第45回アメリカ物理学会プラズマ物理分科会
(APS-DPP)年会


標記会議が2003年10月27日から31日までニューメキシコ州アルバカーキーのコンベンション・センターにおいて開催されました.なお学会誌Vol.80-01月号に本報告ダイジェスト版が掲載されます。次回は2004年11月にジョージア州サバンナで開催される予定です。



GAのPreter氏の講演



 

 ニューメキシコ州アルバカーキーのコンベンション・センターにおいて,標記の会議が2003年10月27日から31日まで5日間にわたり開催され,ほぼ例年の規模で活況を呈した。5件のレビュー講演,103件の招待講演,そして4件のチュートリアル招待講演(以上は,約160件の候補から採択された講演)があり,発表件数の総計は約1570件(その内,1,100件以上がポスター発表)にのぼった。インフォーマルセッションでは,Report on the Burning-Plasma Physicsと題したタウンミーティングが開かれ,National Research Councilへ提出された同書の内容紹介と自由討論が行われた。また,スペシャルセッションとして,ゼネラル・アトミックス(GA)社のボールドウィン博士の進行により,今年逝去された故ローゼンブルス博士の追悼講演が行われた。来年のAPS会議は,ジョージア州サバンナで開催される予定である。

 

○磁場核融合実験

 トカマクにおいて,高ベータ化および定常化の鍵となる抵抗性壁モード(RWM)と新古典テアリングモード(NTM)の能動制御が大きく進展したことは特筆に値する。米国のフラッグシップマシンであるGA社のDIII-Dは,真空容器内部に設置したRWM制御用コイル(I-coil)が,従来の外部設置コイル(C-coil)よりRWM安定化に効果的であることを示したが,プラズマ回転の影響については議論の的となった。電子サイクロトロン波電流駆動(ECCD),中性粒子ビーム電流駆動NBCDおよびブートストラップ電流により,完全電流駆動でβN〜3.5を約1秒間維持したことは高ベータ定常運転への大きな進歩である。また,m/n=3/2モードのNTMのECCDによる安定化が複数の装置で実証されつつある中で,DIII-Dではm/n=2/1モードのNTMのECCDによる完全抑制を行い,βNを2.9に回復するまで進展した。筆者は招待講演の中で,JT-60UではECCDをNTMの発生直前に入射することにより,NTMが飽和してから入射する場合よりも抑制に必要なECパワーが顕著に低減したことを報告し,注目を集めた。Prater博士による電子サイクロトロン波による加熱電流駆動のレビュー講演においては,JT-60Uにおける20 keVを超える高電子温度プラズマを用いたEC加熱電流駆動実験の結果が多く引用されていたことが印象的であった。

 プリンストン大学プラズマ物理研究所(PPPL)のNSTXは,ブートストラップ電流割合50%でβt--35%およびβN〜6.5まで高ベータ化を伸ばしており,最大でアルフベン速度の40%に達する速いプラズマ回転によりRWMが安定化され,壁無し理想MHD限界を35%超えた。NSTXでは,RWM制御用のコイルを真空容器の外部に設置する方向で検討を進めている。その他,マサチューセッツ工科大学のAlcator C-MODでは,運動量入射のないイオンサイクロトロン波加熱やジュール加熱に伴う閉じ込め改善時に顕著なプラズマ回転と異常運動量輸送が観測され,欧州連合のJETでは,内部輸送障壁を伴う先進運転において電流および圧力分布の帰還制御が実証されるなど,多くの新たな成果が発表された。 

 ステラレータについては,LHDの招待講演において,電子系の内部輸送障壁の特性がJT-60Uとの比較を含めて報告され,ECHによる10 keVの高電子温度の達成とともに,内部輸送障壁の内側では電子温度勾配の上昇とともに電子の熱拡散係数が低下するなどの結果が示された。ウイスコンシン大学のHSX装置からは,ECHによる600 eVのプラズマ生成や電極バイアス実験の結果などが報告された。また,NCSX(National Compact Stellarator Experiment)計画の装置設計が進み,コイルと真空容器のプロトタイプを製作中とのことであった。

(原研那珂研 石田真一)

○慣性核融合研究

 慣性核融合に関連する研究では,サンディア国立研究所のZマシーンの成果がまず挙げられる。Zマシーンとは,二枚のディスク間をつなぐように張り巡らされたタングステンワイヤに強力な電流を流すことでタングステンワイヤがピンチして中心部に爆縮する。その過程で発生される軟X線により,ディスク中心部に置かれた燃料球をx線間接爆縮するものである。図は,二枚のディスク部分のクローズアップ写真である。初日冒頭の招待講演で紹介されたZマシーンのX線による間接爆縮実験結果では,X線により220 eVの輻射温度が達成され(これは,リヴァモア国立研究所で進められている超大型のレーザー核融合国家プロジェクト(National Ignition Facility,NIF)において,X線間接爆縮方式で点火に必要とされる輻射温度300 eVを視野に捉えたことに相当),重水素ガス(25気圧)を詰めた燃料球爆縮では,1 × 1010乗の熱核融合による中性子を観測した。吸収されたX線のエネルギーは,20 kJを越えており,爆縮の比率は,元のターゲット半径から5−7分の一まで縮んだことが観測された。爆縮過程を観測したX線画像も昨年までのものよりは,格段に改善されており爆縮過程の制御に成功しつつある。リヴァモア研究所からは,2013年を目標にしている点火実験に使うターゲットデザインが紹介され,より均一な爆縮ができるよう二重球殻構造の設計例などより,流体不安定性に強いものが示された。


二枚のディスク部分のクローズアップ写真



 高速点火関連では,イギリスのラザフォード研究所から大阪大学との共同研究で,高速点火モデル実験を実施した結果が報告された。60TWの加熱レーザー(波長1ミクロン,パルス幅1ピコ秒,エネルギー60J)を6ビームの爆縮用レーザー(波長1ミクロン,パルス幅1ナノ秒,エネルギー900J)で爆縮したプラスチックターゲットの高密度コアに金のガイドコーンを通して導き加熱しようとした。電子のスペクトルは,コアを通過した際減少することを示したが,コアの加熱を示すバロメータである中性子の増加は,観測されるには至っていない。

 NIFの建設は,順調に進んでいる様子である。関係者の話によると一部のレーザービームを使って今年前半レーザー衝撃波の実験などが実施されようとしたが,実験と建設を同時並行で進めることには無理があり,実験は,中断され,建設に優先順位が置かれたようである。

(阪大・院・ 工/レーザー研 田中和夫)

○核融合プラズマ理論・基礎プラズマ

 トカマクを中心とした輸送研究に関して,ジャイロ運動論モデルに基づくシミュレーション研究が急速に進展している。PPPL,カリフォルニア大学アーバイン校(UC-Irvine),および日本を中心とした粒子手法と,GA社を中心とした速度空間を連続媒質として扱うブラソフ手法に関する一連の報告がなされ,競争関係の様相を呈している。一方,速度空間の厳密な構造を保持したブラソフ手法や,磁気軸近傍等の非局所性を考慮した新古典拡散輸送や電場形成に関する着実な研究が日本を中心に報告された。乱流輸送に関連し,これまでの帯状流の議論に加え,輸送のサイズスケーリングに影響を与える乱流の空間伝播・拡散に関する認識が深まり,波数空間のみならず実空間での乱流渦のダイナミックスの理論的理解が進展している。特に,小型装置に対しては,線形的に安定な領域への乱流渦の空間伝播がボーム型輸送特性をもたらすが,ITER等の大型装置に対しては局所性が回復し,ジャイロボーム的な輸送特性になるとの理論研究がPPPL等のグループから報告されていた。また,電子を断熱的に取り扱うイオン系を中心とした静電的な乱流シミュレーション研究から,捕捉電子効果や電磁揺動を取り入れたシミュレーション研究に重心が移りつつあり,電子系の輸送とともに,電磁効果に起因する帯状磁場等のダイナモ効果が磁場構造や乱流に与える影響が米国・日本から報告され議論されていた。捕捉電子効果に関しては,日米が共同で行ったベンチマーク研究がはじめて報告され,印象的であった。さらに,日本において主導的に研究が進められているミクロスケールの電子系とセミマクロスケールのイオン系の揺らぎ等,異なった時空間スケール(階層)の揺らぎ間の直接的相互作用や,帯状流・帯状磁場を介した間接的相互作用が,輸送障壁形成や間欠的な輸送特性をはじめとした様々な輸送ダイナミックスを理解する上で重要であるとの認識が深まりつつある。

MHD研究においては,NTMやRWMの解析をめざした解析コードや,TAEをはじめとした高エネルギー粒子駆動のMHDモードを扱うジャイロ粒子モデルやハイブリッドモデルの進展があった。特に,米国のNIMRODグループが進めているグローバルMHDコードは,二流体特性や df-PIC 手法による運動論効果,あるいは磁気島内部での磁力線に沿った積分形式による非局所熱伝導効果の導入等,拡張型MHDとして系統的にコード開発が進められている。また,乱流輸送コードに引き続いて,PPPLで開発されている非線形MHDコード(MH3D)とNIMRODについて,非線形段階での整合性はまだとれていないものの,コード間でのベンチマークが開始されている。

米国は,今後のITERにおける燃焼プラズマ予測研究において主導的立場を確保する観点から,DOE主導で進められている分野横断的計算科学プロジェクトSciDAC(Scientific Discovery through Advanced Computing)の一環としてFSP(Fusion Simulation Project)を計画的に進展させている。また,基礎分野では,実験室天文学研究と強くリンクして,磁気再結合に関する理論・シミュレーション研究が分野横断的に進められており,電子慣性効果・Hall効果が磁気再結合領域の構造に与える影響や,それに伴う非線形不安定性や突発現象を解明する研究が進展を見せている。

(原研那珂研 岸本泰明)

(2003.12.05 原稿受付)



最終更新日:2003.12.25
(C)Copyright 2003 The Japan Society of Plasma Science and Nuclear Fusion Research.
All rights reserved.