第19回年会レポート
学会誌Vol.79-01掲載予定

Ver.11  2002.12.19

総 括

第19回年会実行委員長 高村秀一
同副委員長 田辺哲朗 

 標記年会が2002年11月26日〜29日,愛知県犬山市の国際観光センター「フロイデ」において開催され,538名という,最近では最高の参加者を得た。出席者が少ないのではと危惧していた現地実行委員会にとって,非常にうれしい誤算だった。会場は犬山駅のすぐ近くに位置し,名古屋からのアクセスも良く,また,年会開催に適した大きさであった。ほぼ全館貸し切りの状態で利用できたので、スムースに運営ができたと思っている。

 今年会の講演数は,特別講演1件、企画講演1件,レビュー講演1件,オーバービュー講演2件、国内招待講演22件,APS招待講演3件,学会賞受賞記念講演4件,一般講演304件であり,他にシンポジウム6件,学会関連報告会、インフォーマルミーティングが行われた。

 今回名古屋地区の特別企画として特別討論会「大学研究室におけるプラズマ・核融合研究のあり方」、特別シンポジウム「プラズマの基礎・応用研究最前線 −中部地区若手・中堅研究者の挑戦」が開催された。両者については、6件のシンポジウムとともに別途報告されている。

 学会賞受賞式,特別講演,特別企画などは約300名収容のA会場(フロイデホール)で、口頭発表やシンポジウムは,A,B会場で,プレポスター発表はA、B、Cの3会場で、ポスター発表は(D1,D2,D3)の3会場で行われた。各会場とも多数の参加者があり,討論も活発に行われた。今年会では、発表申し込み件数が多かったため、プレポスター発表の一部を3会場でのパラレルセッションにせざるを得なかった。関連講演が別会場で重ならないよう十分配慮したつもりであるが、不本意なセッションでの発表を余儀なくされた発表者にはお詫び申し上げる。また,ポスター発表の会場の表示で一部ご迷惑をおかけしたことを併せてお詫びする。

 特別講演では、後藤俊夫氏(名大院工学研究科長、応用物理学会会長)から「産官学連携の流れと学会・研究者」と題して、最近の社会から強い要請である“大学からの社会への情報発信、あるいは成果の還元”に対してどのように対処してくかについて、名古屋地区のおよび応用物理学会の取り組みを例としてわかりやすく解説された。また大学の独立行政法人化後に向けた、政府あるいは公共企業体からの出資金、あるいは外部資金等の獲得についても言及された。最後に「最近は“プラズマ”は産業のありとあるゆるところで使われており、核融合よりもはるかに認知度が高い。プラズマ・核融合学会もプラズマを取り込んで大きく発展してほしい」と本学会員にエールを送られた。

 企画講演では,大竹 暁 氏(文部科学省核融合開発室長)から「日本の核融合研究とITERの展望」と題し,核融合研究がエネルギー科学と認識される段階に来ており、大型施設を要する研究の重点化と核融合研究の一般社会への認知の働きかけが重要であること、およびITER政府間協議の進展の状況と4サイト候補地が紹介された。

 APS招待講演では,磁場閉じ込め、レーザー・物質相互作用、およびプラズマ基礎・応用の3分野についてそれぞれNon-diffusive Plasma Transport at Tokamak Edge ( S.I. Krasheninnikov氏, UCSD), Acceleration and focusing Ultra-Low Emittance Proton and Ion Beams with High Intensity Lasers (J. Fuchs氏, General Atomics), およびPhysics of Inductive RF Plasmas for Applications (V. A. Godyak氏, Osram Sylvania)の興味深い話題が紹介され、活発な質疑応答が行われた。(企画講演、APS講演座長 永見氏による報告)

レビュー講演では,三間圀興圀氏(阪大レーザー研)より「ペタワットレーザ−によるレーザー核融合のブレークスルー」と題して講演が行われた。高密度に圧縮した核融合燃料にペタワットレーザーを注入し,燃料が膨張で飛散する時間スケールより早く加熱することにより,点火・燃焼に至らしめるという高速点火は,欧米が進めている従来の中心点火方式に比べて,1/10以下のエネルギーで,炉心プラズマに必要な高い核融合利得を得ることができる,とのことである.最近の阪大の実験により1,000万度の加熱が行われ,核融合会議計画推進小委員会の設定したマイルストーンを達成したことをもって,核融合点火・燃焼の実証にすすめるべき段階に達したと報告された.また燃料ターゲットに中空のコーンを装着し,加熱用レーザーの通り道を確保するというアイディアが,この研究のブレークスルーとなった.講演に引き続き核融合炉成立に向けての活発な質疑が行われた。今回の学会における唯一のレビュー講演にしては,聴衆が60名程度と少なかったのが残念だった.(座長 疇地氏報告)

 

 オーバービュー講演では,まず26日に松岡啓介氏(核融合研)「LHD閉じ込め研究の新しい展開」が行われた。閉じ込め性能の磁場配位依存性や異常輸送則との比較、磁気丘配位におけるMHD安定性、内部輸送障壁の観測と電場および有理面の役割、磁気島に関する自発電流による修復効果の観測や内部の流れや輸送係数の観測、定常運転とダイバータープラズマの観測結果、高エネルギーイオンの生成、閉じ込めおよびアルヴェン固有モードの励起と相互作用、エルゴディック領域を持つプラズマにおけるH-mode研究の展望、ステラレーター系とトカマクの輸送・MHD研究の位置づけと展望等豊富なデータに基づく説得力のあるものであった。質疑応答ではLID(局所磁気島ダイバータ)による不純物シールド効果、磁気島内部の流れや輸送、磁気島の修復効果、磁気面の性質を閉じ込めスケーリングにどう反映するか、などについて活発な議論が行なわれた。(座長 東井氏報告)

 また 28日には,石田真一氏(原研)が,JT-60トカマク装置による先進トカマク実現へ向けたこれまでの成果と今後の計画と課題について一般参加者にもわかりやすく講演された。実現されたプラズマパラメータはもちろん、輸送障壁の形成や電流ホールなど高性能プラズマの自律性の高い現象も紹介され大変興味深い内容であった。先進トカマクを実現するためには、「高閉じ込め改善度」、「高規格化電子密度」、「高βN」、「高自発電流比率」、「高非誘導電流比率」、「高純度燃料比率」、「ダイバータによる高効率熱・粒子制御」などのプラズマ条件をすべてバランスよく実現しそれらを統合していく必要がある。JT-60においては各種加熱・電流駆動機器や新型ダイバータなどハードウエアの着実な開発の基盤の上にたってこれらの重要な課題に対し世界の最先端の成果をあげてきたことが豊富なデータで示された。現在、JT-60装置を全超伝導化することにより仮称「高ベータ・定常トカマク実験装置」へ改修し全日本の共同研究装置として利用しようとの計画が進行していることが紹介された。(座長 図子氏報告)

 懇親会は会場地下食堂で行われた。大竹核融合開発室長のご参加も得て、当日申し込みも入れて116名の参加をいただいた。当初は80名の予定で計画したため会場がやや狭く、また食べ物も少なかったとのご叱責もいただいたが,笹尾氏、長崎氏、坂本氏のスピーチも好評であり、概ね満足いただけたのではないかと自賛している。

 本大会では、特にE-mail環境の整備、パソコンからの映像投影の支援につとめた。幸い多くの参加者に喜んでいただくことができたようである。プロジェクタおよび書画カメラは核融合研から拝借したものであり、ご支援いただいた核融合研(現地委員 富田幸博氏)に深く感謝する。この年会の成功は,学会役員,事務局,プログラム委員会の皆様のご協力,さらに実務の労を惜しまず協力していただいた実行委員の力がなければあり得なかったもので、各位に心からお礼申し上げる。

 来年度の第20回年会は,2003年11月に日本原子力研究所を幹事法人として水戸市で行われる予定である。

(02.12.16受理)

シンポジウム       


I. 日本におけるNumerical Torus Projectを考える

11/26(火)
13:30〜15:00

座長:矢木雅敏(九大応力研)


 本シンポジウムは国内外の核融合シミュレーション研究の最近の動向を踏まえた上で,今後の核融合シミュレーション研究に対して,プロジェクト研究としてのひとつの方向性を示し,併せてそのようなプロジェクトを成功させるための研究戦略を議論し,解決すべき課題を明らかにすることを目的としている。

 最初に実験家から見たNumerical Torus Projectとはどのようなものか提示していただいた。主な提言は以下の3点に集約される。1)シミュレーションコードの信頼性の向上(そのためには実験データベースとの密接なリンクをとってモデルの妥当性の検証を行い,コード開発にフィードバックさせること,2) ヘリカルシステムも解析可能な一般性のあるコード開発,3) 最終目的としては核燃焼プラズマ(ITER)の予測が可能あること。

 次にプラズマの時空間階層構造を考慮したシミュレーション研究の2つの例を提示した。ひとつは大きなスケールから小さなスケールへ向かうアプローチとして輸送・MHDモデルによる熱パルスの非局所輸送解析であり,ボーム輸送に対する新しい視点を与えた。もうひとつの例は小さなスケールから大きなスケールへ向かうアプローチとして多スケールプラズマ乱流シミュレーションであり階層性の導入により多彩な輸送ダイナミクスの出現を示した。こういった大局的な視点に立つ研究が大規模並列計算機システムを使用することにより可能になりつつあること,従来型の要素還元論的研究から大局的視点にたつ研究へのパラダイムシフトが起こりつつあることを示した。

 最後に今後の課題と展望に関して議論した。国際的に競争力のある研究成果をあげるには,我が国の研究の特徴が生きるような推進が必要であり,理論とシミュレーションの協力研究の実績,大学と核融合研のモラルと実績,磁場配位を超えた普遍的な性質を探求する環境等を踏まえた上で学問的独自性を生かし,集約的研究を進めることがプロジェクト成功の秘訣であることが議論された。

 総合討論においては,シミュレーション結果と実験データとの比較に関して議論され,現時点ではシミュレーション可能なパラメータが必ずしも現実のパラメータに対応していない問題点,そのギャップを今後どのように埋めていくか,多階層的アプローチの他にも,実験データと直接対応しなくとも直接全システムを解くようなアプローチも併せて進めれば有意義ではないか,などの踏み込んだ議論がなされた。

(02.12.03受理)



II. トロイダルシステムにおける電流駆動・電流分布制御の新展開

11/27(水)
10:20〜11:50

座長:鎌田 裕(原研)

(0)主旨説明(原研 鎌田 裕):本シンポジウムでは,プラズマ電流に係わる新たな可能性の追求を題材に,トロイダルシステムの平衡・輸送・安定性に対する電流分布の役割を,強電流配位から無(弱)電流配位に亘って系統的に議論する。

(1)トカマクにおける電流分布制御と電流ホールの形成 (原研 藤田隆明):高い自発電流割合が必要な定常トカマク炉の炉心プラズマは電流と圧力の分布が強く連関する自律系となる。その理解と制御のため,輸送(内部輸送障壁形成等)や安定性に対する磁気シア分布効果の研究が進んでいる。JT-60Uでは,自発電流割合〜80%で内部輸送障壁を有する定常解の存在を示唆する結果や,外部駆動電流による良好な負磁気シア分布制御性を得た。また,プラズマ中心部に電流がほとんどゼロの領域(電流ホール)が形成され,これを安定に維持できることを発見した。さらに,電流ホール状態を保つ機構の存在が示唆された。

(2)中心ソレノイド(CS)コイルを用いないトカマク運転(東大 高瀬雄一): CSコイルを用いずにプラズマ電流の立ち上げと維持が可能であれば,コンパクトで高磁場のトカマク炉が構想できる。これは特に,球状トカマク炉にとって不可欠な運転である。大学および原研の共同チームによるJT-60Uの実験で,CSコイルを用いることなく,位置形状制御用コイルによる誘導電場とECHでプラズマを着火し,低域混成波および自発電流により電流を立ち上げ,自発電流割合>90%で高閉じ込めの先進トカマク運転を初めて実現した。

(3)PPCDによる逆磁場ピンチの閉じ込め向上実験(産総研 八木康之):最近,Pulsed Poloidal Current Drive (PPCD)により,顕著な閉じ込め改善(産総研TPE-RXでは5倍,米国MSTでは10倍)が得られた。これは,本来ダイナモ活動で駆動されるポロイダル電流を外部誘導で流すことで,ダイナモ活動の原因となる不安定性を抑制して輸送を改善する手法である。閉じ込め向上率は,磁場反転比FとピンチパラメータQの関数(1-F)/ Qとともに上昇する。

(4)ヘリオトロンにおけるプラズマ電流の位置付け(核融合研 渡邊清政):ヘリオトロンにおけるプラズマ電流は,安定性や輸送に影響を与えるため,プラズマの性能向上,あるいは物理機構解明のための制御ノブと位置づけられる。逆および順方向電流により,磁気井戸および磁気シアが変化し,交換型モードの安定性が改善あるいは劣化する。他のトロイダル配位との比較から,不安定性の成長および構造に対する電流および圧力駆動項の寄与が解明できる。無衝突領域での長パルス運転が可能なLHDは,自発電流や外部駆動電流の効果を研究できる大きな可能性を持つ。

(5)総合討論:各閉じ込め配位を代表する世界的装置を持つわが国の優れた環境を活かして,回転変換・磁気シア・磁気井戸等を通じたアプローチにより,トロイダルシステムの平衡・安定性・輸送を横断的に研究する試みを今後是非続けていくべきである。

(02.12.10受理)


以下はWebバージョン:

(0)主旨説明:鎌田 裕(原研)<--ビューグラフのPDF(69k)はこちら

プラズマ中に流れる電流とその空間分布(回転変換分布)は多様なトロイダル平衡を実現するとともに,輸送,安定性に本質的な役割を果たす。近年の電流駆動および電流分布制御手法の発展は,トロイダル磁場閉じ込めプラズマの様々な可能性を明らかにしている。本シンポジウムでは,トカマク,ヘリカル,RFPにおけるこのような新しい可能性について講演をお願いした。これらを題材に,電流および電流分布の役割を,強電流配位から無(弱)電流配位に亘って系統的に議論し,閉じ込め配位を横断する研究基盤の構築に貢献したい。

(1)トカマクにおける電流分布制御と電流ホールの形成:藤田隆明(原研)<--ビューグラフのPDF(719k)はこちら

経済的な定常トカマク核融合炉では,高い自発電流割合が必要であり,その炉心プラズマは,電流分布と圧力分布が互いに密接に連関し合う自律性が高い系となる。このため,低〜負磁気シアによる内部輸送障壁形成等の熱・粒子輸送,および高ベータ化に必要なMHD安定性に対して,電流(磁気シア)分布効果の定量化とその制御研究が進められている。JT-60では,自発電流割合〜80%で内部輸送障壁を有する高閉じ込め状態で定常解の存在を示唆する結果や,高自発電流割合(〜60%)での低域混成波および中性粒子ビーム(NB)による良好な負磁気シア分布制御性が得られた。また,JT-60とJETで,プラズマ中心部に電流がほとんどゼロの領域(電流ホール)が形成され,これが安定に維持できることが観測された。さらに,電流ホール状態を保つ機構の存在が示唆された。

(2)中心ソレノイドコイルを用いないトカマク運転:高瀬雄一(東大)<--ビューグラフのPDF(2.8M)はこちら

通常のトカマクの運転では,中心ソレノイドコイルを用いた電磁誘導でプラズマ電流の立ち上げおよび維持を行っている。もし,この中心ソレノイドコイルを用いない炉設計が可能であれば,コンパクトで高磁場のトカマク炉が構想できる。これは特に,球状トカマク炉にとっては不可欠な要請である。今回,国内の大学および原研の共同チームにより,JT-60Uにおいて,中心ソレノイドコイルを用いることなく以下の先進トカマク運転を初めて実現した。垂直位置および形状制御用コイルによる誘導電場,電子サイクロトロン共鳴加熱でプラズマを着火し,低域混成波による駆動電流および高パワー中性粒子ビーム入射による自発電流によりプラズマ電流立ち上げを実現し,自発電流割合>90%,ポロイダルベータ値=3.6,Hモードに対する閉じ込め改善度=1.6を得た。このとき,電流ホールのある負磁気シア配位となっている。

(3)PPCDによる逆磁場ピンチの閉じ込め向上実験:八木康之(産総研)<--ビューグラフのPDF(1.1M)はこちら

最近,逆磁場ピンチ(RFP)において,Pulsed Poloidal Current Drive (PPCD)により,顕著な閉じ込め改善が得られている。これは,本来ダイナモ活動による電場で駆動されているポロイダル電流を外部からの誘導で流すことにより,元々のダイナモ活動の原因となる不安定性を抑制して輸送を改善する手法である。本手法によるエネルギー閉じ込め時間の改善は顕著で,産総研のTPE-RXでは5倍,米国ウイスコンシン大のMSTでは10倍の改善度を得た。また,閉じ込め向上率は,RFPの平衡を特徴づける磁場反転比FとピンチパラメータQの関数(1-F)/ Qとともに上昇することがわかった。

(4)ヘリオトロンにおけるプラズマ電流の位置付け:渡邊清政(NIFS)<--ビューグラフのPDF(800k)はこちら

LHD,CHS,ヘリオトロンDR&E等の実験や理論計算を通じて,ヘリオトロン配位におけるプラズマ電流は,安定性や閉じ込めに影響を与えることが分かって来た。逆および順方向電流により,磁気井戸および磁気シアが影響を受け,交換型モードの安定性が改善あるいは劣化する。このように,プラズマ電流は磁気軸や磁気面形状制御と並ぶプラズマ性能向上のための制御ノブと位置付けることができる。また,MHD現象の物理機構解明のための制御ノブとも位置付けられる。他のトロイダル配位との比較によって,MHD安定性の成長・飽和および固有関数の空間構造等に対する電流駆動項と圧力駆動項の寄与の解明が期待できる。無衝突領域での長パルス運転が可能で,強力な中性粒子ビーム(NB)を備えたLHDは,自発電流やNB駆動電流の効果を研究できる大きな可能性を持っている。

(5)総合討論:

今回の講演では,各閉じ込め配位において,これまでの領域を超える試みで新しい可能性を提示している。また,磁気シア・回転変換・磁気井戸等を通じたアプローチにより,トロイダルシステムの平衡・安定性・輸送の物理研究が進展する。わが国には,各閉じ込め配位を代表する世界的な装置があり,このような横断的研究を行うための優れた環境がある。電流に着目してトロイダルシステムを横断的に研究する試みを今後是非続けていくべきである。

(02.12.10受理)


III. 核融合炉内外におけるトリチウム動態

11/27(水)
10:10〜12:10

座長 奥野健二 (静岡大)

 本シンポジウムは,プラズマ・核融合学会「核融合炉内外におけるトリチウムの回収技術」研究調査専門委員会(主査 西 正孝 原研)が本年5月をもって終了するにあたり,本委員会の研究調査結果を広く公表することは今後のトリチウム理工学およびトリチウム安全工学の発展に広く役立つのと考え,企画されたものである。発表は炉内機器,燃料システム,環境におけるトリチウム動態の3部から構成されていた。会場にはトリチウム関係者のみならず炉工,プラズマ関係者含め25名の参加があった。

 西 正孝氏(原研)から趣旨説明の後,正木 圭氏(原研)が炉内機器におけるトリチウム動態の視点から,JT-60重水素(DD)実験で使用した黒鉛タイルにつき,イメージングプレート (IP)法,燃焼法およびSEM観察による表面分析の結果のが報告された。IPによるダイバータタイル表面のトリチウム残留レベルは,ドーム頂部,外側バッフル板,外側第一壁で比較的高いレベルを示すことと,SEM観察では,堆積層分布とトリチウム分布との相関がないことが示された。軌道計算モンテカルロコ−ドによるDD反応で生成する高エネルギートリトンの軌道計算結果,リップル損失や軌道損失によりプラズマ対向材料に打ち込まれる損失粒子束分布はIPおよび燃焼法の結果と良く一致しており,トリチウム分布は堆積層には関係なくトリトンの粒子損失を反映していることが明らかにされた。

 山西敏彦氏(原研)からは燃料システム内におけるトリチウム動態の観点から,ITER燃料システムの紹介があり,これまでのITER工学R&Dの成果により,システムの許認可・設計に必要な研究開発が終了したとの認識が示された。今後の課題は,原型炉以降重要なシステムの開発(ブランケットトリチウム回収,トリチウム計量管理等)であり,許認可上真空容器内トリチウム量を保証しなければならないことが,増殖ブランケットを持つ原型炉以降深刻な問題であるとの認識が示された。増殖材中のトリチウム動態に関する研究もこの観点においても鍵となるとの認識が示された。

 環境におけるトリチウム動態の観点から先ず,一政祐輔氏(茨城大)から各大学および研究機関で行われている研究内容が簡単に紹介された。環境に関する研究では,大気中トリチウムの経年変化,環境水中トリチウム濃度の簡易自動測定装置の開発,トリチウムの線量評価モデル研究は,原研と放医研でモデルの検証が行われ,茨城大では重水を使った野外放出実験で,稲や果樹へのトリチウムの移行係数解析が進んでいることの紹介があった。生物影響では,低線量トリチウムの生物影響,放射線作用の生物に対する閾値存否,低線量放射線によるDNAの損傷の研究,および放射線損傷修復遺伝子の研究が集中的に行われていることが実験データを示しながら紹介された。続いて,百島則幸氏(熊本大)から核融合炉から放出されるトリチウムの化学形は,水蒸気,元素状水素,炭化水素が想定されており,核融合炉施設周辺大気についてそれらを分析することが必要になる。現在の大気には,既存の核施設から放出されたこれらの化学形のトリチウムがすでに存在しているので,バックグランドトリチウムの詳細な把握とより高感度な分析法の開発が求められるとの認識が示された。

 最後に,奥野健二(静岡大)から各論における研究の進展は目に見張るものがあるものの,トリチウム動態を一つのダイナミックスとして捉えるためには,それぞれ各論間の情報交換および共同研究を更に効率的に進めるための枠組みを構築していく必要があるのではないかとの認識が示された。

(02.12.10受理)


IV. 強力中性子源要素技術開発研究の成果

11/28(木)
10:30〜12:40

座長:室賀健夫(核融合研)


 本シンポジウムは,大学と原研の連携協力で進められている「強力中性子源要素技術確証試験」が3年計画の最終年度となり,成果のまとめの時期に至ったのを受けて,広く成果を公表し今後の進め方について議論する機会として企画された。会場には,材料,炉工学関係者だけでなく,プラズマ分野の専門家も含め約70名が参加した。

 最初に松井秀樹氏(東北大)が,強力中性子源IFMIFの国際協力計画,国内計画について説明した。「要素技術確証試験」は,大学と原研が役割分担し,協力して強力中性子源の技術確証を行なうもので,大学では,核融合研が取りまとめ役となり,大学の経験・資産を有効利用した目的型研究を進めている。

 続いて,渡邉和弘氏,前原 直氏(原研)より,イオン源およびRFQ加速器の開発状況についてそれぞれ報告がなされた。イオン源では多極磁場型とマイクロ波型の比較検討が,RFQではモックアップと解析の比較が行なわれ,それぞれ次段階へ進むのに必要なデータベースが蓄積されつつある。

 液体リチウムターゲットについては,堀池 寛氏(阪大工)より自由表面流動試験が,米岡俊明氏(田中 知氏代理,東大工)よりリチウム純化試験が報告された。自由表面流動試験では,阪大の液体Liループを改造し,IFMIFの流速条件での自由表面流の安定生成に成功した。純化試験では,V−Ti合金,Crによる窒素不純物低減が実証された。

 試料照射部(テストセル)については,清水昭比古氏(九大総理工)よりガス冷却温度制御が,栗下裕明氏(東北大金研),木村晃彦氏(京大エネ研)により微小試験片技術開発が報告された。ガス冷却温度制御では,数値計算と実測に基き,冷却性能を上げ温度分布を均一化し,測定精度を上げるテストセルの構造が提案された。微小試験技術開発においては,3点曲げ試験片およびCT試験片による破壊靭性値のサイズ依存性が調べられ,微小試験片による評価の信頼性を高めるデータベースが構築されつつある。

 最後に竹内 浩氏(原研)より,要素技術確証試験の成果のまとめとIFMIF計画の次段階であるEVEDA(工学実証・工学設計段階)の試験計画,および建設,照射試験への展望がITER,発電実証炉計画との関連のもと説明された。ディスカッションにおいては,強力中性子源の有効利用に向けて広く研究計画を立案する活動を進める必要性が指摘された。強力中性子源の動向,および装置開発研究の進展については,今後も報告と議論の場を設けることを確認して終了した。

(02.12.06受理)



V. 高速点火慣性核融合炉の課題とロードマップ

11/29(金)
14:45〜16:15

座長 苫米地 顕(電中研名誉研究顧問)


 慣性核融合は,炉心ターゲット,レーザー,炉チェンバーという主要要素を独立して開発できるという特徴をもっている.さらに,最近の高速点火方式の物理解明の進展により,装置の小型化・低コスト化の可能性があることがわかってきた.このシンポジウムでは,前回の年会におけるシンポジウム「慣性核融合炉実現の条件と課題」において指摘された課題をベースに,高速点火について主要要素毎に現状をまとめ,今後の研究や開発ロードマップについて議論を行った.

 まず疇地 宏氏(阪大)から炉心プラズマに関してコーン付きペレットのエネルギーカップリング,圧縮に関しては動力炉の必要条件に到達できる見通しであるとの説明があった.宮永憲明氏(阪大)からはレーザードライバーに関して,半導体レーザー,伝送系,最終光学系について説明があった.3年をめどに100J×10Hzレーザーを開発,その後1KJへの開発はスケーラブルであるとのことであった.乗松孝好氏(阪大)からはターゲットについて説明があり,コーン付きターゲットでもチャンバー投入後に融けることは無いとのことであった.また,ターゲット製作費は中心点火で10c,高速点火(コーン無し)で11cとの米国の検討例が紹介された.最期に神前康次氏(阪大)より高速点火方式を用いた慣性核融合炉開発方針とそのロードマップが紹介され,2015年には高繰り返し照射の正味電気出力数MWの小型実験炉が可能であるとのことであった.

 これらの発表に対して以下のような質問・コメントがあった.岡野邦彦氏(電中研)からエネルギーカップリング率20%のために必要なトラッキングの精度について質問があり,数100ミクロンの精度が目安でありそのような制御は可能であると考えているとの回答があった.また,岸本泰明氏(原研)からは将来的にレーザー照射時間が0.5psから10psと時定数が延びた場合,相互作用等影響が発現し物理が変わるのではないかとの質問があり,現在の理解ではパルス強度の依存性が大きく,パルス幅には影響が無いとの回答があった.また,レーザーについてガラスのような結晶製造技術開発には10年程度かかる.今から核融合に使える物質を探して開発すべきではないかとのコメントがあった.三間圀興氏(阪大)から2ωで爆縮できないのかとの質問があり,レイリーテーラ不安定性の観点から将来的に難しいが,可能ならリアクター設計は楽になるとの事であった.苫米地氏(電中研)からはコーン自体の値段について質問があり,米国の例で2,3円とのことであった.相良明男氏(核融合研)からはFFHRやITERの設計例を下に安全性の観点からトリチウムバウンダリーについて慣性核融合でも今から厳密な検討を行った方が良いとのコメントがあった. 上田良夫氏(阪大)はプラズマ壁相互作用の観点から個体タングステン壁の例についてHeの熱脆化,またターゲットの組成中の炭素Cの炉壁の付着,さらにタングステンコーンの場合,内部ストレスが残る可能性があるとのコメントがあった.最後に永見正幸氏(原研)から,材料開発のスケジュールについて質問があり,実験炉建設は現在の材料で可能であり,それをVNSとしても活用し材料開発を行うとのことであった.

(02.12.09受理)



VI. レーザーアブレーションプラズマの基礎と応用

11/29(金)
14:40〜16:10

座長:岡田龍雄(九大)

 レーザーアブレーションは,すでにエレクトロニクス分野の微細加工など産業レベルで利用され,今後新材料創製や医療など新たな応用が期待されている。一方,アブレーション現象は固体・光・荷電粒子・原子間の各種相互作用を含み,その特性時間もフェムト秒領域にいたる広範な基礎現象を含んでおり,プラズマ分野の研究者と関係の深い学際的な研究分野である。本シンポジウムは3件と限られた講演数ではあるが,基礎から応用までの話題を取り上げた。

 まず,緒方氏(東工大)が「CIP法によるレーザーアブレーション過程のシミュレーション」の講演を行い,東工大の矢部氏らにより開発されたCIP法によるアブレーション過程のシミュレーション結果を実験結果と比較しながら,CIP法の有効性を報告した。レーザー光吸収の物理過程の精密化や,実験とのより厳密な比較を通して,シミュレーションがアブレーション現象の理解に有用な情報を提供することを期待する。

 次に,岡田氏(九大)が「レーザーアブレーションによるナノ微粒子の生成と画像計測」の講演を行い,ZnOナノロッドの作製を例にアブレーションによる材料創製でのナノ微粒子挙動解明の重要性を指摘し、そのために最近開発したReD-LIFと名付けた可視化計測法を紹介した。ReD-LIF法はナノ微粒子をレーザー光で気化して発生した原子をLIFで可視化するものであるが,この過程はプラズマ中に入射されたペレット挙動と共通する点もあるのではないかとの指摘が会場よりあり,計測も含めて今後連携が期待される。

 最後に,東氏(豊田中研)が「レーザーアブレーションプラズマのEUV光源への応用」と題した講演を行った。2007年に量産化される50nmノードの半導体デバイス製造では,リソグラフィー工程に波長13nmのEUV光が用いられる。レーザーアブレーションプラズマはEUV光源の候補のひとつであり,その開発の現状が報告された。Sn, Cuなどの金属をターゲット材に用いると,EUV光量は最も取れやすいがデブリの発生が多い欠点がある。一方,Xeガスをターゲットに用いるとデブリの発生は抑制できるが,EUV光量が低下する点が欠点となる。

 最後に,本シンポジウム全体に関する討論が行われ,プラズマ・核融合学会においてレーザーアブレーションプラズマをトピックスに取り上げることは大変有意義であるとの意見が会場から出された。末尾ですが,本企画の実施に多大の協力をいただいた佐々木浩一氏(名古屋大)に感謝いたします。

(02.12.07受理)

 

インフォーマルミーティング             

 1) 核融合若手会員によるインフォーマルミーティング

11/26(火)19:10〜
世話人:長崎百伸(京大エネ理工研)


 昨年度に引き続き,プラズマ・核融合学会若手会員を対象にしたインフォーマルミーティングを開催した。本ミーティングはプラズマ・核融合学会若手会員が今後の核融合研究をどのように考えているか意見交換を行うこと,および,若手からの意見発信のきっかけを作ることを目的としている。また,若手有志が集まり運営を行っている“核融合若手”メーリングリスト(http://plasma.phys.s.u-tokyo.ac.jp/~ejiri/wakate.html参照)のオフラインミーティングも兼ねている。開催時間が19時と遅いこともあり参加者は約30名と昨年よりやや少なめではあったが,会場閉館時間の21時まで活発な意見交換がなされた。

 最初に竹永秀信氏(原研)より本ミーティングの趣旨説明があり,その後,松本太郎氏(原研)よりITER計画の進捗状況,庄司 主氏(核融合研)より核融合ネットワークの活動状況,長崎百伸(京大エネ理工研)より核融合ワーキンググループでの論点,江尻 晶氏(東大新領域)より核融合フォーラムの活動状況,最後に竹永氏より,その他の各種委員会・会議に関する報告がなされた。報告後にフリーディスカッションが行われ,メーリングリストの活動の活発化に関する方策や共同研究のあり方について意見が出された。特に身近な問題として,LHDと大学間の共同研究の活発化,大学での核融合実験の機会が減った場合の学生教育等の問題提起がなされ,また,今後,一般社会への啓蒙活動が重要となるとの指摘がされた。若手としての意見の集約を行い,核融合コミュニティーへの発信を行ってはどうかという提案があったが,最終的な結論に至っていない。しかしながら,昨年のアンケート調査のような何らかのアクションプランが必要と思われる。

 インフォーマルミーティング資料は近日中に上記ウェブに掲載される予定である。核融合若手メーリングリストに関する問い合わせはメールアドレスfusion-wakate-kanji@fusion.naka.jaeri.go.jpまで。

(02.12.5受理)

 2) 核燃焼統合コード準備会

11/28(木)15:40〜17:10
世話人:福山 淳(京大)


 磁気閉じ込め核融合の研究において,核燃焼プラズマ全体の時間発展シミュレーションの必要性は以前から認識されているが,実験・理論・シミュレーション研究の進展に伴って,その現実性が高まりつつある.これまでに開発された個々の現象を解析するシミュレーションコードの連携を図り,計算科学の新しい成果を取り入れた統合コードを開発する Fusion Simulation Project が米国で提案され(http://www.ifofs.info/),欧州でも同様の試みが始まりつつある。今回のインフォーマルミーティングでは,理論・シミュレーション研究者13名が出席し,我が国における核燃焼プラズマ統合コード構想の内容および進め方等について議論を行った。学会初日に開かれた Numerical TorusProject に関するシンポジウムのまとめ(矢木)および趣旨説明(福山)に引き続いてフリーディスカッションに移り,途中で場所を変えて,計約2時間の討論を行った。議論の主な内容は以下のとおり。これまでの経緯および議論の詳細は,http://p-grp.nucleng.kyoto-u.ac.jp/bpsi/ に掲載されている。

 核燃焼プラズマ統合コードの内容については,さまざまな考え方がある。今回の構想では,なるべく多くの考え方を取り入れるとともに,数年後には成果を出す方向で,平衡・輸送コードをベースにした磁気核融合プラズマ時間発展解析コードを中心に考える。当面の活動としては,1) コアコードを整備し公開するとともに,既存の各種シミュレーションコードとのデータインターフェースの共通化をワーキンググループで検討する。2) 統合シミュレーションに必要な物理課題を抽出し,ワーキンググループで集中的に検討する。3) 新しい計算技術の導入に向けた研究会を開催する。なお第一原理に基づく大型数値シミュレーションについては,当面はその初期条件を供給する等のゆるやかな結合を考える。活動の進め方については,今年度は自主的な活動であり,各種研究会等を活用するとともに,来年度に向けて核融合研や九大応力研の共同研究等に応募することになった。

(02.12.9受理)

 3) 国際トカマク物理活動(ITPA)の成果と今後の課題

11/28(木)18:45〜
世話人:二宮博正(原研)


 本ミーティングは,昨年開始された国際トカマク物理活動(ITPA)について議論す ることを目的としたものである。夕刻からの開始にもかかわらず40名を越える参加者 があった。初めに調整委員会委員の高村秀一氏(名大)より,9月に開催された調整 委員会の結果として,各トピカル物理グループの活動状況,今後の重要課題の選定, 活動予定,「ITER物理基盤」改訂版のNuclear Fusionへの投稿,新規メンバーの確認 とステラレータコミュニティ-からの参加メンバーの報告があった。

 引き続き,4つのトピカル物理グループより活動状況,今後の重要課題と予定の紹 介があった。「閉じ込めデータベースとモデリング」(滝塚知典氏)では,分布デー タベースの充実,比例則の理解の進展,および我が国におけるモデリング活動の活性化 と核燃焼プラズマ統合コード検討会への期待等の議論があった。「計測」(河野康則 氏)では,計測関係の議論は欧州が先行しており,わが国としての戦略的な対応の必 要性について,核融合フォーラムへの期待も含めた議論が行われた。「定常運転および 高エネルギー粒子」(福山 淳氏)では自己組織化されたプラズマの制御法やこのグル ープから見た計測機器への要求をどのように行っていくかの議論が,「MHD,ディス ラプションおよび制御」(河野康則氏)では,小型装置で行われている抵抗性壁モード の大型装置への外挿性や国内の小型装置を用いた安定化実験への期待が述べられた。

 今後も様々な機会を見つけて国際トカマク物理活動に関する報告・議論を行い,各 トピカル物理グループの国内基盤を固めていくことになった。また, http://www-jt60.naka.jaeri.go.jp/ITPA/index.htmlhttp://www.aug.ipp.mpg.de/itpa/でITPAの活動状況を入手できることが紹介され た。

(02.12.6受理)


(C)Copyright 2002 The Japan Society of Plasma Science and Nuclear Fusion Research.
All rights reserved.