第55回 Gaseous Electronics Conference
(GEC)


標記会議が2002年10月15〜18日の4日間,米国ミネソタ州ミネアポリス市で開催されました。以下に会議報告および写真を記します。なお学会誌Vol.78-12月号に本報告のダイジェスト版が掲載されています。
 次回 (2003 年) はサンフランシスコで開催される予定です。

 

赤塚 洋(東工大原子炉研)

 本年も米国物理学会(APS)のDAMOP(Atomic, Molecular and Optical Division)のTopical Conference の1つであるGECが,2002年10月15〜18日の4日間にわたり,ミネソタ州ミネアポリス市のMillennium Hotelにおいて開催された。本会議は,昨年度もほぼ同時期にPenn State Universityにおいて開催されたが,その折りは同時多発テロ事件の直後と言うこともあってか,急な参加取り消しが相次ぎ,参加者数の大幅な減少に見舞われたが,本年は全体で294名の参加者を得て,ほぼ従来どおりの規模で開催することができた。参加国と参加者数は以下のとおりである。米合衆国190名,日本27名,ドイツ18名,連合王国10名,フランス8名,オーストラリア6名,アイルランド6名,韓国6名,オランダ6名,ロシア4名,イタリア3名,スイス2名,カナダ,チェコ,メキシコ,ノルウェー,ポルトガル,台湾各1名の総勢294名であった。

 GECという会議のスコープや,歴史については,既に九州大学渡辺征夫教授がプラズマ核融合学会誌77号1251頁にてご紹介下さったとおりであるので詳細は省略するが,電離気体現象に関連する幅広い分野についての研究開発の発表と意見交換,およびそれらの発展を旨とする国際規模のConferenceであり,半世紀以上の歴史を有する由緒ある国際会議である。特に,原子分子の衝突基礎過程やプラズマシースなどの地味ながらも基礎科学として奥深い分野での活発な意見交換を特徴とし,電離気体現象の基礎科学的側面に重きが置かれている。この点,同様に米国で秋季に開催され,Plasma Scienceの多くの分野を取り上げている米国真空工学会(AVS)のInternational Symposiumは電離気体現象の応用現象,工業的色彩が強く,2つの会議の性格は対照的である。

 さて,本年度も,GECのプログラムは,(1)関連分野の発展に尽くした研究者によるレビュー講演としての“GEC Foundation Talk”(2)APS Allis Prizeを受賞した研究者による記念講演,(3)注目される研究テーマを取り上げるarranged sessions,(4)特定テーマを議論するworkshop,(5)一般講演(口頭,ポスター),の5つから構成された。本年のFoundation talkとしては,University of MinnesotaのEmil Pfender教授が選ばれ,“What do we know about the anode region of high-intensity arcs?”と題して,大気圧アーク放電や熱プラズマの基礎現象を理解するための原子過程・計測から流体工学といった広い分野にわたる同教授の多年にわたる研究成果が講演された。ミネアポリスでの開催にあたっては当然現地University of Minnesotaのスタッフが現地実行委員として尽力しており,彼らのグループは従来熱プラズマやアークの基礎・応用の分野で多大な成果を上げてきたが,それらの根幹を築いた人物こそPfender教授である。GECの伝統を尊重してか,応用面でも多数の業績を有するPfender教授であるが,アーク放電現象解明の中でも,かなり基礎的な面を強調した講演であった。(写真1

 また,本年のAPS Allis Prize受賞記念講演では,A. Garscadden博士により,Gaseous Electronics Physics Insideと題して,氏の米国空軍研究所におけるこの分野における様々な基礎研究〜主に電子衝突の物理学〜の成果が,ユーモアを交えつつ述べられた。

 今回のarranged sessions([ ]内は招待講演者)は,(1) 大気圧非熱平衡プラズマ[K. Okazaki(東工大), A. Fridman(Univ. Illinois Chicago), H.-E. Wagner(Ernst-Moritz-Arndt Univ.)], (2) プラズマとナノ構造材料[H.C. Shih(清華大), R. Hatakeyama(東北大)], (3) プラズマ推進[A. Bouchoule(GREMI, Univ. Orl斬ns)], (4) プラズマの生物応用・新応用[A. Ohl(INP, Greifswald), A.G.Shard(Univ. Sheffield), P. Favia(IMIP-CNR, Bari)], (5) 熱プラズマ〜光源と電極[J. Mentel(Univ. Bochum), U. Hechtfischer(Phillips-Aachen)], (6) プラズマプロセシング[R. Boswell(Australian national Univ.)], (7) プラズマ−表面相互作用[H. Toyoda(名大)], (8) 不安定性[P. Chabert(ツole Polytechnique)], (9) しきい値近傍過程[M. Allan(Univ. Fribourg), U. Thumm(Kansas State Univ.)], (10) 複雑な標的との衝突[T. Orlando(Georgia Inst. Tech.), M. Brunger(Flinders Univ.)], (11) 原子分子の電離[C. Whean(Old Dominion Univ.), A. Dorn(MPI Nocl. Phys.)], (12) 再結合と解離[N. Djuric (JILA, Univ. Colorado), C. Greene((JILA, Univ. Colorado))の12のトピックスについて設けられた。上記のように日本からも岡崎健(東工大),畠山力三(東北大),豊田浩孝(名大)の3氏が招待され,それぞれ“Spectroscopic Characterization of Atmospheric Glow Plasmaモ, メCreation of Novel Structured Carbon Nanotubes Using Different-Polarity Ion Plasmaモ, メBeam Study of Si and SiO2 Etching Reactions by Energetic Fluorocarbon Radicalsモと題し,応用上重要となるプラズマの基礎的現象解明に関して講演を行われた。我が国でも,基礎を重視した研究の中に,国際的に格段に優れたものがあることが理解された。

 ワークショップとしては,M. Lieberman(Berkeley)とR. Franklin(Oxford)によって企画されたThe Bohm Criterion and Sheath Formationが行われた。GEC では放電現象の基礎過程(特にシースに関連する現象)をテーマにこの数年ワークショップが継続して開催されており,例年とおり夜遅くまで徹底的な議論が行われた。

 一般講演とポスター発表についての分野と発表件数は,(1) プラズマモデリング6件, (2) 原子分子の電離2件, (3) プラズマ境界〜シースと境界層21件, (4) 熱プラズマとアーク15件, (5) 原子分子との電子陽電子の衝突16件, (6) 材料とデバイスプロセッシング13件, (7) プラズマ表面相互作用11件, (8) CCPと負イオンプラズマ8件, (9) プラズマの計算手法1件, (10) プラズマ診断39件, (11) ナノ構造材料用プラズマとダスティプラズマ19件, (12) 光源20件, (13) 高気圧非熱プラズマ30件, (14) 大気圧プラズマ化学3件, (15) プラズマの生物学応用及び新たな応用5件, (16) 電子陽電子光子の相互作用11件, (17) 重粒子の相互作用4件, (18) 分布関数と輸送係数6件, (19) 各種グロー放電10件, (20) ICP16件, (21) 磁場増強プラズマ9件, (22) レーザー媒質と反応過程1件, (23) 不安定性3件, (24) プラズマ推進とプラズマ空気動力学4件,で合計発表は273件であり,全体の規模として,前回に比べ増加が見られた。(なお,学会誌記載のものと若干相違があるが,会誌中ではスペースが少ない関係上,上記のいくつかを筆者の判断で同一枠にまとめたことをお許しいただきたい)

 余談になるのかもしれないが,従来GECでは,バンケットに際して,この分野の功労者のスピーチが座興の1つとなっていた。しかし,この前例を覆すデモンストレーションが,会議のSecretary であるUniversity of Minnesota のKortshagen助教授により上演された。同氏は趣味として真剣に社交ダンスを習っており,ミネソタ州競技大会に入賞するほどの腕前で,Social dance, American danceを同氏の師と共に披露してくれたのである。Kortshagen助教授はTangoを披露してくれたが,それは見事なものであり,前例を覆して披露するに十分以上であった(写真2)。通常社交ダンスでタンゴといえばコンチネンタルタンゴを指すにもかかわらず,彼はアルゼンチンタンゴ,しかも前衛芸術として高く評価されるアストル・ピアソラ作曲の「ブエノスアイレスの夏」を選曲するという徹底した前衛ぶりであった。今回の会議の成功と,それ以上に常日頃から「新しいものを作り出していく」という彼の意気込みが強烈に感じられた。

 なお,次年度以降の開催については以下のとおりである。2003年10月21〜24日San Francisco(http://gec2003.arc.nasa.gov/), 2004年9月26〜29日Bunratty(アイルランド)。本報の写真を御提供下さった大阪大学 田原弘一先生に感謝の意を表します。また,データの提供を下さったKortshagen博士に感謝致します。最後に,GECの実行委員会メンバーとして,我が国からも名古屋大学河野明廣教授が選出されており,会議運営・プログラム編集にあたりご尽力頂いていることを付記しておきます。

 

(2002年11月3日受理)


写真1:講演するPfender教授

 



写真2


最終更新日:2002.12.9
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