第56回Gaseous Electronics Conference
(GEC)


標記会議が2003年10月21〜24日の,サンフランシスコ市内のCathedralhill Hotelで開催されました.なお学会誌Vol.79-12月号に本報告ダイジェスト版が掲載されます。次回 は2005年9月26日〜29日にアイルランドで開催される予定です。



河野明廣(名大工学研究科)

 GECは独自の長い歴史を持つ会議であるが,昨年,それまで暫定的であった米国物理学会(APS)との関係が正式に確定し,APSの原子分子光物理分科(DAMOP)のyearly Special Meetingと位置付けられることになった。気体エレクトロニクスの基礎が規約上の会議のスコープであり,原子分子衝突を含み,放電・プラズマの応用に関わる基礎的側面の話題が主に討議される。本年(2003年)はサンフランシスコ市内のCathedralhill Hotelを会場として10月21〜24日の4日間にわたり開催された。米国の国内会議ではあるが,海外からの参加が多く,事実上の国際会議となっている。今回の参加者は349人(米国205,日本47,ドイツ17,韓国15,フランス11他,総参加国数は22),発表件数は337件(招待23を含み口頭160,ポスター177)と,昨年より大幅に増加した。

 例年のように,プレナリーで行われるGEC Foundation Talkを別として一般セッションは2並列で進行し,さらに特別セッション「プラズマエッチングのトレンド」および「熱プラズマワークショップ」が初日と3日目の昼食時間に(弁当付きで)設定された。初日と2日目のポスターセッションは夕7時からの設定であり,早朝(8時)から13時間にも及ぶ会議時間となったが,ポスターセッションの終わりまで熱心な議論が続いた。

 GEC Foundation Talkは気体エレクトロニクスの分野に大きな貢献をした研究者によるレビュー講演であり,今回はUC BerkeleyのJ. Coburnが選ばれた。The evolution of plasma etching in integrated circuit manufacturingと題して,過去30年にわたり,プラズマエッチングのキーとなる基礎的知見がどのように獲得され,エッチング技術・装置がどのように進展したかが印象的に講演された。

 毎年arranged sessionsと称して重点トピックスが選定され,招待講演の設定とともに,その分野への積極的な投稿が呼びかけられる。今回のテーマと招待講演は以下のとおりであった。

(1)低圧プラズマによる材料プロセス

・なぜプラズマエッチングにおいてより多くのtuning knobが必要か,またどのような
knobがベストか,R. Gottsho (Lam Res. Corp.)
・シリコンゲートエッチング時のプラズマ−壁相互作用とプロセスドリフト,
Gilles Cunge (Lab. Technol. Microelectronique, Grenoble)
・プラズマ源におけるプラズマパラメータ制御のメカニズム,H.-Y. Chang (KAIST)
・時間分解計測によるパルスマグネトロンプラズマの理解,J. Bradley (Univ. Manchester)

(2)ナノテクノロジーへのプラズマ応用

・カーボンナノチューブの成長と機能化における低温プラズマ応用,M. Meyyappan (NASA)
・微小重力および1G重力下のプラズマによるシリコンナノ構造生成,M. Shiratani (九大)
・気体,真空中におけるロバスト電子フィールドエミッタとしてのカーボンナノチュー
ブ,O. Zhou (Univ. North Calorina)

(3)高気圧グロー放電

・プラズマ−触媒協調による大気汚染物質の処理,A. Rousseau (Univ. Paris Sud)
・高気圧プラズマにおける励起種,反応種の時間空間分解診断,K. Tachibana (京大)
・コヒーレントおよびインコヒーレントレイリー散乱による中性ガス温度計測,R. Miles (Princeton Univ.)

(4)バイオおよび新応用

・水分子の電子衝突電離,B. Lohmann (Griffith Univ.)
・外科処置用放電のプラズマ特性,K. Stalder (Stalder Technol. and Res.),
・電離放射線により生成された高エネルギー種の超高速反応,S. M. Pimblott (Notre Dame Univ),
・羊毛繊維および種子の非平衡プラズマ処理,Z. Petrovic (Univ. Belgrade)
・プラズマニードル:生きた細胞と組織の処理,E. Stoffels (Eindhoven Univ. Technol.)

(5)電離および電荷移行衝突

・電離過程の3次元イメージング,M. Schulz (Univ. Missouri-Rolla)
・レーザー冷却された準安定ヘリウム原子の衝突過程,S. J. Buckman (Australian Natl.
Univ.),
・ウィークプラズマ中のイオン過程研究のための新技術,T. M. Miller (Air Force Res. Labs)

(6)リュードベリプラズマおよび高励起原子

・極低温リュードベリガスおよびプラズマ,P. L. Gould (Univ. Connecticut)
・リュードベリ原子の電子衝突電離,D. Vrinceanu (Harvard-Smithsonian Center Astrophys.)

(7)光源

・光源応用のための低圧Xe陽光柱プラズマ,D. Urhlandt (INP, Greifswald),
・微小重力および超重力条件下でのメタルハライドランプの特性,G. Kroesen (Eindhoven Univ. Technol)
・光源応用のための電子衝突断面積の計算,K. Bartschat (Drake Univ.)

 高気圧非平衡プラズマ,ナノ材料生成へのプラズマ応用は最近続けて取り上げられているテーマである。上述のようにこの分野では日本から2件の招待講演があった。

 一般発表(口頭,ポスター)のおよその分野と件数を以下に示す:高圧非平衡プラズマ(27件),バイオ・環境他新規応用(19件),ナノ材料生成(12件),デバイス・材料プロセシング(29件),プラズマ化学(13件),負イオン生成(3件),ダスティプラズマ(9件),プラズマ表面相互作用(4件),プラズマ推進(3件),光源プラズマ(26件),容量結合プラズマ(16件),誘導結合プラズマ(15件),磁場を利用するプラズマ(14件),グロー内諸現象(12件),シース(17件),プラズマ動力学・不安定性(5件),プラズマ診断(32件),モデリング・シミュレーション手法(11)件,レーザーカイネティクス(4件),輸送係数(4件),高励起原子(2件),原子・分子衝突過程(35件)。プラズマ診断やモデリングに関する発表は上に直接数をあげたものの他,全分野に分散して発表があり充実していた。名大・佐々木らのレーザー分光による超高感度電界計測技術を用いた負性プラズマシース内の電界計測の発表は注目を集めた。目新しいところでは,平面的に生成された大気圧グロー放電を用いた流れの境界層の制御やフローアクチュエータへの応用(テネシー大)があった。

 毎年,指導教官の推薦によりノミネートされた学生の口頭発表の中から学生最優秀発表賞が選ばれる。これらの発表は全体的に高レベルである。今年はBelgrade大(セルビア・モンテネグロ)のD. Maricが受賞した。異常グロー放電における相似則という古典的なテーマであったが,実験・モデリングの精細な比較により相似則の破れとその原因となる物理を論じていた。

 なお,GECの実質的な運営母体であるExecutive Committeeに近年は日本からの委員が加わることが恒例である。筆者は任期を終え,今後2年間の委員として北大・酒井洋輔教授が選任された。また2004年のGECは米国を離れ,9月26〜29日にアイルランドでの開催が決まっている。

 

(2003.11.15 原稿受付)


写真1:GEC Foundation TalkにおけるDr. J. Coburn



写真2:ポスターセッション



最終更新日:2003.12.1
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