以下に加熱・電流駆動および不安定性に関する報告のうち,主なものを紹介する.図・表に関しては論文番号を記載しましたので興味のある方は原論文を御確認ください.

1.各論

1.1 ECH/ECCD実験

a)ECH

ECHに関しては電子輸送障壁形成に関する報告とECHにより生成された熱パルス伝播解析に関する報告を紹介する.

・電子輸送障壁

 ECHにより直接電子加熱を行うことで電子温度に輸送障壁が観測されるようになった.DIIIDでは,ECHにより直接電子加熱を行うことで電子の熱伝導係数が1/10程度に下がり,電子の輸送障壁が形成されている(図1.1-1).このときイオンの熱輸送係数もneoclassicalよりも下がっている.これは電子の輸送が改善した場合にはイオンの輸送を決めている長波長の揺動も安定化されるからであると考察されている.実際にDIIIDの電子輸送障壁では長波長の揺動レベルが減少していることがマイクロ波反射計によって観測されている.

図1.1-1 ECHにより形成された電子輸送障壁.xiも同時に減少している.
(IAEA-CN-77/OV1/3から抜粋)

 

 トカマク同様にヘリカル装置であるCHSでもポテンシャル分布をHIBPにより測定し,Erシアの強い場合(BellとDome型)の場合に揺動レベルが50%減少し,電子の輸送障壁が形成されることが示された.またTJ-II装置でもECHにより電子の輸送障壁が形成されることが示された(図1.1-2)

 

図1.1-2 2種類の異なる密度領域での電子温度分布.低密度の場合には電子の輸送障壁が形成されている.

・ECHにより生成された熱パルス伝播解析

電子の輸送を決定するモードとしてETGモードが注目されている.ETGモードで電子の輸送が決まる場合には,

χ= T3/2 0 + ξTG ・G (∇T/T)-(∇T/T)c]

に従うことが知られている.ここでχは電子の熱輸送係数,ξ0はTG揺動のない場合の輸送,ξTG ・G は,TG揺動のある場合の輸送で,Gは,∇T/T ≦ (∇T/T)cでは0である.したがって,ETGで輸送が決定されている場合,輸送係数にある臨界値が存在することになる.ASDEX-Uでいわゆるstiffness(勾配がある一定値に固定される)が観測され(図1.1-2),χPBがあるしきい値を境に増加することが示された(図1.1-3).これらのことは電子の輸送がETGにより決定されていることを示唆するものである.

 

図1.1-2 0.8MWと1.6MWのECHで中心加熱した場合の電子温度分布(IAEA-CN-77/EX2/2から抜粋)

 

図1.1-3 ジャイロボームの温度依存性で規格化したχPBの温度勾配依存性(IAEA-CN-77/EX2/2から抜粋)

2種類のECH(定常なものと時間的にModulationをかけたもの)を用いて種々の温度勾配における熱パルスの伝播から熱輸送係数を観測する実験が行われ,χPBと同様にある値を境に増加することが示された(図1.1-4).これら結果は電子の輸送がETGで決定されることを示唆している.

図1.1-4 ρ=0.6でのχHPの温度勾配依存性.温度勾配の変化はECHのパワーやパワー吸収分布の変化により生成された.(IAEA-CN-77/EX2/2から抜粋)

b) ECCD

・ECCDの局所性の確認実験 

 ECCDは局所電流駆動が可能で高温になるほど電流駆動効率が上昇し,マイクロ波の周波数に応じた遮断を除けば核燃焼プラズマでも使用できるためメインの電流駆動法として期待されている.しかしながら現在のところ電流駆動効率がLHCDなどと比較して一桁低いためその高効率化が必要である.DIIIDではMSEを用いた詳細な電流密度の変化の測定と計算機コードによる計算の比較が行われた.図1.1-5に結果を示す.これらの結果は空間分布が定量的に一致している.この結果から,将来の炉心級プラズマにおいてどの程度の電流駆動効率が期待できるかを予測できるようになることを期待する.

図1.1-5 MSEで測定されたECCDによる駆動電流の径方向分布とToray-GAコードによる計算結果の比較((IAEA-CN-77/OV1/3から抜粋)

・ECCDによる完全非誘導電流駆動実験 

 ECCDによる完全誘導電流駆動の実験結果がTCVとASDEX-Uから報告された.このうちTCVの結果を図1.1-6に示す.

図1.1-6 210kAのECCDによる完全非誘導電流駆動プラズマの放電波形.上から(a)プラズマ電流,(b)ECパワー,(c)一周電圧,(d)OHコイル電流,(e)線平均密度,(f)中心電子密度,(g)内部インダクタンス.(IAEA-CN-77/OV5/1より抜粋)

2秒間,ECCDのみで電流を支えている.プラズマパラメータの緩和に要する時間は約0.5秒である.ブートストラップ電流の割合は8%で,電流駆動効率は0.073×1019A/W/m2である.パワーの吸収分布をプラズマ中心に集中させると電流駆動効率が0.16×1019 A/W/m2まで改善するがMHD不安定性が発生し,プラズマは崩壊してしまう.ECCDによる電流駆動効率はITER等で要求されている効率と比較すると一桁以上低く,電流駆動効率の改善が必要である.

・ECCDによるNTMの抑制実験

 ECCDに関連した実験で最も多く報告されていたのはNeoclassical Tearing Mode(NTM)の抑制である.NTMが高βNの限界を決めている場合も多いため,その抑制には多くの努力が払われている.ASDEX-Uでは,ECHとECCDのどちらの効果が有効かについて実験し,ECCDが有効であることを確かめている(図1.1-7).ECHにより磁気島が加熱されて圧力勾配が増えればブートストラップ電流に起因する不安定項が減少し,NTMの安定化につながると考えられるが,ASDEX-Uの観測では磁気島中の電子温度の上昇はほとんど観測されず,結果としてECHによる抑制効果はほとんどないことがわかった.ECCDによる抑制に関してASDEX-Uでトロイダル磁場を時間的に変化させることで局所性が詳細に調べられ,磁気島から離れた場所では抑制の効果がないことが確かめられた.DIIIDではMSEによりECCDで流れた電流を測定し,NTMの抑制に効果のある場所を同定している(図1.1-8).磁気島との位置関係では,磁気島上でもやや小半径外側に電流駆動した場合にNTMが抑制されていることがわかる.

図1.1-7 NTMの抑制に関するECCD(上側波形)と純粋なECRH(下側波形)の比較.ほとんど同じパラメータの放電でECRHの場合にはわずかな抑制効果が見られるにすぎないがECCDの場合には完全な抑制に至っている.(IAEA-CN-77/EX3/1から抜粋)

 時間的にECCD用のマイクロ波の電力をNTMの周波数に応じて変化させる(AC)と定常電力(DC)で抑制の効果が調べられたがACとDCでほとんど差のないことが確かめられた.これは,ECCDで発生した高速電子は磁力線に沿って速やかに一様化することを意味していると考えられる.ASDEX-Uでは,βN〜2.2-2.5の領域で全入射電力の約10%のECCD電力入射(15-20kAの電流駆動)でNTMの完全な抑制に成功しているが,抑制後のβNがNTM発生前の値には戻らない.これは,ECCD用のマイクロ波を入射したことによる閉じ込めの劣化の結果であると説明している.

 今後の課題としてNTMを抑制するのみでなくNTMが出現する領域よりも高いβN領域で安定な放電が形成できるかを確かめる必要があるだろう.

 

図1.1-8 ECCDによるm=3/n=2の抑制.(b) n=2の磁気揺動信号では完全な抑制が見られる.(c) モードが抑制された場合にはβNは回復する.(d) 計算されたECCDによる電流分布.トロイダル磁場を変動させてECCDの分布の挿引を行った.(d)図下側はm=3/n=2モードの磁気島の位置と磁気島の幅を示している.(IAEA-CN-77/OV1/3から抜粋)

 

1.2 LHCD実験

 LHCDに関してはNTMのLHCDによる抑制と電流駆動効率の改善および高密度電流駆動について紹介する.

・LHCDによるNTMの抑制

 ECHで追加熱された高βNプラズマにLHCDを行いNTMを抑制する実験がCOMPASS-Dで行われた.入射したLHCDのパワーは全入射パワーの10%程度である.LHCD入射から10msでモードの抑制が起こり始めている.この時間スケールはLHCDにより駆動された電流が伝播していく時間(7ms)に近い(図1.2-1参照).LHCDでNTMを抑制している間,すこしづつβNは上昇しているが,LHCDを止めるとまたNTMが発生しβNの上昇が止まる.また,LHCDの最中はECH用のパワーが落ちているため全入射エネルギーはほぼ一定である.これらのことからLHCDによるNTMの抑制に成功したと報告している.

図1.2-1 LHCDによるNTMの抑制(IAEA-CN-77/EX3/2から抜粋)

LHCDによるNTMの抑制の原因についてはLH駆動電流の計算から,q=2面でのΔ' が大きく負になり結果としてNTMの不安定項よりも大きくなったことが原因であると説明している.図1.2-2にq=2面でのLHCD入射の有無でのrsΔ' を示す.この結果からLHCDによる駆動電流がq=2面上にある場合にrsΔ' は-3程度になることが予想され,数値的な計算によるとrsΔ' は大きく負になることがわかる.また,LHCDによるNTMの抑制に必要なパワーとしてPLH / ne = 10(kw / 1018 m-3)程度であることを実験的に示している(図1.2-3).

図1.2-2 LHCDによる駆動電流の径方向位置に対するrSΔ'の依存性.点線はLHCDを入射しない場合を示している.黒いひし形はBANDIT-3Dコードで計算した駆動電流の位置.(IAEA-CN-77/EX3/2より抜粋)

図1.2-3 線平均密度で規格化したLHCD のパワーに対するNTMの揺動の強度
(IAEA-CN-77/EX3/2から抜粋)

・LHCDの電流駆動効率の改善

 LHCDは多くの電流駆動法のなかで最も高い電流駆動効率を達成している.LHCDの駆動効率は,電子温度に比例して上昇する経験則が得られている.超伝導装置であるTRIAM-1Mにおいてオーミック電場のない完全非誘導電流駆動プラズマで電流駆動効率が自発的に改善する現象が見つかったと報告された.図1.2-4に典型的な放電波形を示す.電流駆動効率が自発的に4秒で上昇し,電子密度,イオン温度も同時に上昇している.このプラズマの電流拡散時間は0.2秒であり,LHCDのパワーを増加させてから電流拡散時間の10倍もの時間経過後にこのような高効率電流駆動モードへ遷移している.高効率電流駆動モードへ遷移する領域を図1.2-5示す.電流駆動の改善と同時にイオン・電子温度,密度が上昇し,閉じ込めも改善するため相対的に高密度領域に高効率電流駆動モードの領域が存在している.高効率電流駆動モードへの遷移を起こすためには入射パワーがあるしきい値があることも観測されている.

図1.2-4 (a)プラズマ電流,(b)線平均電子密度,(c)イオン温度,(d)電流駆動効率,(e)入射LHCDパワーの時間発展.入射パワーは80kW(隣接導波管位相差Δφ = 90o)のLHCDの完全非誘導電流駆動プラズマに2秒から新たなLHCDパワー(隣接導波管位相差Δφ = 90o)を入射する.高効率電流駆動モードに4秒から自発的に遷移する.(IAEA-CN-77 EXP5/25より抜粋)

図1.2-5 電流_密度図上での定常運転領域の拡大.(IAEA-CN-77/OV5/3より抜粋)

 ・高密度領域のLHCD

 超伝導トカマクHT-7で,5τEn の間0.9nGWの状態を維持することに成功したと報告された(図1.2-6).このプラズマはHモード遷移パワー近くでHαが減少した改善閉じ込めモードに強いガスパフを行い達成された.やがて密度がそのまま上昇しディスラプションに至る.nGWの90%~75%の間にあればディスラプションなしに維持できると報告されている.

図1.2-6 トロイダル磁場2T,LHCDパワーは300kW.

1.3 ICRF実験

 IBWでポロイダル回転シアを造り出し,電子輸送障壁の生成に成功したとの報告があった.(433MHz)図1.2-7 に電子温度と電子輸送係数を示す.電子温度は4ΩH = ω0 の共鳴層近傍から立ち上がり,電子に輸送障壁が形成されている.

図1.3-1 (左図)オーミックプラズマとIBWプラズマの電子温度の比較.(右図)4ΩH = ω0 の共鳴層の内側で電子輸送係数が減少し,閉じ込めが改善している.IBWは4ΩH = ω0 の位置が重要である.

 LHDではICRF単体でプラズマの立ち上げに成功した.また,NBI単体でも成功しておりヘリカル装置におけるプラズマ生成の自由度が増した.図1.3-2にNBIでの立ち上げの波形を含めて示す.

図1.3-2 (a)ICRF単体によるプラズマ生成と(b)NBI単体によるプラズマ生成の放電波形
(IAEA-CN-77/OV1/4より抜粋).

 

1.4 NBI実験

 NBIに関しては,JT-60Uで行われた負イオン源NBIによる電流駆動実験および電子加熱実験とITB制御に関する実験を紹介する.

・負イオン源NBIによる電流駆動実験

 炉心級プラズマにおいて中心部の電流駆動はブートストラップ電流のシード電流としての役割や電流分布制御の意味でも重要である.炉心級プラズマの中心電流駆動として期待されているのがECCDやFWCDとともにNBIによる電流駆動である.特にECCDやFWCDは現状では電流駆動効率が低く,基幹の電流駆動法としては問題がある.一方,NBIは負イオン源を用いることで高エネルギー化に成功し,その電流駆動効率の改善が期待されている.

図1.4-1 N-NBによる電流駆動効率(IAEA-CN-77/OV1/1より抜粋)

 JT-60Uで行われたN-NBI実験の結果をまとめたものを図1.4-1に示す.電流駆動効率は電子温度とともに上昇している.また,理論予想とも良く一致している.ECHを行うことで電子温度を13keVに加熱し,加速エネルギー350keVの入射を行ったところ電流駆動効率は1.55×1019A/W/m2に達した.この値も理論予想に合致している.

・N-NBIによる電子加熱によるTe〜Ti領域での高閉じ込め実験

 核燃焼プラズマでは核融合反応により生じた3.5MeVのアルファ粒子による強力な電子加熱により電子温度がイオン温度よりも高くなることが予想される.しかしながらこれまで行われてきた実験のほとんどがイオン温度の方が高く,Te>Tiのプラズマに対するデータベースの充実が急務である.

 JT-60Uでは360keVのN-NBIによる電子加熱を用いてTe〜Ti領域での閉じ込め実験を行い,H89PL=3の高閉じ込めプラズマの実現に成功した.また,N-NBI単独でのHモードプラズマ,LHWによる負磁気シアモードでの高閉じ込め等Te<Tiの領域とほとんど同じプラズマ性能を得ることに成功した.これらの実験結果をまとめたものを図1.4-2に示す.

図1.4-2 高βpHモードと負磁気シアHモードの高閉じ込め領域のTe〜Ti領域への拡張.(IAEA-CN-77/OV1/1より抜粋)

・ITB制御

 NBI入射によってトロイダル方向のトルクをプラズマに与えてイオンの輸送係数を制御する実験がJT-60Uで行われた.結果を図1.4-3に示す.COは電流方向にトルクを与える入射であり,CTRは逆方向,BALはCOとCTRの組み合わせである.BAL入射の場合にχiはneoclassicalのレベルにまで下がり,イオン温度に急峻な輸送障壁が現われている.BALの場合に大きなトロイダル回転シアが形成されている.一方のCOやCTRの場合には輸送障壁は形成されているものの勾配はBALの場合に比べて急峻ではない.

 

図1.4-3 NBIを用いたトロイダル回転分布の変化によるITB構造制(IAEA-CN-77/OV1/1より抜粋).

図1.4-4に示すようにErシアを比較するとBALの場合には∇Pの寄与とトロイダル回転による寄与が同方向であるためお互いに強めあいErシアは大きくなっている.一方,CO入射の場合には∇Pの寄与とトロイダル回転が逆方向でお互いに弱めあうためErシアは小さくそのためITBも急峻にならないと説明している.なお,ポロイダル回転による寄与は小さい. 

図1.4-4 a)BAL入射(左図)とCO(右図)におけるITBの形成.入射急峻なイオン温度分布のErシア分布とさほど急峻ではないErシア分布(IAEA-CN-77/OV1/1より抜粋).

 

2.不安定性
2.1 Neoclassical Tearing Mode (NTM)

 NTMは,近年の高βNをめざした放電で観測され,NTMが出現するとβNが上がらなくなる.NTMはTFTRのスーパーショットで最初に同定された不安定性で,磁気島中で圧力勾配がなくなり,ブートストラップ電流が流れなくなることで磁気島の幅が広がり,さらに圧力分布の平坦化が進むことで成長する.

 DIIIDでm/n=2/1 NTMに対する安定限界の95%のβN値を維持するようにフィードバック制御を行い,高性能プラズマ(βN ・ H89P =7)を電流拡散時間の3倍の間維持することに成功した(図2.1-1).これ以上βNを上げるとNTMによる閉じ込めの劣化が起こりβNは下がる.また,この放電の後半(6秒以降)でβNが下がってくるとm/n=2/1の磁気揺動のレベルも下がり,NTMの特徴を示している.この結果は,NTMが高βNを制限している一つの大きな要因であり,βNを制御すれば定常化が可能であることを示している.放電の前半(0.5秒以前)ではRWMが全体のβNを制限している.このときプラズマ中心での安全係数q0は1.5以上であり,q0が1に近づくにつれてRWMの安定限界よりもNTMの方が低くなる.NTMはq0が1.5以下になると顕著に現われる.

図2.1-1β値を安定限界の95%に維持し,密度もn/nGW=3に保つことで高性能(βN ・ H89P =7),長時間(3τR)放電に成功.もしβNが増加するとm/n=2/1モードが成長してβNが下がる(一番上の図の実線と一番下の図).(IAEA-CN-77/OV1/3から抜粋)

しかしながら今後,さらなる高性能定常化を実現するに当たってNTMの発生限界を調べることは重要である.特にNTMの磁気島の成長を止める安定化機構として磁気島を横切る輸送(モデル)とイオン分極電流の効果が提案されていて,どちらの効果がより重要であるかを実験的に確認する試みがなされている.どちらの安定化機構もβPに対する臨界値を予想するのでNTMの発生領域を調べることで2つの安定化項の効果について調べることが可能と考えられる.ASDEX-Uでは,ペレットを入射して衝突周波数を大きく変える実験を行い,NTMの出現領域は規格化された衝突周波数,v*には依存せず,,すなわち規格化されたイオンラーモア半径ρ*に比例する結果を得た(図2.1-2).

図2.1-2 IAEA-CN-77/EX3/1から抜粋

この結果はイオン分極電流による臨界値の予想に合致するが,磁気島の内側で電子温度に勾配が観測されている.モデルによるとNTMが出現するために必要な磁気島の幅がが古典的なスピッツアの表式で書け,がジャイロボームで決まるとするとNTMの出現がv* に依存しないことは説明できる.したがって,この結果から2つの安定化モデルの優劣は決定できないとしている.JETにおいてもNTM出現領域がρ*に比例することが報告されている(図2.1-3)が局所的なプラズマパラメータを使用することでデータのScatterが減ることが報告されている.JETでもこの結果からNTMの出現がイオン分極電流の効果と決定することはできないとしている.

図2.1-3 標準プラズマ形状におけるNTMがonsetするβN値(IAEA-CN-77/OV1/2から抜粋)

 JETでは,安全係数qに対するNTMの出現領域が調べられた(図2.1-4).この結果,q95が3以下で臨界βNは急激に減少し,Disruptionに至る.同様の結果はASDEX-UやCOMPASS-Dでも得られている.またq95が4以上ではDisruptionに至りはしないがすこしづつ臨界βNが減少することがわかる.ITERの設計値(q~3.3)はNTMの臨界βNとしては高くなることが予想できるとしている.

図2.1-4 q95に対するNTMがonsetするβN値依存性(IAEA-CN-77/OV1/2から抜粋)

 

JETではプラズマ形状の効果が調べられている(図2.1-5).プラズマ形状に関してはNTMの磁気島の発展を記述するModified Ratherford Equationに陽には含まれていない.Modified Ratherford EquationではβNはβN (Lq/Lp) 0.3の形で含まれているので,プラズマ形状の変化よるLq/Lpの変化を考慮すると図2.1-6のようにプラズマ形状に対する依存性は消失する.この結果はModified Ratherford Equationの正当性を確認するものと考えられる.

図2.1-5 m/n=3/2モードに対するβNのしきい値(ρ* = 8 ×10-3 , v* /εω* = 0.04).(a)楕円度1.7での三角形度依存性.(b) 三角形度0.3での楕円度依存性.(IAEA-CN-77/EXP3/02から抜粋)

図2.1-6 一定ρθ*,楕円度1.7での三角形度依存性(IAEA-CN-77/EXP3/02から抜粋).

2.2 Resistive Wall Mode (RWM)

 完全導体が存在すると外部キンクモードは安定化されるが,実際の壁は抵抗があるためモードの安定化に働く渦電流が減衰してしまうため壁からあまり離すと外部キンクモードが不安定になる.一方,壁に近づけすぎるとプラズマの回転が壁の時定数程度に減少し,抵抗性壁モード(RWM)が不安定になる.双方のモードを安定化する壁の位置はプラズマの回転がある臨界値を越えた場合には存在する.

 DIIIDにおけるRWMの典型的な例を図2.2-1に示す.

図2.2-1 RWMの一例.(a)サドルループで測定した磁気揺動はゆっくり伝播していくモードを観測している.(b)モードの強度,(c)モードが成長するたびにβ値が減少する(IAEA-CN-77/OV1/3から抜粋).

DIIIDの観測では,壁が存在しない場合の限界値,βNNo-wallを越えると小振幅のRWMによる磁気揺動が発生する.このモードは壁の時定数よりもゆっくり成長するが突然に成長率が壁の時定数程度のモードに遷移する.このことはDIIIDにおけるプラズマの回転がRWMを完全に抑制するには至っていないとする予想を支持するものである.NBIの入射エネルギーを変化させることでプラズマの回転を変化させてRWMの成長を比較しているが,この実験で,成長率が壁の時定数程度のモードへの遷移にプラズマの回転のしきい値が存在することが示されている(図2.2-2).

図2.2-2 (a) βN(実線)と壁のない場合の近似的な限界である2.5liとNBI源の数,(b)センサループでのRWMによるn=1強度,(c)ρ= 0.6でのプラズマ回転速度.縦線は早いRWMの成長と遅いプラズマ回転のonset(IAEA-CN-77/EXP3/01から抜粋)

 RWMの抑制については外部コイルにより壁位置での径方向磁場の摂動を打ち消し,完全導体シェルを模擬するsmart shellと外部摂動磁場に位相シフトを加えるFake rotating shellがある.ここではDIIIDで行われたsmart shell法およびその改良型によるRWMの抑制の結果について示す.真空容器の外に置いた6本のセンサコイルで観測した磁気揺動の信号に応じて真空容器外部に巻かれたCコイルに流す電流をフィードバックしてsmart shellを実現する.この場合,外部コイルに起因する径方向磁場と磁気揺動により発生する磁場の合計がセンサコイルで観測されるためフィードバックは両方の信号によって制御される.一方改良型では磁気揺動の信号のみをフィードバックに用いる.結果を図2.2-3に示す.フィードバック制御を行わなかった場合に比べてsmart shell法によるフィードバックを行うとβNの高い状態が続いている.改良型ではさらに持続していることがわかる.また同様のsmart shell法によるRWMの抑制実験がHBT-EPトカマクでも実施され,n=1のRWMによる磁気揺動の抑制に成功している.DIIIDでも測定用のコイルの位置を工夫しさらに改良をめざして実験を行う予定である.

図2.2-1 RWMの外部コイルによる抑制(IAEA-CN-77/OV1/3から抜粋).

 

2.3 ELM

 ELMについては物理,工学の面から多くの研究がなされている.TYPE-I ELMはL-H遷移のスケーリングよりも大きな加熱パワーを入射した場合に多く発生する.TYPE I ELMは一回のELMによって放出されるエネルギーが大きくダイバータ板に与えるダメージが大きいためELMを制御する試みが行われている.またそのスケーリングの充実も大きな課題である.ここではJT-60Uで行われたELM TYPE制御の実験結果およびDIIIDで行われた高密度領域でのELMについて紹介する.

 JT-60Uではプラズマ形状の三角形度を上げることでELMのTYPEを制御することに成功している(図2.3-1).原因としては三角形度を変化させることでプラズマ周辺部の磁気シアが変化していることを挙げている.ELMの制御はITERにおいても重要であるが,現状のデータベースは不足している.

図2.3-1 三角形度が上がるとTYPE I(Giant)からTYPE II(Grassy)へと変化する.

また,ELMにより発生するエネルギーパルスはダイバータ部を直撃するためダイバータ板への大きな熱負荷の原因となり,またデタッチプラズマをアタッチプラズマに変える等ダイバータプラズマに大きな影響を与える.ダイバータ板の熱負荷の問題は核融合炉全体の大きな課題であり一回のELMにより吐き出されるエネルギーのスケーリングは装置設計の上で重要である. 

 DIIIDによる低中密度領域の実験では同様に三角形度δが0.5付近でもTYPE-I ELMが発生している.一回のELMにより吐き出されるエネルギーとペデスタル部に蓄積されているエネルギーの比は三角形度に無関係であると報告している.DIIIDでは一回のELMで吐き出されるエネルギーはむしろ密度の上昇とともに減ることを報告している.特にn ≧ 0.6nGWではこれまでのELMに対するデータベースの値の半分以下になると報告している(図2.3-2参照).これが普遍性のある現象ならばITERの運転領域ではELMによる第一壁への熱負荷が大きく減少する可能性があり,今後詳細にデータを検討する必要がある.

図2.3-2 一回のELMにより失われるペデスタル部の電子のエネルギー割合を(a)電子密度と(b)電子温度に対して図示した.(IAEA-CN-77/EX2/4より抜粋)

2.4 Disruption

 Disruptionの回避はトカマクで核融合炉を設計する場合の最大の課題の一つであるが,もともとDisruption freeであるといわれていたヘリカルや球状トカマクでもDisruptionの報告があった.以下にヘリカル装置でのDisruptionの波形を示す.

図2.4-1 急速な電流立ち上げ実験で観測されたテアリングモードの急成長を伴なうDisruption-like現象.右図のECEの波形でわかるように1msで電子温度の急速な冷却が起こっている.この温度ではプラズマ電流を支える一周電圧が確保できない.インターロックシステムが働いてECHを停止しているため放電は終了した(IAEA-CN-77/OV4/3より抜粋)

 次に球状トカマクでのDisruptionの典型波形を図2.4-2に示す.

図2.4-2 球状トカマクにおけるDisruption(IAEA-CN-77/OV4/1より抜粋).

球状トカマクでのDisruptionでは前駆現象としてIREが必ず現われる.IREの発生からDisruptionに至るまでトカマクに比べて時間的に余裕があるため垂直位置の制御等で回避することが可能であると報告されている.