第8回ITER政府間交渉


標記会議が2003年2月18〜19日の2日間,ロシアのサンクトペテルブルグ市で開催されました。以下に会議報告を記します。なお学会誌Vol.79-04月号に本報告が掲載されています.
次回 は2003年5月20日〜21日 ウイーンで開催される予定です。


第8回ITER政府間交渉について      井上信幸

 第8回ITER政府間交渉(略称N8)が2003年2月18,19日の2日間にわたり,ロシア,サンクトペテルブルグ市のホテルモスクワで開かれた. 折りからサンクトペテルブルグ市は市制300周年にあたり,記念行事が行われているとのことであった.今回,藤原正巳核融合科学研究所長の代理として出席したので,会議の概略について報告する.

 周知のように,ITER計画には米国が再参加を,また中国が新たな参加を申請したので,日,欧,ロ,加の4極は,会議のはじめに両国を会場の外に待機させておいて,両国の参加について審議した.その結果,全会一致で両国の参加を承認した.次に平和目的と核不拡散についての協定(第19条)の内容について合意した.さらに,サイト共同評価(JASS: Joint Assessment of Specific Sites)の最終報告書を承認した.

 そののち,米中両国の代表が拍手をもって会場に迎え入れられた.両国の代表は安全で環境に優しいエネルギー源として核融合エネルギーを開発する意志を表明した.4極は中国と米国の核融合計画の重要性を認め,両国の政府間協議への参加を全面的に支持し,歓迎した.両国に対しては,ITER計画に参加するにあたっての条件,例えば第19条の遵守などが説明され,米中はこれらを受け入れた.

 会議の参加者は,カナダが5名の代表団(negotiators)と4名のエキスパート,以下それぞれ中国が12名と2名,EUが6名と7名,日本が6名と19名,ロシアが5名と17名,米国が2名と1名であった.また,ITERチームから3名,IAEAから1名が参加した.我が国の代表団は文部科学省3名,外務省1名,日本原子力研究所2名で構成された.またエキスパートは,青森県から木村守男知事以下7名(通訳を含む)の県職員,以下文部科学省,外務省,ロシア大使館,日本原子力研究所等からのメンバーで構成された.米国はワシントンが大雪に見舞われて航空機が欠航したため,予定の人数が参加できなかったとのことである.

 中国の代表団は,文化大革命の影響で殆どが30代とおぼしき若い人ばかりであるが,交渉に臨んでは巧みな英語で堂々と意見を述べ,印象的であった.経済成長著しい中国は2005年に有人宇宙飛行を計画しており,また米国のアポロ計画に次いで月面に人を送り込む計画が具体化されていることから,宇宙開発では我が国の先を進んでいる.我が国の核融合研究・教育も遠からず中国に先を越される可能性があり,有能かつ国際経験豊かな多数の人材の育成が焦眉の急であるように思われた.

 さて,米中の参加受け入れに続いて,ロシアのI. Borovkov原子力省第一次官から歓迎の挨拶があった.次に参加者の紹介や議長(ロシア原子力省のV. Kuchinov博士),セクレタリー,アシスタントの選出が行われた後,各極から以下の発言があった.

中国:
 世界最大の発展途上国として,代替エネルギー源の開発を必要としている.ITERの成功はエネルギーの新しい形を見出す助けとなり,世界が長期にわたって平和的かつ持続的に発展することに寄与すると信じている.中国はITERファミリーの価値あるメンバーとなり,他のパートナーとともに核融合エネルギー開発の成功のために共に努力することを強く希望する.

米国:
 2003年1月30日に,ブッシュ大統領が米国のITERへの参加を表明した.声明の中で大統領は,「ITERの成果は,クリーン,安全,かつ再生可能で商業的に有用な核融合エネルギーを今世紀の中頃までに作り出す努力を促進させるだろう.」と述べた.米国は,ITER政府間協議に参加するという結論に至るために,米国の科学的及び技術的なコミュニティーにより広範なレビューを行った.

カナダ:
 サイト周辺の地方自治体の支持を表明するために,カナダ代表団としてクラリントン市長のジョン・ムートンとダーハム地方議会議長のロジャー・アンダーソンが参加した.ムートン市長は,カナダサイトの優れた特性と,ITERを誘致することに対する地方自治体の熱意を強調した.

EU:
 フランスがラファラン首相のレベルで,周知である科学的,技術的,社会経済的な環境という利点を生かして,カダラッシュをEUのサイトとしてITERを誘致する提案を確認した.地方自治体は政府と協力して,最も良い労働環境と生活環境を提供するために,経済,教育,文化,その他に関する強いコミットメントを表明した. またスペイン科学技術政策長官のモレネスが,公式の使節団を率いてビュスカン委員に面会し,バンデヨスにおけるITERの成功のために,スペイン政府と社会の全ての層の強いコミットメントを確認したことを再度表明した.さらに,スペインにおいて,ITERの正式の許認可手続きの重要なステップが,以前に予定されていたよりも2ヶ月早く開始された.

日本:
 小泉首相が1月10日と11日にロシアを訪問し,プーチン大統領との首脳会談とクルチャトフ研究所での講演において,ITERの重要性に言及した.
 会合に出席した木村青森県知事は,国際学校を青森県に作ることを約束するとともに,新幹線の延長と成田空港から青森空港までの直行便の計画など,最近および将来の公共交通の改善について強調した.


 続いて代表団は,これまでに行われてきた政府間協議やサブグループ会合の進捗状況についての報告を受け,質疑応答を行った.項目としてはサイト共同評価,共同実施協定書のドラフト,費用分担と調達配分,移行措置,運営体制と組織,知的財産権などが報告された.また,サイトや費用分担など,意志決定への手順について審議した結果,協定を完成させ,可能な限り早くITERの建設を開始するために,意思決定に必要となる本質的な要素について議論を進めることで合意した.

 サイト共同評価(JASS)報告書の取り扱いについて審議され,報告書を公表することが合意された.その内容は他の情報とともにITERのウェブサイト (http://www.iter.org/)のWhat's New?に掲載されている.本報告書は政府間協議の枠組みに従い,評価委員による詳細なレビューと,4つの候補地,即ちカナダのクラリントン,日本の六ヶ所村,フランスのカダラッシュ,スペインのバンデヨスの訪問の結果とり纏められたものである.報告書では,4つの候補地全てがITER計画の実施地として決められた技術的条件を満たしていることを確認しているが,加えてサイト毎に異なる長所と短所も指摘している.

  次回第9回政府間協議は,EUとIAEAの主催により、ウィーンにおいて2003年5月20〜21日に開催される予定である.

 

(2003年3月19日受理)


最終更新日 2003年4月25日
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