第20回年会レポート
学会誌Vol.80-01掲載

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総 括 * シンポジウムI 〜 IX * インフォーマルミーティング

第20回年会 総括

第20回年会現地実行委員会

 

 標記年会を2003年11月25日〜28日,茨城県水戸市の茨城県立県民文化センターにおいて開催した。4日間の全参加者は619名であり,これまでの最高記録となった昨年の犬山年会(538名)をさらに上回る多数の参加をいただいた。会場はJR水戸駅から徒歩約15分に位置し,まわりは旧水戸藩のなごりを有す落ち着いた環境の地である。会場はA会場(小ホール),受付,会議室,休憩・インターネット室,および事務局室を配置した本館と,B会場,ポスター会場,および休憩室を配置した別館で構成した。11月にもかかわらず初日の25日はあいにくの雨天で,参加者には本館と別館との間の移動に際しご迷惑をおかけした。しかし,残りの3日間は晩秋の空の下で開催することができた。

 今年会の講演数は,特別講演1件,レビュー講演2件,オーバービュー講演1件,国内招待講演18件,APS招待講演3件,EPS招待講演1件,学会賞受賞記念講演2件,一般講演391件(ポストデッドライン論文4件を含む)であり,他にシンポジウム9件,学会関連報告会,インフォーマルミーティングを行った。プログラム・企画の編成は,2003年1月より学会プログラム委員会の協力を得て開始した。プログラム編成の基本方針として,プラズマ基礎・応用分野からITER・核融合実用化に至るまで分野のバランスを図ることや,最新の話題に留意し,多くの会員が興味を持ち年会が盛会になることを強く意図して進めた。また,一般講演の公募が始まる7月には,年会の主要な企画を会員が知ることができるよう,各大学や研究機関に配布する年会開催案内ポスターの作成を例年より早く進めた。

 広範なプログラム構成は,1例として2日目のA会場の進行を見るとご理解いただけると思う。プレポスターの後,シンポジウム「核融合エネルギーの社会適合性」,レビュー講演「大気圧グローの応用」,学会賞授賞式,学会賞受賞記念講演,特別講演「相対性原理の破れ」,特別企画「ITERを主導する進め方」と続き,夜に懇親会を開催した。例年学会賞受賞講演は3日目に開催しているが,受賞式に引き続き開催することが望ましいとの考えから今回は上記のプログラム構成とした。受賞記念講演2件,「磁気リコネクション」,「レーザー照射飛翔体推進」も学際的で大変興味深いものであった。(本段落での講演題目の記述は簡略化した)

 会場の準備に関し,予測外のこともあった。一般講演に特別企画を含む犬山年会は例外として,例年全ポスター発表件数は250件程度である。今回その実績を念頭に会場の準備をしたが,一般講演の申し込み件数が例年より多く約350件のポスター発表件数に達した。そのため,当初2部屋での配置を想定していたが,分館の休憩室にもポスターボードを設置して対応した。また,学会が所有するポスターボード50枚では不足するため,9枚のポスターボードを追加した。

 特別講演では,「最高エネルギー宇宙線と相対性原理の破れ」と題し,佐藤文隆氏による大変興味深い講演が行われた。1965年宇宙マイクロ波背景輻射(CMB)が発見された。1966年,もしCMBの存在が事実であれば1020eV以上の宇宙線(陽子)は,CMB光子との衝突(パイオン生成反応)による平均自由行程が50メガパーセク程度であるため,地上では観測されないはずであることが提唱された。提唱した3名の頭文字を取り,この限界はGZKカットオフと呼ばれる。1972年佐藤文隆氏は,もしGZKカットオフを越える宇宙線(陽子)が地上で観測されれば相対性理論の破れを示す可能性を論文で指摘した。その後,1990年代に入り宇宙線研究所明野観測所などでGZKカットオフを越える宇宙線が大気中で作る空気シャワーを数例観測した。GZKカットオフが見られないことは最近の大きな話題となり,現在確定的な観測をめざした計画が世界で進行している。この特殊相対性理論の破れはローレンツ係数が非常に大きい(1012程度)領域での話しである。しかし,もしこの破れが確定すれば,ニュートン以前の絶対系の復活につながる。例えば太陽系や我々の銀河系から観測するCMB,および遠い星の赤方変位(宇宙膨張)が等方的であることを自然に受け入れられる。この他,我々の周りにはまだまだ面白い物理研究対象があり,それらへの広い興味を持ち続けることが科学者のたしなみと考えるとの話であった。

 特別企画「ITERを主導する核融合研究の進め方」では,始めにコーディネータの藤原正巳氏が,この特別企画の趣旨,目的として,日本全体がITER計画にどう参画するか,どんな体制,運営で行うか,研究開発課題は何か,ITER後の開発計画へどう繋げるかを,大竹 暁氏(文部科学省核融合開発室長)の講演,各方面からの話題提供の後に議論したいと述べた。大竹氏の講演では,核融合研究を取り巻く情勢,核融合研究の重点化,利用・研究等について検討する作業部会の設置,ITERの政府間交渉の現状などについての説明があった。政府としては,本年中にサイトを決定し,来年,協定の各国承認を実現したいと述べた。原研および核科研を代表して,松田慎三郎氏と本島修氏がITERへの関わり方等について述べた。原研は国内機関としてITERを推進していくが,若手研究者が少ないため大学等からの参加を望んでいること,今後の研究者養成が一層重要であるとの発言が松田氏からあった。本島氏は,ITERを進めるに当たってその学術基盤の重要性や共同利用機関としての機能をITERの協力・推進に利用していくと述べた。話題提供に先立ち,藤原氏が,米国では多くの大学や研究所がITERの炉心物理,材料・超伝導,計測装置等の開発に関し広範な提案・検討をしていることなどについて紹介した。研究体制について,高瀬雄一氏が,国内の検討・議論の状況,ITERの参加体制等について紹介した。ITERで主導的な立場を確保することが重要であり,そのためには国内の活動を推進する具体的・継続的なコミットメントや体制(リサーチボディー;仮称)の構築が必要であり,文科省に要望書を提出したことを紹介した。小西哲之氏/田中知氏が,炉工学研究者がITER計画に参加できる枠組みを確保することが必要であるとコメントするとともに,国の機能として参加体制を構築することが重要ではないかとの考えを示した。物理分野からの話題提供として,先ず,東井和夫氏が,トカマク物理活動(ITPA)の現状,ITERにおいて実施すべき研究課題(燃焼プラズマの閉じ込め研究,非燃焼プラズマ物理の拡張性の検証など)について述べた。建設期には,既存装置によるデータの蓄積と解析,モデリングの確立により国際競争に勝てる実験提案の策定と計測・制御手法の開発が必要であり,そのためには大学研究者がITPAへ積極的に参加することが重要であるとコメントした。御手洗修氏は,H/Dフェーズで閉じ込めスケーリング則や計測技術を確立して,D/Tフェーズで燃焼プラズマ制御を完成させる必要があると述べた。Hモードによる標準運転等,燃焼制御の計算例を示した。また,D-3He炉の可能性やITERでの研究について言及した。工学分野からは,松井秀樹氏/香山晃氏が工学研究全般に関して,吉田直亮氏が材料研究について話題を提供した。松井氏/香山氏は,ITERは次のステップへ核融合(工学)を導くものであることを認識しつつ,我が国がテストブランケットモジュール(TBM)として何を提案するのか全日本的な議論が必要との意見を述べた。基本的な問題を議論できるITERの推進体制を構築し,研究計画の立案や研究推進を支援できる財源確保をめざすべきではないかとの考えを示した。これらの実現のため,早急に議論が必要であると結んだ。吉田氏は,ITERにおいて行うべき材料研究(プラズマ対向材料の最適化,計測機器用材料の開発等)について述べた。早急に重点課題を設定して効率的,集中的に研究を推進すること,大学,研究機関等の特徴を踏まえた貢献が重要であるとコメントした。また,大学の場合,ITER計画への貢献の位置付けが得られるような工夫が肝要であると述べた。ITER計画へ参加するためのルート(リサーチボディーなど)を早期に確立すべきであると指摘した。三浦幸俊氏は,ITERの計測装置の大部分は既存のプラズマ計測技術で対応可能と考えられているが,計測手法が確立していないものもあると述べた。日本が調達を希望する計測装置は政府間交渉で提示されているが,最近,ポート毎に調達する方向で検討が進んでいることが示された。以上の講演や話題の提供を受けて,コーディネータの藤原氏が若手研究者に意見を求めた。ある研究者は,「就職して10数年経つが自分はいつも若手で,人員構成は憂う状況にある」とし,ITERを進めるに当たっての人材育成,体制を整える議論が重要であると指摘した。また,大学が法人化され,6年毎に評価されるようになるため,ITERのように長期的な計画への貢献も評価されるようにして欲しいとの要望が出された。工学分野についての研究課題については,「壁に関する話しか上っていないが,他の研究は必要ないのか」との疑問が投げかけられた。松井氏が,加熱,超伝導,トリチウムなど,他の研究も勿論必要であるが,時間の関係で,例として一部を取り上げたと述べた。今回の特別企画の中でもっと議論の時間を確保して欲しかったことや,ITER計画への参加・推進についての具体策などが議論できる場が早急に必要との意見が出された。今回の特別企画が,今後,このような議論を加速する契機になれば幸いである。

 APS招待講演では,理論・シミュレーション,プラズマ応用,および慣性核融合の3分野の講演を行った。”Advances and Challenges in Computational Plasma Science” ( W.M.Tang氏, PPPL), “New Trend of Plasma Applications: Biological, Medical Applications” (I. Alexeff氏, Univ. of Tennessee), および”ICF Capsule Physics Experiments on the Z Pulsed Power Supply” (K.Matzen氏, Sandia Nat. Lab.)の興味深い話題が紹介され,活発な質疑応答が行われた。また,プラズマ・核融合学会とEPS−PPDはお互いに今後協力関係を持つことを計画しており,その最初の試みとして1件のEPS招待講演を行った。J.B.Lister氏(Lausanne)による講演”Present Status of EU Magnetic Fusion Research”の後,EUの核融合開発戦略や今後の若手育成の課題などについて活発な質疑応答が行われた。

 レビュー講演では先ず岡崎幸子氏が「大気圧グロー放電プラズマとその応用」と題する講演を行った。大気圧グロー放電は古い歴史を持つが,1987年に講演者のグループが発表した安定な大気圧グロー放電(APG)プラズマは材料表面処理技術として発表当初から脚光を浴びており,その後の技術的な発展をまじえて実験の報告がなされた。当初考えられた誘電体を電極間に配置し,ヘリウムガスを注入し,1KHz以上の電源周波数を使って安定なAPGを発生させるという方法は,その後細線網電極を用いることにより安定化条件は緩和され,広範な応用を生み出すことになったことが報告された。技術の確立がプラスチック細管内面コートや,大型長尺材料の連続表面処理といった応用例を生み出していることが例を挙げて紹介された。最近の技術的な発展についての詳細はプラ核学会誌2003年10月号に特集記事として掲載されていることが紹介された。最後に豊富な研究経験から実験者の心構えといった話もなされた。[座長 石原修氏報告]

 もう1件のレビュー講演として,井手俊介氏による「定常燃焼プラズマにむけた先進トカマク研究」と題した講演が行われた。先進トカマク運転の概念とそこで重要となる自発電流について簡潔な説明が行われた。続いて,現状の先進トカマク研究の状況,特に,コア部の閉じ込め改善(特に内部輸送障壁に関するもの)と高ベータ化についての最近の成果と課題に関する説明があった。さらに,現状を踏まえ燃焼プラズマにおいてどのような課題が有るかについて,特に加熱の質の違い(電子加熱主体/低粒子補給等)とアルファ粒子の閉じ込めとそれが誘起する不安定性について主に議論がなされた。元来は広範な研究領域であるが,その中でかなり限られたものについての解説となっていたが,そのためかえってわかりやすかった。また,進展状況に関して,それと表裏一体の問題点(たとえば,内部輸送障壁内への不純物の蓄積)についても丁寧に説明されており,好評であった。 [座長 松岡啓介氏報告]

 オーバービュー講演として,小森彰夫氏が「LHDの現状と今後の展望」について報告した。内容はLHD計画の目的,現状,将来計画で構成され,LHDでの実験の現状と今後6年間の目標値(これは講演中に示された高密度,高β,高閉じ込め運転によるヘリカル型核融合炉への橋渡しに相当する)との比較が示された。達成されたパラメータの向上に,MHD的に安定であり,新古典輸送のみならず異常輸送も改善されている内寄せ配位での運転が有効であった。また,電子内部輸送障壁(ITB)や周辺輸送障壁(ETB)の発見など種々の高性能モードも見つかっている。ヘリカル炉での大きな課題であるダイバータに関しては,ローカルアイランドダイバータ実験の初期結果が紹介され,排気特性の向上やコアプラズマに対する影響などが示された。今後のプラズマ性能改善に大きく寄与する候補とし て,加熱パワーの増力と重水素実験があげられた。重水素実験は地元との交渉中で,了解が得られれば今後の6年間以降での実験を想定している。本講演を通じてLHDでヘリカルプラズマの物理に関する多くの知見が得られていることが実感された。ヘリカル装置は磁気井戸やシアのMHD不安定に対する影響を調べるのに適しているし,磁場配位や電場と閉じ込めの関係など環状高温プラズマ全般にわたる知見への拡張も充分視野に入ってきていると感じた。[座長 花田和明氏報告]

 懇親会は同会場内のレストラン「グリル」で開催した。参加者は134名と大変盛況であった。当日の昼過ぎまでは登録数が90名程度であったが,例年どおり駆け込みの申し込みが多く,最終的には懇親会場が満員に近い参加者数に達した。現地実行委員長,プラ核学会会長の挨拶の後,佐藤文隆氏のお話しをいただき,佐藤徳芳氏の音頭で乾杯を行った。食事とお酒を楽しみながら,歓談に花が咲き,和やかに会が進んだ。後半には,若手として森成史氏,竹永秀信氏,山田弘司氏のスピーチ,その後岡崎幸子氏から若手へのエールをいただき会場が活気づいた。最後に,次回年会の現地実行委員会より挨拶があり,盛況の内に懇親会は終了した。

 本年会では,犬山年会に引き続きインターネット環境の整備,パソコンや書画カメラからの映像投影の支援に努めた。その他,原研那珂研の見学会を開催した。参加者の年会出席に支障を来たさないよう,2日間のうちから都合の良い日を選択できることとし,3日目と4日目の2日に分けて行った。JT−60,超伝導,加熱工学施設の見学に,2日間で28名が参加した。

この年会の成功は,学会役員,事務局,学会プログラム委員会の皆様のご協力,また会議運営支援に協力いただいた原研那珂研関係者の力がなければあり得なかったもので,各位に心からお礼申し上げます。また,一般講演プログラムの作成にご協力いただいた,茨城大学の三枝幹雄氏,佐藤直幸氏,辻龍介氏にお礼申し上げます。

 来年度の第21回年会は,静岡大学が現地実行委員会を担当し,2004年11月に静岡市で開催される予定である。

(第20回年会現地実行委員会)



総 括 * シンポジウムI 〜 IX * インフォーマルミーティング

シンポジウム       



I. 自己組織化現象の起源を問う

11/25(火)
11:20〜12:50

座長:岸本泰明(原研)

 近年の高性能の磁場閉じ込めプラズマは,内部・外部輸送障壁をはじめ,プラズマ中に多彩な「構造」を自律的に創り出すことによって達成している点に大きな特徴がある。今後,核融合プラズマの一層の高性能化を図るためには,このような構造形成現象の普遍的理解を進展させることが不可欠である。本シンポジウムは,基礎理論やシミュレーション,および基礎実験研究の立場から,プラズマの自己組織化現象の起源について,これまでの知見を整理し,今後の展望を議論することを目的に開催された。

 最初に座長(岸本泰明:原研)から,トカマクにおけるMHD過程と輸送過程を例に,様々の構造形成や自己組織化現象は時空間スケールの異なる揺らぎや異なった階層間の相互作用によってもたらされることが説明された。また,加速器等,これまで成功を収めた巨大科学の多くは,強い非線形性を排除することにより達成してきた傾向があるが,その対極にある自己組織化過程に準拠した高性能核融合炉の実現には,非線形性や構造形成に関する格段の理解の進展が不可欠である旨述べられた。

 続いて,吉田善章氏(東大)から,自己組織化過程の起源に関する理論的背景と数学的方法論に関する報告がなされた。構造の出現にかかわる複雑過程の起源は,物理系全体に及ぶマクロな運動と特定な物理過程によるミクロな運動の共存によってもたらされ,そのような階層間の相互作用はマクロ過程に対するミクロ過程の“特異摂動”として記述されること,また,磁気再結合過程や二流体プラズマにおける緩和構造を例に,この特異摂動としてのミクロ過程は,その微小極限においてもマクロな構造形成に対して本質的であり,そのスケールは散逸機構等の要因により決まる,との議論がなされた。

 堀内利得氏(核融合研)からは,磁気再結合過程を中心とした磁力線のダイナミックスとその背後にある自己組織化過程の物理機構の詳細が議論された。特に,吉田氏により説明されたミクロ過程に起因する強い非線形性を介した間欠的なエネルギー放出によって自己組織化が段階的に進行すること,外界とのエネルギーやエントロピーの授受・排出が構造形成に本質的であることが説明された。また,磁気流体プラズマの自己組織化は,地球磁場反転や鎖状分子等のダイナミックスとも密接に関連していることが紹介され,自己組織化の普遍的理解に向けた多階層シミュレーションの展望が示された。

 際本泰士氏(京大)からは,電子のみで構成される電子プラズマの自己組織化過程の実験が報告された。この系は,高レイノルズ数の非圧縮性オイラー流体と等価であり,複数の渦糸間の不安定性を介した合体・分離による渦結晶の構造形成過程やマクロな背景渦中でのミクロな渦糸のダイナミックスが議論された。特に,渦結晶の構造変化が段階的に進行する様子や,ミクロな渦糸群の構造変化が背景分布との相互作用と深く関係している事実は堀内氏の説明された磁気流体プラズマ現象との類似性を示唆しているとともに,幅広い流体渦現象におけるプラズマ手法の有用性を示している。

 上記の三氏の講演を踏まえ,伊藤公孝氏(核融合研)から,今後の課題と展望について報告していただいた。核融合プラズマ研究の中で培われた構造形成現象とそこで得られた知見は,宇宙・天体,大気・気象を含む幅広い科学分野の重要課題の解明に貢献できるポテンシャルを有しており,理論・シミュレーションを通した発見的研究手法とプラズマ実験による検証の三位一体的アプローチが強い競争力を持ち得ること,今後,構造形成の素過程の理解と検証をめざした研究が重要であり,学術としての一層の普遍化を図り物理法則として確立していく努力が必要であることが述べられた。

 基礎分野を含めた多くの参加者で会場はほぼ満杯となり,本課題の分野横断的な色彩と興味の強さが伺われた。最後に座長から,プラズマ物理が広範囲の分野に対して貢献しえる課題として今後も学会の場で継続的に議論を深めていきたい旨述べられた。



II. 我が国の核融合研究の今後の重点化計画について

11/25(火)
13:50〜15:20

座長:谷津 潔 (筑波大学名誉教授)

 

(1)主旨説明(谷津 潔):ITER計画の進展を踏まえて,科学技術・学術審議会  学術分科会・基本問題特別委員会の下にWGが設置され,我が国の核融合研究の在り方 について審議された。本シンポジウムは,同WGで共同研究重点化装置として位置づけ られた装置・計画について衆知を図ると共に,同WGで強調された共同利用・共同研究 の積極的な推進と人材育成の方策について討議する。

(2)トカマク(JT-60/トカマク国内重点化装置計画)(菊池 満:原研):核融合 エネルギーの早期実現に向けて,トカマク方式の改良を我が国独自に進めると共に, ITER計画での主導権の確保に必要な計画である。同装置は,臨界プラズマクラスの性 能を持った超伝導装置とし,プラズマアスペクト比,断面形状制御性,帰還制御性に おいて,機動性と自由度を最大限確保し,原型炉で必要な高ベータ・非誘導電流駆動 プラズマを,100秒程度以上保持することをめざす。核融合研究委員会を,研究者コミ ュニティーとの共同企画・共同研究の推進母体として,同計画を推進する。

(3)炉工学(IFMIF)(松井秀樹:東北大):核融合エネルギーの早期実現に必要な 材料・ブランケット開発は,プラズマ閉じこめ方式に依らず必須の課題である。第一 壁候補材料の開発およびその特性データの取得のためには,国際協力によるIFMIF計画が 不可欠である。国内では大学と原研が有機的に連携して成功裏に要素技術確証段階を 終了したが,次段階である工学設計・工学実証活動への遅滞ない移行が必要である。 核融合炉工学分野は材料を始め広範な研究開発課題を包含しており,IFMIF計画のみで 完結するものではない。

(4)レーザー(FIREX計画)(疇地 宏:阪大レーザー):高速点火レーザー核融合 の実現に必要な高密度圧縮と,1千万度の加熱がわが国で実証され,点火・燃焼計画 を開始すべき段階に入った。前記WGにおいて,核融合温度への加熱を行うFIREX第1期 計画が重点化の1つとして策定された。第1期計画の評価の上に人類初の点火・燃焼 をめざすFIREX第2期計画を実施することが望まれる。FIREX計画を推進するために, 阪大と核融合研の連携協力を構想している.

(5)ヘリカル(LHD)(須藤 滋:核融合研):核融合科学研究所は大学共同利用機 関として共同研究,大学院教育等を積極的に推進する。LHDの研究は,ヘリカルプラズ マ物理を学術的・体系的に理解することをめざす。平成15年度に一般共同研究の枠組 みで双方向共同研究を開始し,さらに慣性核融合研究連携推進専門部会,ITER研究支 援専門部会を発足させ連携協力についても検討を開始している。また平成16年度か ら,相当規模のグループ単位で学術的要素課題を互いに分担して研究・開発する双方 向型共同研究を開始する。

(6)まとめ:質問の中で,核融合研の双方向性研究の予算が説明され,本シンポジ ウムで取り上げる余裕の無かった大学等における研究の重要性がWG報告で強調されて いることが指摘された。



III. マイクロプラズマ研究の最近の進展

11/25(火)
13:50〜15:20

座長:藤山 寛(長崎大)


 科学研究費特定領域研究「プラズマを用いたミクロ反応場の創成とその応用」(平成15年度〜19年度,領域代表者 橘 邦英(京大))が今年度から発足し,本シンポジウムはタイムリーな企画となって,聴講者も多かった.まず,橘 邦英教授(京大)の「マイクロプラズマの時空間分光診断」では,マイクロプラズマの3次元的動的挙動をマイクロプリズムを用いたビジュアルデータによりご紹介いただいた.次に寺嶋和夫氏(東大)の「超臨界流体中のナノプラズマ生成」では,気体と液体の中間的な超臨界流体をプラズマ化した先駆的な実験について解説していただいた.続いて,藤山 寛氏(長崎大)の「ハーモニックECRによる低気圧マイクロプラズマの生成」では,パッシェンの法則を4桁も逸脱した低気圧領域でのマイクロプラズマ生成に成功した研究について,最後に河野明廣氏(名大)の「高密度マイクロプラズマの生成とそのVUV光源への応用」では,超高密度に電力注入された高気圧非平衡プラズマを高輝度VUV光源に応用する研究について紹介していただいた.

 終わりに,橘氏から特定領域研究の意義と課題について説明がなされ,プラズマ物理研究者の本領域研究への積極的参加が要請された.



IV. 核融合エネルギーの社会・環境・経済適合性

11/26(水)
10:30〜12:00

座長:小西哲之(京大)


 核融合は,「未来のエネルギー源の候補」として,研究開発が進められている。しかし将来社会のエネルギーの候補は様々あり,その選択は社会の要求に如何に答え,対応できるかにかかっている。そこで本シンポジウムでは,核融合外のエネルギー専門家に,エネルギー技術に要求される要件をご講演いただいた。まず,時松氏(地球環境産業技術研究機構)から,将来のエネルギー選択の基準として様々な観点があること,特に直接コスト以外に社会に及ぼす損害(外部性)の重要性が指摘された。その中では地球環境問題,特に温暖化ガスの低減が重要であり,環境制約下でコスト要件を満たすことができれば核融合に大きな可能性があること,また逆に環境制約を無視すれば可能性がほとんどないこと,コストだけでは社会に選択されないことが示された。伊東氏(政策研)は,エネルギー選択の外部性について解説した。外部性は欧州の先駆研究で重視されてきた環境影響を介するもののみではなく,供給不安や安全保障など,様々な社会的リスクに関連して発生し,それが社会的受容性に影響を及ぼす。 エネルギー技術の研究開発投資効果も,政策としてはこのリスク低減効果で評価される。手塚氏(京大)は,エネルギー評価の仕組みを説明し,供給から末端需要までのエ ネルギーシステム全体を評価すべきこと,また定義するバウンダリ,受益者の立場で評価が異なること,主観評価も入ること,地域的文化的特性まで考慮した主観,客観評価の統合が必要であることなどを指摘し,総合的なエネルギー評価の体系を提案した。これに対し,鎌田氏(原研),白神氏(阪大),榊原氏(核融合研)からそれぞれ核融合の 研究開発側からのコメント,決意が語られ,将来社会へ向けた核融合エネルギー開発 の方向性についての考えが示された。さらにフロアからも活発な質疑があった。これまでにない試みで,また耳慣れない概念を含む内容ではあったが,核融合研究開発の意義が問われる今日重要な話題であり,高い関心を得て連続開催の要望なども聞かれ,好評であった。ただ,従来こうした議論は比較的年長の,責任ある研究者が行うことが多かったことも事実である。将来を担う研究者が自分の問題と考え,自分の言葉で自分の研究の意義を説明できるようになることが,核融合エネルギーの社会への適合には実は一番重要であり,その意味で,このような企画にもっと若い世代が参加してくれることが望まれる。



V. ブランケット・材料開発におけるIFMIFの役割

11/27(木)
10:55〜12:25

座長:関 昌弘(原研)

 

 国際核融合材料照射施設(IFMIF)は,重陽子ビームをリチウム(Li)のターゲットに入射して,核融合近似スペクトルの中性子を生成する加速器型の中性子源であり,国際エネルギー機関(IEA)のもとで,日本,欧州,米国,ロシアの国際協力により進められている。これまでにも,IFMIFの技術開発に関する報告はたびたび行われたが,本シンポジウムは,IFMIFを用いた材料試験や開発の側面に重点を置いて議論するために企画された。まず,座長よりIFMIFの目的に関して紹介があり,続いて,横峰健彦氏(九大,清水昭比古氏の代理)より,IFMIFテストセルの中で最も厳しい環境にある高中性子束領域のガス冷却テストモジュールについて報告があった。現在の矩形の容器では熱変形が大きいことが予想され,仕様の温度制御条件を満たさない可能性があること,照射シナリオ全体を見通した設計が重要であることが,強調された。ついで,木村晃彦氏(京大)より構造材料の観点から報告があった。核融合炉環境の特徴的な因子は,1)高照射量,2)高濃度ヘリウム・水素の生成,3)核変換があげられるが,従来,加速器や原子炉を利用して,これらの個々の要因の解明から,複合の要因を模擬した実験へと展開してきたことが述べられた。IFMIFは,核融合炉の複合環境下での確証試験が可能な材料試験装置であると強調された。寺井隆幸氏(東大)のは,増殖・増倍材料の観点から報告を行い,IFMIFでの,増殖・増倍材照射をより積極的に行う必要があると強調した。重要な課題として,トリチウム放出・熱伝達,両立性試験,Be材照射,液体ブランケット等の項目があげられた。四竃樹男氏(東北大)のは,機能性材料の観点から報告を行い,機能性材料の照射効果では,原子の弾き出し効果と電子励起効果の相互作用および,局所的な高密度電子励起が引き起こす非線形照射効果や核変換効果が極めて重要であり,これらの評価には,高エネルギー中性子による照射が不可欠であることが述べられた。最後に,松井秀樹氏(東北大)より,IFMIF要素技術確証活動が終了し,次段階の計画として工学実証・工学設計活動が検討されているとの報告があった。IFMIF計画は,大学と原研の密接な連携協力で,我が国一丸となって進められてきた。今後とも,協力関係を一層強化して,国際的にも主導的な役割を果たしていくことが強調された。 



VI. レーザー核融合とフロンティア科学

11/27(木)
17:00〜18:30

座長:三間圀興(阪大)

1) シンポジウムがめざすもの(三間圀興)では,レーザーの最高出力はペタワット(1000兆ワット)に達し,従来は高エネルギー加速器によってのみ微視的に実現可能であった「超高エネルギー密度状態」を巨視的スケールで発生することが可能になったことを説明し,このシンポジュウムで,超高強度レーザープラズマの研究が如何に核融合研究や先端科学研究の進展に寄与するかを討論することとした。

2) 高速点火と高エネルギー密度レーザープラズマ科学(田中和夫)の講演では,超高強度レーザーにより温度1MeV以上の超高温電子群の発生が可能で,高エネルギーX線の発生,高エネルギーイオンの発生が可能であることで,高速点火核融合,物質科学,医療や天文学に役立つプラズマ物理学のフロンティアを切り拓くことができことが示された。また,レーザーアブレーションによる超高圧発生で超高圧の物質状態の研究が可能であることが示された。

3) 超高強度レーザー科学/相対論工学(Sergei Bulanov)の講演では,高強度レーザーとプラズマとの相互作用で生じる電子の密度波を制御することで,光速に近い速度で伝搬する凹面鏡を構成することの可能性が指摘された。その結果,対向するレーザービームをより短波長かつ強収束させることが可能となり,真空を破壊するような超超高強度場の発生が可能であることが示された。すでに,基礎研究が関西研,光量子科学研究センターで開始されていることが報告された。

4) レーザー加速と応用(上坂充)の報告では,レーザー電子加速によりサブピコ秒の電子パルスの発生が可能であり,そのための超短パルスレーザープラズマ相互作用の研究が進められている事が報告された。また,この研究は,小型先進加速器の開発研究として世界でネットワークを組んで進めていることが報告された。東大では,10TWのフェムト秒レーザーをすでに開発し,短パルスの相対論電子の発生に成功している。このような電子ビームは超高速電子ラヂオグラフィなどの応用分野が特筆されることが述べられた。

5) レーザー核科学(University of Glasgow, K.W.D. Ledingham)の講演では,超高強度レーザープラズマで発生する10MeVを超えるγ線や高エネルギーイオンより引き起こされる多様な原子核反応について報告があった。このような原子核反応を利用して使用済核燃料処理やPETのための陽電子崩壊の放射性原子核の生成などの応用の可能性が示された。また,ガン治療のためのレーザーイオンビーム源いついても言及された。

 以上のような講演をもとに,午後の最終のセッションであるにも拘らず,活発な意見の交換がなされた。ただし残念ながら時間の制約から今後の課題と展望については,後日書面でQ&Aを行うことになった。その回答が2件すでに寄せられており,別の機会に学会誌にて報告したい。回答を寄せていただいた講演者の方々に感謝したい。

参考資料;上坂教授からの回答

Q: What is the near future goal of laser electron accelerator research?

A: First, control and optimization of pre-pulse. Second, optimization of gas-jet for uniform plasma density. Third, stable beam generation. Finally, generation of monochromatic electron beam.

Q: How will you demonstrate observing the transient lattice deformation by femto electron pulse? When will it be expected achieved ?

A: By the pump-and-probe analysis by laser and all-Thomson-scattering-X-ray. It will be done in about 3 years after we generate the laser plasma electron beam stably.


Answer from Professor Ken Ledingham
1) With respect to production of PET isotopes. I believe we are within a small number of years of doing this. There are already a number of laser designs which could do this and I expect this within 3 years.

2) The question of laser induced proton or indeed heavy ion therapy is somewhat further down the track. We should be able to produce proton beams of about 70 MeV energy soon but the question of how to make the protons mono-energetic has still to be worked out. There are a number of ways of doing this but the experiments have yet to be done. A 70 MeV beam would be useful for treating cancers of the eye. The question of general cancer therapy would require protons of about 300 MeV. We are still some way off from doing this.

3) Laser transmutation of nuclear waste is a very sensitive issue which requires a great deal of care. Perhaps some 10,20,30 years down the track,lasers in conjunction with electron storage rings may play some part in treating certain isotopes.



VII. 微粒子プラズマの展望

11/27(木)
16:45〜18:15

座長:石原 修(横浜国大)

1)趣旨説明:石原 修 
 まず歴史的な観点からいかにして微粒子プラズマが新しいプラズマ科学の領域を形成してきたかを紹介。宇宙空間プラズマでは米国惑星探査機ボイジャーの打ち上げによって1980年代初頭にもたらされたさまざまな惑星リングの情報が宇宙塵(ダストグレイン)に関する興味を掻き立て,1985年以降のUSダストプラズマワークショップ開催につながっていった。一方日本ではプラズマの産業応用に伴いプロセスプラズマ中の微粒子の形成過程の研究が続けられていたが,90年代半ばのプラズマ結晶の発見以来急速に興味の輪が広がり微粒子プラズマに注目が集まっていることが紹介された。国内では基礎プラズマ,応用,宇宙プラズマを扱う微粒子プラズマの研究者が集まり,2001年1月に第1回微粒子プラズマ研究会が開かれ,2003年12月に第4回が開かれることが報告された。シンポジウムでは微粒子プラズマの基礎物理,微粒子発生・成長機構,応用,国際研究協力の実情といった観点から一線で活躍する研究者に現状報告をお願いした。               

2)核融合炉を含む実験室プラズマ中の微粒子挙動・波動伝播 高村秀一(名大)

 基礎プラズマ物理の観点から微粒子群の構造形成とダイナミクスが論じられた。プラズマ物理では見られなかった微粒子の帯電遅延効果がもたらす不安定振動について実験および理論の紹介がされた。また核融合炉内における微粒子群あるいは塵(ダスト)の問題,とくに炭素系材料を用いた定常核融合炉におけるダストに含まれるトリチウムの回収について紹介された。炉内の炭素系材料と水素同位体が低温プラズマと壁の相互作用という形で炭化水素を生み出し,気相反応もしくは高温グラファイト表面での反応により巨視的な炭化水素塊に成長していくと言うシナリオが論じられた。

3)強結合プラズマとカーボン微粒子形成 林 康明(京都工繊)

 強結合となった負帯電微粒子のプラズマ中への閉じ込めの効果を利用して,反応場内に長く滞在させて材料合成に応用する方法,特にカーボンナノチューブからなる微粒子をグロー放電プラズマ中に閉じ込めて,高効率に作成する実験の紹介がされた。熱フィラメントと微粒子捕集板との間に直流グロー放電を発生させることによってカーボン微粒子とカーボンナノチューブをより多く生成できたことが報告された。グロー放電中では微粒子が下方に多く生成し,熱対流で上方に逃げていく効果を抑え,プラズマ中で閉じ込められて成長したものと解釈された。

4)プロセスプラズマ中の微粒子形成 渡辺征夫(九大)

 シランガス容量結合型高周波プラズマを使って,プロセスプラズマ中の微粒子形成,特に核形成とその成長に焦点が当てられて最近の研究が紹介された。プロセスプラズマ中での微粒子の特徴的な成長時期を核形成期,初期成長期,急速成長期,成長飽和期にわけてその詳細が検討された。また未解決の問題として,SiH4CCPにおいて高次シランまたはサブmm微粒子のアモルファス化・結晶化の機構といった核形成・初期成長期における自己組織化による微粒子微細構造形成過程があげられ,今後の問題提起が行われた。

5)微粒子プラズマ研究の国際協力 佐藤徳芳(東北大名誉教授)

 微粒子プラズマの研究がまだ若い分野であり,研究者によってその呼び名すら定着していない国際情勢が紹介された。現在よく使われている言葉はfine particle plasma, dusty plasma, complex plasmaであり,研究の広がりは応用分野でも注目を浴びていることが強調された。微粒子はその重力故,地上では微粒子を浮遊させて結晶を形成することに限界があり,微小重力下における微粒子プラズマ研究が関心を呼んでいること,そしてそれに絡んで国際協力研究として,国際宇宙ステーション利用の計画が紹介された。ドイツのグループがロシアグループと積極的な共同研究をすすめ,ドイツ(DLR)とヨーロッパ宇宙局(ESA)のサポートにより,国際宇宙ステーションに必要な実験装置IMPFの設計,試作が進められているとともに,佐藤(東北),渡辺(九州)が参加して各国からの研究者で組織する委員会IABで国際共同研究の準備が行われている状況が報告された。



VIII. 大学における先駆的閉じ込め実験研究

11/28(金)
9:50〜11:20

座長:小野 靖(東大)

 

 国際熱核融合炉時代に入りつつある今,大学研究室のプラズマ閉じ込め実験も選択と集中の時代に入った模様である。中枢研究所の大型実験で研究・教育を追求する研究形態を普及させる必要がある。反面,大型実験がカバーされない「先駆的」アイデアを提案・検証し,学術としてプラズマ物理へ高めることは大学にこそ求められる重要な役割といえよう。本シンポジウムでは4人のパネラーの「先駆的」閉じ込め実験の紹介を参考に,転換期にさしかかった大学研究室の閉じ込め実験の今後のあり方について議論した。小野等(東大)はトーラスプラズマの軸対称合体という新手法により高レイノルズ数の磁気リコネクション室内実験を実現し,そのエネルギー変換機構を閉じ込め実験の超高ベータ化に応用した。岡田等(阪大)は,初めて自主開発の中性粒子ビーム(NB)をFRCへ入射して閉じ込めや安定性を改善し,CT実験の新境地を開拓した。前川等(京大)では,電子サイクロトロン加熱・電流駆動を用いて,STの完全無誘導の立ち上げ・電流駆動を実証した。小川等(東大)は,初めて高温超伝導コイルを用いた内部導体装置を作成し,RFPで培った緩和の物理を2流体緩和への発展させることをめざしている。講演の後,大学研究室の実験固有の問題と閉じ込め実験全体の中での位置づけについて客席を巻き込んだ活発な議論があった。磁気レイノルズ数の大きさを例規模が小さい大学研究室実験の限界について質問があった。磁気リコネクションの場合,粒子運動論的不安定により異常抵抗拡散がもたらされるため,トーラス閉じ込めにより103程度確保すれば,物理に焦点合わせた実験次第で色々工夫できる点が示された。また,研究室実験の成果を大型実験に役立てる可能性について,大学側の小規模実験にもパラメータ差を乗り越える物理を抽出する努力,中枢研の大型実験側にも小規模実験の成果を移転しやすい環境面の努力が必要との見解が示された。今回取り上げられなかった理論の貢献と実験がバランスすることによって先進的な研究が可能になるとの意見もあった。また,大学では,個々の研究者が拘束されることなく,自由な発想で研究ができる環境が大切であるとの意見が寄せられ,共感を呼んだ。大学研究室実験のあり方については,学会で多数をしめる会員の動向を左右する重要案件でもあり,継続的に議論を行っていく必要があるとの見解で一致した。 



IX. 低温プラズマと壁

11/28(金)
14:45〜16:15

座長:田辺哲朗(名大)


 炭素系材料をプラズマ対向壁として利用している現在の大型トカマク装置では,水素は外側ダイバーおよび第1壁の大半の部分で水素プラズマにより損耗(化学スパッタリング)され,内側ダイバータおよびその近傍のプラズマから影になっている部分に運ばれ,多量の水素を含んだ再堆積膜となる。トリチウムを導入するITERではこの再堆積膜へのトリチウム蓄積が非常に多量であると予想されており,場合によってはわずか数百ショットのD-T放電でトリチウム蓄積は許容値を超えその除去が必要であるとすら言われている。このトカマク装置における炭素の輸送は,結局,炭素材料と水素プラズマあるいは炭化水素プラズマによる製膜過程となんら変わることはない。大型トカマク装置の中で,製膜,損耗を繰り返しつつ炭素を不純物として輸送しているのである。

 本シンポジウムでは,まず菅井氏(名大)に「プラズマ材料プロセスにおける壁の影響と制御」を概観していただいた。プラズマプロセスでもプラズマと壁との相互作用は材料汚染の源であり,いかに汚染防ぐことが重要であるかを具体例で示された。庄司氏(核融合研)と久保氏(原研那珂研)にそれぞれにLHDおよびJT-60Uのプラズマ壁相互作用の現状と問題点をまとめていただき,最後に東島氏(原研那珂研)にITERへの研究課題をまとめていただいた。

 核融合炉における水素プラズマと炭素との相互作用を解明することは,結局は材料表面に接するあるいは入射してくるプラズマのフラックス,温度あるいは材料の温度の影響を詳しく調べることに他ならない。炭素と水素(トリチウム)プラズマの相互作用の解明とその制御は,核融合研究者のみでは不可能であり,材料創成あるいは製膜のための低温にプラズマの取り扱いに習熟した研究者の知恵なくしてはありえない。このシンポジウムが,プラズマ研究者あるいはプラズマプロセス研究者の興味を喚起し,支援の要請ができたものと思う。またシンポジウム企画者(田辺,宮(原研))としては,核融合研究=(イコール)プラズマ閉じ込めではなく,核融合炉実現ためにトリチウムの使用を考えた時,プラズマ・壁相互作用がいかに重要であるか認識していただける良い機会にしていただけたものと喜んでいる。



総 括 * シンポジウムI 〜 IX * インフォーマルミーティング

インフォーマルミーティング       


1. JET, ASDEX Upgrade, DIII-Dの最近の成果と今後の課題

11/25(火)
18:45〜
世話人:二宮博正,菊池 満(原研)

 

 大型トカマクワークショップに参加中であった,JETのAssociate LeaderのJerome Pamela博士,DIII-D研究評議会議長のTony Taylor博士,ASDEX-UのプロジェクトリーダーのOtto Gruber博士に最新の研究成果について講演をいただいた。開催時間が遅かったこともあり,参加者は50名程度であったが,世界のトカマク研究をリードしているこれらのトカマクのリーダーにお話しをいただき,活発な議論をした。

 最初に,世話人の二宮博正氏より3氏の紹介を行ったあと,Jerome Pamela博士から,JETの研究成果について講演があった。JETをEFDA(European Fusion Development Agreement)の傘下で,共同研究に供している実績が示された(世界で800名)その平均年令は41才で,ITERを担う研究者育成が順調に進んでいることが強調された。また,トカマク共同実験やDT実験を含めITER運転への貢献が強調された。

 次に,Tony Taylor博士より,DIII-Dの研究成果について講演があり,トカマクの究極性能の実現をめざした先進トカマク研究開発の現状について講演があり,抵抗性壁モードの帰還制御のための内部コイル設置,乱雑磁場によるELMのソフト化,JETとの比較実験による閉じ込めのβ依存性に関する新たな知見,ITERのハイブリッドシナリオの達成等が報告された。

 三番目に講演したOtto Gruber博士は,ASDEX-U装置における,優しいELMをもった高性能プラズマ研究,内部輸送障壁をもった正負磁気シアー高性能プラズマ,新古典テアリングモードの研究,タングステン第一壁に関する研究が報告された。特に,第一壁の7割がタングステンで被われた状態でも不純物の問題は発生していないことは注目に値する。



2. 国際トカマク物理活動(ITPA)の成果と今後の課題

11/27(木)18:40〜
世話人:高村秀一(名大)二宮博正(原研)

 

 本ミーティングは,国際トカマク物理活動(ITPA)およびその国内活動基盤である物理クラスターの活動について議論することを目的としたものである。18時40分からの開始にもかかわらず60名を越える参加者があり盛会であった。

 初めにITPA調整委員の二宮より,10月に開催された調整委員会の結果を報告した。主な内容は,中国がITPAに参加したこと,国際トカマク物理活動とITER計画との連携を強化することがITERの移行活動準備委員会で議論されたこと,各トピカル物理グループの活動状況,今後の重要課題の選定・活動予定,昨年度より開始した幾つかの装置間で協力して進める課題をITPAで提案し,それを大型トカマク協力等の国際協力を利用して実施する研究が非常に大きな成果を出していること,新規メンバーの確認等である。

 次に核融合フォーラム物理クラスター世話人の高村より,14年度の活動状況,物理クラスターの役割(日本が主導的役割を果たすための活動助成,ITPAの日本の窓口(情報交換,緊急課題の提案・紹介,グループ間の連携),ITER関連の共同研究の提案),幹事会の設置,サブクラスターの設置について紹介した。

 引き続き,3つのトピカル物理グループより活動状況,今後の重要課題と予定の紹介があった。「輸送および内部輸送障壁の物理」(東井和夫氏)では,グループ名が「輸送物理」と幅広い名称になったことに伴う活動の重点の置き方等に関する議論がなされた。「周辺およびペデスタルの物理」(鎌田裕氏)では,欧米が実験結果を説明するモデリング研究に力を入れていることが紹介され,我が国としてどう考えるかの議論があった。また,現在進められている「トカマク物理基盤(Nuclear Fusion)」の執筆者の選考や結果の引用には,ITPA会合での貢献が重要であることが紹介され,「スクレイプ・オフ層およびダイバータの物理」(朝倉伸幸氏)でも,ITPA会合に単発的な参加をするだけでは発言権が得られず,継続的な参加・発表の重要性が指摘された。

 平成16年度始めに,7つのトピカル物理グループの内6つのグループの会合が那珂研で開催されるため,これらの会合と有機的に連携してサブクラスター会合を開催することが確認された。また,ITPAの状況,主要課題などの情報をもっと頻繁に国内コミュニティーに紹介してほしい旨の要望があり,対応を検討することとなった。



3. 核融合若手会員によるインフォーマルミーティング

11/27(木)
18:40〜 B会場  
世話人:竹永秀信(原研)

 昨年,一昨年に引き続き,プラズマ・核融合学会若手会員を対象にしたインフォーマルミーティングを開催した。本ミーティングは若手研究者が今後の核融合研究をどのように考えているか意見交換を行うこと,および若手研究者からの 意見発信の場を作ることを目的としている。また,若手研究者有志が集まり運 営を行っている“核融合若手”メーリングリスト (http://plasma.phys.s.u-tokyo.ac.jp/~ejiri/wakate.html参照)のオフラインミーティングも兼ねている。これまでは,若手研究者間の意見交換に重点を置いてきたのに対して,今回は大竹暁文部科学省核融合開発室長に出席をお願いし,若手研究者から大竹室長への意見発信に重点を置いた。集まった若手研究者(若干名の自称若手研究者を含む)は約60名と昨年の倍程度にまで達 した。

 最初に大竹室長から「期待される核融合と社会」という題で講演をしていただいた。核融合研究の予算,科学と社会の関わり(社会への説明義務),科学技術 は経済的な原動力となりうること等,現在の核融合研究の状況について1時間程度話をしていただいた。最後は,燃焼プラズマを是非見せてほしいと若手研究者へのエールで締めくくられた。

 その後,若手研究者から社会への説明責任,大学からITERへの参加形態等に関する質問があり,活発な意見交換が行われた。前者に関しては,具体的に,雑誌への掲載や学会のインフォーマルミーティングを利用した一般の人との意見交換等が考えられ,そういうことを草の根で一回やってみてはどうかとの提案がなされた。また,一般に説明する際は,発電のためのロジックを明確にし, 核融合研究がどこまで来ているか,メリットが何なのかをハッキリさせるべきとのコメントがなされた。後者に関しては,核融合研,核融合フォーラムなど のサポートを考えているとの回答がなされた。最後に,若手研究者から,お互いに相手に頼りすぎないことも大事であり,研究をする以上自分たちのレベル アップが重要であるとの意見が出された。今後とも,核融合若手メーリングリ ストを活用し,若手研究者と大竹室長との意見交換を継続していくことで合意 を得た。前日の夜にEUのITER誘致サイトがカダラッシュに一本化された状況の中,若手研究者との意見交換のため時間を割いていただいた大竹室長には,若手研究者一同感謝の意を表します。



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